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「新規」事業開発を考える

企業の新規事業開発を進めていく中で、「新規」と呼ぶことの意味について考えさせられることもあると思う。元々は全く新しい領域をゼロベースで考えるというところから話が来ていたが、プロジェクトを進めていく中でスコープの中で会社の既存ビジネスとの整合性や自社の優位性などを考慮しだすと実は思ったほど新規ではなく既存の延長上のものになることも多いのではと感じることもある。もちろんこれは既存のビジネスを進めていく中で出てきたものではないので「新規」と言うこともいえなくはないのだろうが、果たして初期に想定していた「新規」事業かというとなんだか素直に頷けないものがある。

では果たして新規事業とはなんなのだろうか。そもそもイノベーションと声高に叫ばれる中で果たしてどこまで「新規」事業に取り組む必要があるのかというのは改めて考えないといけないタイミングに自分自身きている。いくつか補助線を引きながら本件について考えてみたい。

例えば経営戦略を考える上で有名なフレームワークとして「アンゾフのマトリックス」がある。

ここでは市場の既存・新規と製品の既存・新規で4つの象限に区分して、その中で新規製品×既存市場を「新商品開発」と定義している。しかし、新規事業開発と言ったときに想定されるのは新規製品×新規市場の「(狭義)の多角化」であり、これはそもそも新規事業開発を行う上での経営戦略自体が通常の事業を越えた展開を目指していることを指している。新規事業開発というのは本来経営戦略上の大きな方向性の元に位置付けられるということがわかるだろう。ここまで来ると相当重い意思決定が必要な話にも聞こえてくる。ただ、こうした方向性が無いまま進んでいく新規事業開発が明らかにしていくのは、実は既存ビジネスが展開できる新しい領域だったり、既存の顧客向けの新しい事業だったりといったこともある。これはマトリックス上の既存製品×既存市場以外の領域を指している。そういう意味ではこの幅の広さは両利きの経営で言うところの「知の探索」によって生じている結果と言うこともできる。ただ、果たしてそもそもこういった幅が初期に求められているものかというとそうではなかったということもあるのではないか。

そんな中で参考になる本を見つけた。

ここでは大企業の新規事業の進め方を「課題×解決策のオプション」と捉え、そこに「昨日から存在している世界」と「今日から新たに加わった世界」という時間軸の変化を入れながら新規事業の可能性を示している。

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また、企業側から見た時の新規事業のあり方を「事業領域×スキル・アセット」で位置付けして、既存事業領域×既存スキル・アセットから片方をずらすことで事業を考えることを提案している。

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ここでは新規課題×新規ソリューションをほぼ起こりえないと決めた上で(それは私もそう思う)、成功確率の高い新規事業は以下の3つのパターンになると考えられる。
①既存課題×新規ソリューション(新規領域, 既存スキル・アセット)
②既存課題×新規ソリューション(既存領域, 新規スキル・アセット)
③新規課題×既存ソリューション(既存領域, 既存スキル・アセット)

このパターンを考えると新規事業と言ったときにどの方向で検討すべきか意識できることで解像度が上がると同時に、PJとして進めやすいものになってくると思う。この議論のポイントとしては、顧客の課題も大事だが、自社のリソースや強みを強く意識することである。結局できないことやその会社がやる意味がないことは実行されない。そのリスクを回避するためにも「新規」事業開発を進める上で初期のスコープのクリア化、またPJの進め方をゴールに合わせて意識する必要がある。

「新規事業開発」という言葉が出てきたときに「新規製品」×「新規事業」でやるのか、それをやる場合はどうPJとしてリリースまで持っていくのか含めて事前に検討しておかないといつのまにかPJ自体が消えてしまい、「新規事業開発」という名の他の新規事業の取り組みすら会社で進められなくなる恐れがある。新規事業の取り組みに銀の弾丸はない。ここでの期待値やゴール感をはっきりさせることが「新規」事業開発をする大きなポイントだと感じている。

<参考文献>
並木裕太. ズラシ戦略 今の強みを別のマーケットに生かす新しいビジネスの新しいつくりかた(2019).ディスカヴァー・トゥエンティワン

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