「地域高校の統廃合による過疎化コミュニティへの影響に関する社会学的研究」の考察

前回から、科学的根拠に基づいて「高校存続や高校統廃合が地域社会へ及ぼす影響」に、注目しています。


その中でも前回は『 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察 〜市町村の人口動態からみた高校存続・統廃合のインパクト〜(政策研究レポート)」2019』[注1]について、内容を踏まえたうえで、大崎上島の伝統文化である櫂伝馬に置き換えて考えました。


今回は、
「轟亮、吉川徹『地域高校の統廃合による過疎化コミュニティへの影響に関する社会学的研究』2006、平成18年度科学研究補助金 基盤研究(C) 研究成果報告書」[注2]
に注目します。

本研究は、石川県北部に位置する県立町野高等学校(以下、町野高校)に注目して、閉校までのプロセスを県教委の政策や周辺高校含めた倍率等を踏まえて、過疎化コミュニティへの影響に関して考察した論文です。尚、町野高校は、平成16年(2004年)3月に閉校しています。

本研究の結論は次の通りです。

「地域の高校は地域社会維持の性能を内包しているため、当該高校の統廃合については、学校側の視点のみならず、地域社会側からの視点を踏まえる必要がある。つまり、高校の統廃合は、高校がある地域にとって「社会学的な知見を応用すべき、総合的な政策課題である。」といえる。

この結論に至る過程について詳述します。
本稿の前半は、石川県における公立高等学校再編整備の経緯について、政策決定の流れや統合の基準について説明しています。県教育委員会の「高等学校の再編整備に関する基本指針」の「基本方針」には以下のような基準が明記されています。

【統合の基準】
次の①又は②に該当する学校は、統合の対象として検討する。
ただし、全県的視野から、格別特色ある教育活動の展開あ期待できる要因があるなど、特別な事情がある場合はこの限りではない。
①1学年2学級以下の学校で、将来にわたって、学級増が見込まれない場合
②1学年3学級の学校で、将来にわたって、定員を維持することが見込まれない場合(P.3)

これらの経緯について、著者は「現状認識、検討の基本姿勢、導かれる結論としての検討結果と主張という三部構成は明快であり、検討結果を一定の論理性をもって導出しようという姿勢、実証的なデータによって主張を裏付ける態度を読み取ることができる。かなり手間隙をかけて、慎重にまとめられた文章である、という印象を受ける。」と、評価しています。しかし、各都道府県の再編計画と比較検討して、石川県の統廃合計画の公表までの期間は1年から2年、統廃合への経緯は東京都や鳥取県と同じ、いきなり『対象校を明示する方法』を採用したなど、経緯を評価しつつも、批判的な検討もしています。ちなみに、各都道府県の高校再編計画は、文科省のサイトで確認できます。[注3]

それら一連の流れを踏まえながら、「なぜ小規模校は統廃合されるべきなのだろうか。」と、県の基本方針にも明記されている「学校の活力低下」「多様な選択科目開設の困難さ」「切磋琢磨の減少」などを引き合いに出しながらも、疑問を投げかけています。

その後、統廃合までの志願倍率と地元3中学校の占有率や統廃合前後の人口の推移を考察しています。もともと8割以上の生徒が地元3中学校の出身者であることから、町野高校は地元に支えられていたことがわかります。しかし、閉校の年が近づくにつれて、徐々に低下して40%台を割り込む年も見られます。一方、町野高校に進学しない地元中学生たちは、奥能登地域の有力進学校等に進学しています。これらの変化を追いながら、著者は「地元における少子高齢化現象だけではなく、学歴社会における大学進学アスピレーションの高まりが、町野高校への進学希望者を減少させたということができる。」と考察しています。

また、人口減少については、「20代後半についてほぼ横ばいである。(中略)しかしながら、義務教育期にある10代前半と、その親世代については、出生数の低下(少子化)の影響も含まれるが、40代後半については、Uターン者の減少、あるいは転出者増加まで起こっていることを推測されるものである。」と考察しています。

それらを踏まえて、「地域高校の地域社会維持の性能」について言及しています。
「第一に、地域の教育機関が劣位であると認識された場合に、よりよい生活機会をもとめた人口流出が起こる。」
「第二に、第一のメカニズムがある一方で、高等教育進学希望者のニーズに応えることが、若年層人口の流出を招く。」

第二については「一種のジレンマ」と述べています。つまり、地域高校が地元中学校から支持されるための”解”は、複数あり、その”解”が混じりあい、時にはぶつかり合っているので、思うほど簡単なことではないということです。

最後に、吉川徹[注4]を引用して島根県の高校教育システムについての考察を石川県の当該地域に援用しつつ、「おわりに」では「学校教育と地域社会の維持存続という課題は、社会学的な知見を応用すべき、総合的な政策課題なのである。」と結んでいます。

以上、地域高校の統廃合は、一つの側面から原因を提示して解決に向かうことは困難であり、社会学的な知見も組み込みながら、総合的に取り組むべき課題であるということがいえます。

本日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!次回に続きます!


注1:https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_191122_1/
注2:https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15530323/
注3:各県における高校統廃合に対する指針は次のように整理されています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/detail/1376292.htm
注4:吉川 徹「学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学」2001、世界思想社


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