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部数で考えてみる

最初にPOSデータや売行調査の話がありますが、本題は「金額ではなく部数で考えてみる」の見出し以降になります。なので、本題から読みたい方はそちらからどうぞ。


POSデータと部数の視点

POSデータが普及する以前に雑誌の売行調査を担当していました。発売後一週目と二週目に書店に伺って店頭の在庫数をチェックします。大型店で数ヶ所で置いていただいている場合は全部の場所の在庫を数えます。ストックやバックヤードに在庫が保管してあればそれももちろん数えます。お、売れてるなと思ったら後から在庫が見つかることもしばしばでした。一日で回るので限度もあります。店舗数が少ないと信憑性がどうこうという話になるので電話やFAXでの調査店を増やすことになります。最終的には隔月刊なども含めてけっこうな数の調査を行っていました。それをひとりでこなしているので日々の仕事がほとんど売行調査なんじゃないかぐらいの忙しさになります。正直不毛だなと感じていました。そんな頃にPOSデータの利用が始まりました。救われました。

売行調査は部数で行います。なので、自分の頭の中では常に部数で考える癖がつきます。POSデータが導入されてからも見える数字は部数です。当然ながら、データを元に作る資料も部数が基準です。

その頃、他社の先達の皆様からは「部数ではなく金額で考えろ」と散々ご指摘いただきました。確かに部数だけ見て金額を見ないと利益に意識が向きません。POSデータと金額を結びつけることはエクセルでも可能ですがデータベースを使ったほうがより手軽で確実です。そんなことから徐々にデータベースを使うようになったりもしました。

転職して雑誌から離れた後に驚いたのは、POSデータを使っていない社では実売部数がわからないので必然的に金額で考える習慣になっているということでした。ただし、実売がわからない状態での金額というのは納品額から返品額を引いた数字になります。それはそれで実売とはまた違う視点です。実売を前提とした金額を考えるのはPOSデータが無かった頃には案外難しいことでした。

その後、POSデータが当たり前になり納返品のデータとも統合できるようになり、ようやくトータルで個別アイテムの金額について考えられるようになってきました。それからさらに時間が経って全体の数字を見る立場になると個別アイテムの冊数や金額以上に売上の金額が気になるようになります。とはいえ、増刷の決定や販促、広告宣伝の際には個別アイテムの実売だけでなく市中在庫や倉庫の在庫数も含めて考える必要があります。要は金額を考えろと言っても部数も考えないといけないタイミングは多々あるということです。

金額ではなく部数で考えてみる

ということで、ここからが本題です。

コミックは数年前に電子書籍が紙の販売金額を上回ったそうです。電子書籍の8割から9割ぐらいがコミックなので、そういう意味ではそうなんだろうなあという感じです。

つい最近、「コミックの電子書籍の販売金額シェアは7割」という記事を見ました。この記事自体は販売金額のシェアを話題にしているわけではないのですが、そこ、非常に気になりました。

電子書籍の販売金額が7割(近く)ということは、紙の本の販売金額は3割ということです。その3割のうちにアマゾンや楽天ブックスなどのオンライン書店が含まれます。オンライン書店での販売比率、コミックはどれぐらいなのか正確なところはわかりませんが、例えば紙の本の販売の3割がオンライン販売だとすると、リアル書店での販売金額は紙の本の7割、ということは、電子書籍を含むコミック全体の販売金額で見るとリアル書店での販売金額は約2割ということになります。

この記事、内容はペイウォールの向こうなので読んでいないのですが、紙の本が3割から一気にリアル書店のシェアを考えて頭がいっぱいになりました。なるほど、コミックを出している大手出版社はこういう数字を念頭に置いているのかと。

これは金額ですが、部数で考えるともう少し違う視点も見えてきます。電子コミックは思いきった割引や無料のためし読みでの販促が一般的です。読み放題などでは一話あたりの単価は単行本での購入よりもかなり安くなっているはずです。待てば無料という仕組みでほとんどお金を払わずに読んでいる読者も少なくないようです。

ということはつまり、読まれている部数(話数?)で考えると、もはや電子のほうが圧倒的な可能性まであるということになります。

これに海外読者が乗ってきます。コミックを出している大手出版社にとって、国内のリアル書店での紙の本の販売はどういう位置付けになっているのか。色々漏れ聞こえてくる現状からすると、何やら不穏な気配も感じます。

金額ではなく部数で考えてみる(書籍のみの出版社の場合)

前段はコミックの話題でしたが、ここではコミックも雑誌も扱っていない書籍のみの出版社について考えてみます。実際には書籍のみの出版社も、専門書の世界であっても、非常に幅があります。なので、図書館からの購入に重点を置いている小出版社の例をモデル的に考えてみます(具体的な出版社の数字ではありませんのであしからずご了承ください)。なお、電子書籍についてもジャンルや個々の出版社の取組によって大きく異なりますが書籍のみの小出版社の現状では金額的に微々たるもの(献本と変わらないぐらい?)であることも多いようなので今回は除外して考えています。電子書籍を含めて考えた場合は前段のコミックの話題がわかりやすいのでそちらをご覧ください。

専門書は昨今初版の刷部数が減っていますが、今回は1500部からスタートとします。

1割程度(150冊前後)が図書館だとします。専門書の場合は意外と採用検討用や書評用など含め献本が多い場合も。まあ、昔みたいに無分別に献本や見本を送ってはいないとは思います。それでも例えば45冊献本すると刷部数に対して3%になります。なんだか気前がいい社だと5%ぐらいは送っているかもしれません。

残りが全部売れるわけではありません。専門書の場合は増刷しないで終わりという本も多いです。損益分岐をどのぐらいに設定しているかは社によって異なりますが、さすがに最近は「増刷しないと赤字」にはしていないと思います。なので、6割がた売れたらトントンぐらいで考えてみます。

既に図書館で一割程度売れているので刷部数の半分(750)の実売でなんとかトントン。専門書出版社でもオンライン書店の比率は上がっているはずなので、実売の3割(225)がオンライン書店だとするとリアル書店は実売の7割、刷部数に対してだと3割5分(525)ということになります。リアル書店でこの数字の実売を上げるためにはある程度の納品が必要です。返品率30%とすると750部の納品で実売525部ですが、これだと市中在庫がゼロになります。なので実際にはもう少し納品が上乗せされます。800部ぐらいと見ておきましょう(返品240、実売525、市中在庫35)。

まとめます。

刷部数    1500
図書館     150
献本       45
リアル書店納品 800(実売525、市中在庫35)
(リアル書店返品 240(納品に対して30%))
オンライン書店 225
倉庫の在庫   280
(返品入庫後   520)

これがリアルかどうかは判断が分かれるところだと思います。考え方の叩き台的に見ていただけると幸いです。

さて、この数字の正確性について色々と異論反論あるかと思いますが、問題はこれぐらいの売れ方の場合のリアル書店での位置付けです。皆さんはどう考えますか?

まったく蛇足ですが、弊社は「リアル書店での売上が間違いなく最大になるであろう『実用書』ジャンルの出版社」です。正直、文芸よりもビジネス書よりもリアル書店の比率は高いんじゃないかなあ。図書館はあんまり買ってくれませんしね。あ、でも児童書には負けるかも。でも児童書は図書館とオンライン書店でもけっこう強いからなあ。実用書はリアル書店に置いてもらえないと本当に吹っ飛びます。よろしくお願いいたします。

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