「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察」の考察

前回までの2回は、大崎上島町における高校と地域の接近について考察しました。

大崎上島町における高校魅力化と地方創生の連関 その1-第2次長期総合計画-
大崎上島町における高校魅力化と地方創生の連関  その2 -総合戦略-

今回は、このような高校と地域の連携・協働の取り組みについて、評価を投稿予定でしたが、その前にそもそも国が2014年から推進する「地方創生」のなかでも特に、2018年以降の「まち・ひと・しごと創世基本方針」から「高校」の明記がはじまったこと(詳細は「高校」と「地方創生」の親和性についての一考察)に着目して、高校存続や統廃合が市町村にどのような影響を及ぼすのかを整理します。

「高校存続」や「高校統廃合」は、その言葉を聞けば、ほとんどの人が「人口が減るのではないか」「地域の衰退が加速するのではないか」と、自然に頭に浮かぶのではないでしょうか。しかし、本当にそうなのでしょうか。もしそうであれば、どの程度、減少するもしくは衰退が加速するのでしょうか。
実際に科学的根拠に基づいて「高校存続や高校統廃合が地域社会へ及ぼす影響」について検証した論文は非常に数が限られています。(人口減少社会における学校の役割等は後日詳述予定)
以前から日本の教育政策は、科学的根拠に乏しいと識者から指摘されることもあり、実際、OECD ではエビデンスに基づいたと教育政策についての定義や必要性なども叙述が見られます。(有名な学習到達度テストPISA等もエビデンスの一つ)日本においては、少し前に慶應大学の中室牧子先生[注1]のように、教育を経済的な指標で分析する「教育経済学」なども注目されはじめています。(エビデンスに基づく政策立案や教育政策などについては後日詳述)

いずれにせよ、このnoteでは、「なんとなく教育は大事」「地域活性化した方がよい」という”なんとなく”という感覚とは訣別して(感覚や経験も大切にしたい)、可能な限り科学的根拠や理論を論拠に考察をします。

高校存続や高校統廃合が地域社会へ及ぼす影響について論じた文献
① 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察 〜市町村の人口動態からみた高校存続・統廃合のインパクト〜(政策研究レポート)」2019[注2]

② 国立教育政策研究所『人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究 最終報告書』2014

③ 轟亮、吉川徹『地域高校の統廃合による過疎化コミュニティへの影響に関する社会学的研究』2006、平成18年度科学研究補助金 基盤研究(C) 研究成果報告書

もし他にあれば、是非教えてください。今回はその中でも全国で高校魅力化プロジェクトの拡大を下支えする科学的根拠として期待される①の「高校存続・統廃合が市町村に及ぼす影響の一考察」について紐解いていきます。

以下の記事は、高校魅力化や高校と地域の協働に関わる多くの人は目にしたことがあるのではないでしょうか。この記事は要旨のみ整理してあり、端的でとてもわかりやすい内容となっています。

国内初、市町村の人口・経済への高校魅力化の影響が明らかに ~高校統廃合に伴い市町村総人口の1%が転出超過、高校魅力化により総人口は5%超増加~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000035136.html

これらをもう少しわかりやすく、私なりに再整理すると以下となります。


日本では公立高校の統廃合が進んでいる
・1989年に5,523校あった公立高校は2016年には5,029校まで約1割(494校)減少している。単純計算で一年間で18の高校が消失。(27年間で494校)
・1990年に1197の1市町村に1つの公立高校が存在していた公立高校が、2019年には952市町村まで約2割(245校)減少している。単純計算で一年間で8の高校が消失。(29年間で245校)
・統廃合は、平成の大合併が本格化する2000年代前半から増加し、2010年をピークに2015年頃まで高い水準で推移。

高校統廃合前の転出人口超過の増分は人口1%程度の規模
・統廃合直前の数年間は、「高校統廃合の決定」や「新規募集停止」によって、その市町村から人口流出を促進する可能性がある。
・その人口流出は6年間で人口の約1%にあたる。(1年間で0.22%)

高校統廃合は若手の人口流出を高める
・高校が存続している市町村群に比べ、高校が統廃合で消滅した市町村群では、15-17歳人口層の較差が拡大している。
・人口1万人の市町村で想定すると、高校の1クラス分規模である。

つまり、高校存続や高校統廃合は人口動態に影響を及ぼし、その影響とは、総人口の中でもとりわけ”若手”の人口流出を高めるということです。これは、高校魅力化が、学校教育と社会教育にとどまらず地方創生も包摂しているため、学校だけの問題ではなく、地域にとっての問題でもあるため、総合的に考える必要があることを示唆しているといえます。

ちなみにこのレポートの結論を大崎上島町に当てはめると、

大崎上島町の人口が7311人(2021年1月末現在)であることを仮定して考えると、高校の統廃合は若手人口が160人程度減少することを意味しています。

160人程度なら特に問題ないような気もします。しかし、櫂伝馬(かいでんま)[注3]に換算すると、櫂伝馬は漕ぎ手・船頭・太鼓含めて16名なので、櫂伝馬10隻分となります。

まとめると、

「大崎上島町の場合、地域唯一の高校である広島県立大崎海星高校が統廃合した場合、前後数年で櫂伝馬10隻分の若手が減少する可能性が高い。」


となります。

この政策レポートの「おわりに」では、次のような文章で結んでいます。

ただし、わが国の総人口の減少基調が続く中では、現存するすべての高校を存続し続けさせることは高校生の量的需要の側面からも財政的な負担の側面からも現実的ではない。そのため、高校の存続を選択したい市町村は、単に高校の存続のみを要望するのではなく、その高校でより多くの高校生が学びたいと思えるカリキュラムづくりを地域固有の資源を活かして構築していくことで、高校生やその家族がその高校を選び、その地域に住みたいと思える理由を創っていくことが同時に求められるのではないだろうか。 その結果として、多様な学びの環境、生活環境がわが国として維持されていくことが社会の豊かさにつながるはずである。高校が存続している市町村においては、持続可能なまちづくりを進めていく上で、是非、高校をかけがえのない資源と位置づけ、高校生の学びの豊かさとまちづくりに活かしていくことを期待したい。(p.13)

高校存続を目指すのではなく、その高校に「地域の子どもたちが行きたい。」「保護者が行かせたい。」学校を目指すようにと記載があります。私は、これらに加えて【地域住民目線】と【高校と地域産業の接続】が必要だと考えています。(後日詳述予定)それらを、”声”に変換すると、

学校に関わる人たちが、「この学校や生徒を応援したい。」
地域で産業を担う人たちが、「この学校の卒業生と一緒に働きたい。」
地域のすべての人たちが、「この高校があることがこの地域の誇りだ。」

このような人たちを増やさなければ、同じくまとめで「高校生の量的需要の側面からも財政的な負担の側面からも現実的ではない。」と指摘されているように、遅かれ早かれ立ち行かなってしまいます。

以上、今回は高校存続や高校統廃合が地域に及ぼす影響についての考察でした。次回に続きます。本日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!


注1:中室 牧子「学力の経済学」2015年、株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
注2:https://www.murc.jp/report/rc/policy_rearch/politics/seiken_191122_1/
注3:櫂伝馬。大崎上島に古くから伝わる木造の和船。
参照:http://osakikamijima-kanko.moon.bindcloud.jp/navi/travel/Intellectual/kaidenma-kyousou.html

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