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GDM イベント レポート: TSUKURE!! MY BOOK!!

GDM初の一般公開イベント「TSUKURE!! MY BOOK!!」を、8月10、11日の2日間にわたり土佐市複合文化施設「つなーで」にて開催した。昨年度に続き、東京でリソグラフスタジオを運営するHand Saw Pressを講師として招き、リソグラフを使って自分だけのオリジナルの本(ZINE)をつくるワークショップを実施。午前の部はGDMメンバー(高知学芸高校の美術部員)がワークショップの参加者として本づくりを体験し、午後は同じプログラムを一般向けに開き、GDMメンバーは会場スタッフとしてイベントを運営する役を担った。

TSUKURE!! MY BOOK!! 〜リソグラフでオリジナルの本を作るワークショップ〜
日程:2023年8月10日(木)、11日(金・祝) 9:30〜17:00
参加者(2日間 延べ人数):69人
会場:つなーで 1F ギャラリー

企画 
プログラムは、GDMの月1ワークショップ後に行っているフリーディスカッションの時間にて、有志のメンバーで構成される実行委員会の手により組み立てられてきた。どんな世代でも、絵が得意でも苦手でも、どんな人にとっても新鮮な体験が生まれるようなプログラム、というなかなか難しいお題に対して、「自分のページをつくる」ことと「自分のページと他の人がつくったページとを組み合わせる」ことという二つの体験を含んだプログラムに決まった。自分の力でつくる喜びと、他者と関わってつくる驚き、このふたつの両立を狙う。

以下が本をつくるプログラムである。

[TSUKURE!! MY BOOK!! ルール]
① まずは、自分のページを“デザイン”する。サイズはA4二つ折りで仕上がりはA5となる想定。普通紙の上にトレーシングペーパーを重ねて2版をつくる。

② 次に、リソグラフでプリントする。色数は各版それぞれに1色ずつで計2色。ひとつのページにつき30部を印刷する(10部持ち帰り/20部寄贈)。

③ 続いて、自分がつくったページと一緒に自分の本に入れたい他の参加者がつくったページを選ぶ。自分のページと似たイメージのものを選んだり、まったく異なるものを選んだり、本の中身を“編集”する。

④ 最後に、表紙のテンプレートに“タイトル”を書き込み、ホチキスでとめて、自分のオリジナルの本が完成。

*本は2冊以上制作してもらい、そのうち1冊は寄贈してもらう

設営 
初日の朝8時30分。実行委員会のメンバーが一足先に会場入りする。台風の影響で外は土砂降り。実行委員メンバーと共に美術部顧問の古田先生、ゲスト講師であるHand Saw Pressの安藤さん、レイさん、小田さん、飛び入り参加となった高知国際高校からの3名の高校生、そしてわくせいの阿部航太、美香が集合して設営を開始する。今回はプリンター、テーブル、椅子、有孔パネルを並べるだけのとてもシンプルなもの。メンバーたちに配置図面をわたして、それに準じて什器をレイアウトしていく。

高校生ワークショップ:レクチャー 
実行委員以外のメンバーも集結し、高校生向けのワークショップが開講。最初はHand Saw Pressの安藤さん、レイさんからリソグラフ界隈のカルチャーについてのレクチャー。「リソグラフは世界中にファンがいて、リソを使うことでその人たちと友達になれる」と話す安藤さん。そして、レイさんからは自身で制作したトランスジェンダーにまつわるZINEについての説明がなされる。これから扱うこの「リソグラフ」というツールは世界に繋がっている。短い時間ではあるけれど、少しでもそのスケールが高校生たちに届いたなら。

高校生ワークショップ:製作 
各々のページを製作する。メンバーたちはスムーズに作業に入っているように見えたが、GDM#3のワークショップで2色印刷とそのための分版について学んだことが活きているのだろうか。メンバーたちは、自分達で用意した素材(写真・文字・イラスト・パターンなどが白黒コピーで印刷されたシート)を切り貼りしたり、直接イラストを描いたり、もくもくと作業を進めていく。

DAY1では、キャラクターのドローイングや、素材をコラージュした表現が多く、ほとんどのものがビジュアルをメインとしていた。2色でもカラフルさを感じる賑やかな画面が多い。その意味やメッセージはほとんど不明だが、とりあえず“楽しい”というテンションは伝わってくる。一方でDAY2では「誰かへの手紙」というテーマを設けて、テキストを用いたページづくりに挑戦してみた。“Personal ZINE(パージン)”と呼ばれるごく個人的な思いや出来事を綴るZINEのスタイルにならって、メンバーたちは家族や友人へあてた言葉をページに落とし込む。「ZINEだから書ける」言葉もあるかもしれない。このテーマでのページづくりには、講師のHand Saw Pressも、古田先生も、スタッフの私たちも参加。私(阿部航太)は、高校時代の友人たちにあてた手紙を書いた。

高校生ワークショップ:プリント 
プリントに使用するインクは、Hand Saw Press 小田さんのサービスで、当初の4色(黒/ブライトレッド/蛍光グリーン/ミディアムブルー)に3色(ゴールド/蛍光ピンク/イエロー)が追加された。そのおかげで色の組み合わせのバリエーションは格段に増える。色見本とカラードラムを前にして、はしゃぎながら2色の色決めに迷う声が聞こえてくる。
ページの印刷が終わったメンバーは、それぞれのページをクリップでとめて有孔ボードに吊っていく。スカスカだった壁面がカラフルなページで埋まり始める。同時に、それぞれは一冊の本に綴じるべく他の人がつくったページをピックアップする。


一般ワークショップ

お昼休憩をはさんで一般の部がオープン。GDMメンバーたちは、受付・レジ、参加者サポート、プリントサポート、記録撮影と役割を分担してワークショップを運営する。開始後まもなく一般参加者が来場する。今回のワークショップのルールは少し複雑な部分があるが、メンバーたちは参加者に対して繰り返し工程を説明しながらページづくりを細やかにサポートする。参加する人は様々で、SNSでこのイベントを知って高知市から来てくれた人、親子で参加するファミリー、GDMメンバーの同級生、隣まちの地域おこし協力隊、市役所職員(わざわざ有給休暇を使って遊びに来てくれた私たちの同僚)、土佐市在住の私たちの知人たちから市外のアーティストまで。

参加者の滞留時間はだいたい2時間程度。もともと30分から1時間程度かと想定していたけれど、それ以上にのめり込む人が多かった。軽い気持ちで参加してくれた人たちが、数分後に様子を伺うと無言でA4の紙と格闘している。GDMメンバーたちが用意した素材のバリエーションがとても豊富で、一般参加者の多くはそれらの素材に刺激されて手を動かしているように見えた。

今回は1人につき1ページ x 30部を印刷する。同じイメージが印字されたものが次から次へとプリンターから排出される。ただそれだけのことなのに、なんとも心が踊る。1部しか存在しない原稿のままだとそれは書き手のみに属するイメージがあるが、それが印刷されるとそれらが「社会」に接続しているような感覚を帯びる。それを他者に手渡したり、どこかで配ったり、設置したりできるようになるからだろうか。リソグラフの魅力として、そのラフなテクスチャや蛍光色の表現などがあげられることも多いが、それらの点よりも、安く大量に刷れることによって個人が「メディア」をつくるのを可能にする点こそが魅力だと私は考えていて、今回のイベントはその可能性を探る試みでもあった。

今回のイベントでは最終的に70種を越えるMY BOOK(ZINE)が生み出された。壁面は製作されたページと綴じられた本で埋まった。美術部部長のSさんが最後の挨拶で、このイベントを企画しはじめたときに「思い描いていた風景をつくることができた」と話してくれた。様々な人たちが、それぞれが好きなように自分のページをつくり、それらがカラフルなインクで刷られ、刷られたページが壁面を埋め、その壁面を眺めながら自分だけの本の構成を吟味し、バチッバチッとホチキスが鳴って新しいMY BOOKが生まれる。そんな「ものをつくって届ける」喜びにあふれた風景をつくることに「TSUKURE!! MY BOOK!!」は成功したと思う。その空間と時間は、私たちやGDMメンバーである高校生たちだけでなく、この土佐市のまちのなかにも次に続く体験として記憶される。

*写真・文章は許諾を受けて掲載しています*

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