【コロナ禍】江戸川区/緊急事態宣言下の図書館/職員が思いを小冊子に【無料公開】

《都政新報2020年8月28日号に掲載》

 コロナ禍での緊急事態宣言で突然、図書館が休館となった。図書館員たちは家でどんな気持ちで本を読んだのか、あるいは読まなかったか─。江戸川区立篠崎図書館と篠崎子ども図書館の図書館員20人がその時の記録をエッセーとしてまとめた。『図書館員が屋根のしたで読んだ本の話』として500部印刷。デジタルアーカイブADEAC(アデアック)でも公開している。

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 江戸川区は12ある区立図書館の運営を全て指定管理者に委託。篠崎図書館と篠崎子ども図書館は図書館流通センター(TRC)が運営している。

 区内の図書館は、新型コロナ感染者が増える中、3月2日から利用者の書架への立ち入りを制限。都営新宿線篠崎駅に直結する篠崎図書館は、平時は午後9時30分まで開館し、仕事帰りの利用者も多かったが、同月28日からは開館時間も午後5時までとなった。

 4月7日、政府が緊急事態宣言を発令すると翌日から全館休館となった。2館の館長を務める波多野吾紅さんは「在宅勤務となり、職員に何か残ることをやってもらいたかった。この時の気分を残しておこうと職員からの提案で始めた」と話す。

 20人のエッセーはタイトルのみで作者名はあえて入れていない。

 休館が急に決まり、困惑した気持ちをある図書館員は「わたしが穴ぐらにいた頃」というエッセーに書いた。

 ある日とつぜん図書館が臨時休館になり、全員が在宅勤務になった。在宅でできる図書館の仕事ってなんだろう。そんな事をゆっくり考える余裕はなく、自宅でできる仕事をスタッフにお願いしなければならない。

 スタッフと仕事の連絡をメールでやり取りする。外出できないかわりに自宅で子どもたちと遊んだり、普段できないことをしていると連絡をもらい、穴ぐらに住む家族が浮かんだ。

 はるか太古の昔、穴ぐらの家族は狩りに出ることもできずに鬱屈とした日々を過ごしているが、ときおり家族でごく私的な遊びに興じる……。そんな事を想像していると「人類はこうやって危機を乗り越えてきたんじゃないか」。

 テレビをつければ新型コロナ関連のニュースばかりで気が滅入り、軽めのミステリーを読もうとしても楽しめなかった職員もいる。

 本が悪いのではなく、自分の気分の問題だ。日常が日常であってこそ、物語の世界を楽しめるのだなと実感する。

 初めての在宅勤務に給料は出るのかという指定管理者ゆえの不安ものぞく。

 しばらくの間、あまり本を読もうとは正直思わなかった。なぜかと言われるとはっきり答えられないのだが、おそらく今後1カ月近くにわたり外出を自粛するに当たって、必要なものは何かとか、仕事は(給料はどうなるんだろうかとか)、世間はどういう状態になっているのかとか、そういうことに気を取られていて、さあ時間ができた本を読もう、という気分になれなかった。

 4月27日から図書館の貸し出しサービスを郵送で始めることになり、2~5人出勤を再開する。5月27日、緊急事態宣言解除に伴い開館。当面は予約資料の貸し出しと返却のみを受け付ける一方、開館時間は通常に戻った。

 6月1日からはほぼ通常通りのサービスを再開しているが、利用者には滞在を2時間程度にとどめてもらい、間隔を空けるため座席数も半減している。再開直後は返却本を全て消毒していたが、今は入り口で手を消毒して入館してもらうことにした。

 また、毎月のテーマ別図書資料展示コーナーを、6月は「伝統工芸」にしたところ貸出率はいまひとつだったことから、7月は比較的読みやすい「映画やテレビの原作本」、8月は「ほっとする時間」にした。波多野館長は「利用者の方がいつもと違う生活を過ごさなければならないことを考えて、読んで癒やされる資料を集めた」と話している。