「高校」と「地方創生」の親和性についての一考察


このnoteのテーマは「『高校』×『地域』の可能性」であるということは前回説明した通りです。

前回記事、「『高校』×『地域』の可能性」を参照。

気がついたときには渦中にいたので、なんの疑問を持つこともなく取り組みを進めていましたが、「高校」と「地域」の接近にはどのような経緯があったのでしょうか。

今回は、その大きな流れを「教育」ではなく、主に「地方創生」の視点から考察します。
特に、
・なぜ、「高校」と「地域」が接近しているのか。
・「高校」と「地域」の接近とは、具体的にはどのような状態なのか。

この2点について、迫っていきます。


(1)高校と地域を取り巻く国の主な指針
まずは、近年の高校と地域を取り巻く大きな国の動きです。以下は、高校と地域の関係性に触れた主な国の方針一覧です。

高校と地域を取り巻く国の主な方針一覧(平成30年度6月-令和元年度6月まで)
平成30年6月、内閣府、経済財政運営と改革の基本方針2018
平成30年8月、文部科学省、地域との協働による高等学校改革の推進について
平成30年8月、内閣府、まち・ひと・しごと創生基本方針2018
平成30年8月、文部科学省、教育再生実行会議 新時代に対応した高等学校改革
令和元年5月、文部科学省 教育再生実行会議 技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について
令和元年6月、文部科学省 第3期教育振興基本計画
令和元年6月、内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2019 〜「令和」新時代:「Society5.0」への挑戦〜

以上のように文科省のみならず、内閣府からも高校との地域協働に触れられていることに注目したいと思います。もし他にあれば、こっそり教えてください。

(2)高校と地域を取り巻く近年の動向について
 平成28年12月の文科省答申(注1)を踏まえて、新しい高等学校学習指導要領が平成30年3月30日に告示されました。基本的な考え方としては、子どもたちに求められる資質・能力を学校内のみならず社会と共有し、「社会に開かれた教育課程」を重視するとともに、地域の実状に応じて「総合的な探究の時間」を中核とするカリキュラム・マネジメントに取り組むことが示されたことはご存知の通りです。(注2)また、平成29年3月に地域学校協働活動が法制化されて、地域全体で子どもたちの成長を支えることと地域での活動を推進することが規定されました。(地域学校協働活動法制化については、後日詳述予定。)そして、平成30年6月には、文科省大臣によって「Society5.0に向けた人材育成〜社会が変わる、学びが変わる〜」が発信され、これまでの社会とこれからの社会を5段階に類型化して、社会の移り変わりを整理しました。社会の変化を踏まえて、どのような人材を育成すべきか、そして、これからの社会では生徒にとって最も身近である地域と学校が連携・協働して、体験と実践を伴った探究的な学びを進めながらどのように人材を育成すべきか、について言及されました。(注3)

 高等学校改革はまだ続きます。まず、平成30年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2018」(注4)において「地域振興の核としての高等学校の機能強化を進める」こと等が重要課題への取り組みとして位置づけられるとともに、「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」(注5)においても「高等学校が、地元市町村・企業等と連携しながら高校生に地域課題の解決等を通じた探究的な学びを提供する取組を推進すること」等が明記されました。さらに、教育再生実行会議(注6)においても「新時代に対応した高等学校改革」が掲げられ、今後地域及び産業界との連携の在り方等についても検討されるとともに、高校と地域を繋ぐコーディネーターについても言及されました。これらの一連の高等学校改革に基づき、同年8月に、文部科学省から「地域との協働による高等学校改革の推進について」(注7)として、全国へ発信されました。令和に元号が変わってからも、「経済財政運営と改革の基本方針2019」(注8) には、新学習指導要領が目指す教育の着実な実現のため、学校・家庭・地域の連携・協働を進めることが明記されています。このように、文部科学省だけではなく、地方創生の流れのなかで内閣府からも地域と高校の連携・協働が言及されています。

一連の流れを「地域」側から考察すると、

社会の変化→高校に求められるものの変化→教育内容の変化

という順番のように見えます。確かに、実感値としても地域にとっての最高学府である場合が多い高校は、地域への郷土愛を醸成する最後の砦であり、かつ、体験だけにとどまらない資質・能力の育成によって、地域を担う人材を輩出する面も含むため、地方創生の風が吹けば吹くほど、年々期待が高まっています。そのような側面が「地方創生」の視点から「高校」を見たときにあるようです。単純化して考えても、少子高齢化が進む地域社会は若手が減る一方なので、若手人材の価値が高まるのは避けて通れない道のようです。

そして、このような国の流れができたことで、国の事業や県、そして各自治体も予算をつけやすいようで、取り組みを後押しする環境は整っています。

内容が空中戦になってしまいましたが、今回のような国の取り組みや自治体の取り組みを行き来しつつ、現場での経験も織り交ぜていきたいと思います。考察というよりも整理となっていますが、今日はここまで。

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

注1:平成28年12月中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(答申)
「学校を変化する社会の中に位置付け、学校教育の中核となる教育過程について、よりより学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な教育内容をどのように学び、どのような資質・能力を身につけられるようにするかを明確にしながら、社会との連携・協働によりその実現を図っていくという「社会に開かれた教育過程」を目指すべき理念として位置づけることとしている」(p.1)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2017/01/10/1380902_0.pdf
注2:例えば、 総則(p.4) 生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努めるものとする。https://www.mext.go.jp/sports/content/1384661_6_1_2.pdf
注3:例えば  共通して求められる力として、①文章や情報を正確に読み解き、対話する力、②科学的に思考・吟味し活用する力、③価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探求力が必要であると整理した。(p.7)https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405844_002.pdf
注4:5、重要課題への取組② 教育の質の向上等「第3期教育振興基本計画」や教育再生実行会議の提言に基づき、「Society 5.0」に向けた総合的な人材育成をはじめとした教育の質の向上に総合的に取り組む 。新学習指導要領を円滑に実施するとともに、地域振興の核としての高等学校の機能強化、1人1社制 の在り方の検討、子供の体験活動の充実、安全・安心な学校施設の効率的な整備、セーフティプロモーションの考え方 63も参考にした学校安全の推進など進める。(p.30)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2018/2018_basicpolicies_ja.pdf
注5:「地方創生に資する高等学校改革の推進」には次のような記述が見られる。
・高等学校は、地域人材の育成において極めて重要な役割を担うとともに、
高等学校段階で地域の産業や文化等への理解を深めることは、その後の
地元定着や U ターン等にも資する。
・このため、高等学校が、地元市町村・企業等と連携しながら、高校生に地
域課題の解決等を通じた探究的な学びを提供するカリキュラムの構築等
を行う取組を推進するとともに、進路決定後の期間を利用したインター
ンシップの充実等を通じて地元の魅力に触れられる取組等を推進し、地
元に根ざした人材の育成を強化する。
・また、これらの取組を充実させるためには、高等学校と地元市町村等の地
域の関係者の間で継続的に緊密な連携を行い、地域一丸となって取り組
んでいくことが必要である。そのため、地域の関係者により構築するコン
ソーシアムの設置など、高等学校を活用した地方創生を進めるための地
域の基盤構築について、事例等の紹介も行いながら推進する。(p.23)http://202.214.216.10/jp/singi/sousei/info/pdf/h30-06-15-kihonhousin2018hontai.pdf
注6:2.新時代に対応した高等学校改革 の(5)地域や大学等との連携の在り方において、次のような記述が見られる。○ 国及び地方公共団体は、高等学校と地域との組織的・継続的な連携・協働体制を確立し、学校外の人的・物的資源の一層の活用を通して、「社会に開かれた教育課程」の実現を図るため、高等学校における「チーム学校」の実現、高等学校の特性を踏まえたコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の導入・活用と地域学校協働活動の実施を推進する。その際、多くの公立高等学校が都道府県により設置され、基礎自治体である市町村等との間の協働に課題がある場合があることを踏まえ、好事例を把握・周知することなどを通じ、学校運営協議会制度等を通じた都道府県、市町村及び高等学校との連携を強化する。
○ 地域を素材に課題探究する学びを実現する上で、高等学校と地域をつなぐコーディネーターの果たす役割は重要であり、そのための人材の確保と育成が必要であることから、国は、地方公共団体における取組等も踏まえ、コーディネーターとしての職制や処遇、育成施策の在り方について総合的に検討する。また、地方公共団体は、地域との連携に中核的な役割を果たしてきた教師について、地域連携の継続性を確保する上での人事上の配慮や工夫を行う。
○ 高等学校段階で地域の産業や文化への理解を深めることは、人材育成の観点のみならず、その後の地元定着やUターン等にも資するなど地方創生の観点からも重要であることから、地方公共団体は、民間資金などの多様な財源を活用し、高等学校における地域課題の解決等を通じた探究的な学びの実現を支援する。
○ 生徒の興味・関心に応じて多様な選択を可能とするとともに、離島・中山間地域にある高等学校の多様性を高める観点から、国は、全国各地で地域の特色をいかし、魅力ある教育を展開している高等学校について、事例の収集及び発信を強化する。
○ 高等学校は、地域問題発見・解決に向けた探究的な学習活動の大学と連携した実施等、高大連携によるカリキュラム開発等を推進する。(p.29)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai45/siryou1-2.pdf
注7:地域との協働による高等学校改革の推進について(通知)に、これまでの一連の高校と地域の協働について概略の説明があります。https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/1409268.htm
注8:経済財政運営と改革の基本方針 2019~「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦~の(1)東京一極集中の是正、地方への新たな人の流れの創出、に次のような記述が見られる。関係機関移転基本方針45等に基づく取組を進める。「地域連携プラットフォーム(仮称)」を構築し、地方大学改革を推進する。地域に求められる人材育成機関としての高等学校・高等専門学校・専修学校・大学の機能を強化する。

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