『学歴社会のローカル・トラック -地方からの大学進学』(吉川徹)の考察

前回は、広島県の「広島県中山間地域振興計画」における「学校」と「地域」の接近について考察しました。

前回note:「広島県中山間地域振興計画」から見る「学校」と「地域」の接近における一考察

今回は、以前のnoteでも扱った論文等で引用されている『学歴社会のローカル・トラック -地方からの大学進学-』[注1]に注目しました。これまでのnoteで何度も触れましたが、「地域」側が「学校」側に対して、体験活動の提供や地域住民との交流等を通じて、これまで以上に、郷土愛の醸成や地域人材を見据えた資質・能力の育成に取り組んでいます。では、高校生はどのような意識を持って卒業時の進路選択をして、その後の地域との関係性はどのように変わっていくのでしょうか。ほとんどの地域にとって、地元を離れることになる高校卒業時の進路選択に注目して、社会学者の吉川徹先生は「ローカル・トラック」という概念を提唱しました。

地元にいると、当たり前のように都会に憧れる高校生が一定程度存在します。一方で、理由はなんであれ、高校卒業と同時に就職で地元に残る、あるいは就職や進学で県内に残るといった選択肢を選ぶ人もいます。大学や専門学校が地元になければ、それらを選択すると必ず地元を離れなければならなりません。本書は、学力層の高い生徒(大学進学を目指す生徒)に焦点化して、質問用紙やインタビューの後、類型化を試みています。高校生たちは自由に進路選択をしている感覚を持っていますが、自由に見える進路選択も実は水路を流れる水のように、行き先が決まっていることを明らかにしました。これを「ローカル・トラック」と概念化しました。詳述はしませんが、島根県立横田高校の1クラス35名の卒業生を研究対象として、質問用紙やインタビューで可視化をしていく中で、最終的に4つの型に収斂しました。

全体像や要約は、本書を読んで頂くとして、ここでは「高校」と「地域」の関係性について関連する部分で、独断と偏見で実践に活かせそうな部分のみ紹介します。

まず、結論から。本書で明らかにしたことは、次の点です。

地方出身者であればなんとなく感じるであろう高校卒業後の”流れ”を「ローカル・トラック」と、名付けたことです。「ローカル・トラック」とは、「それぞれの地方の出身者が、アカデミックな進路選択とは別次元のもとのとして、自らの地域移動について選択していく進路の流れ」である。(p.223)つまり、高校における進路選択がその後の就職内容や就職場所を決める力学が働きます。4つに類型化(都市定住型、Jターン型、Uターン型、県内周流型)された中で、本流とされるのは、「県内周流型」と呼ばれる県内大学進学県内就職という経路です。

そして、この結論を実践に生かすとすれば、

「社会情勢に左右された近視眼的な判断に終始するのではなく、大局観を持って政策判断をすることが肝要」ということになります。なぜならば、地方の公立高校においては、小・中学校、そして高校における過ごし方や学習状況によって、卒業後60年間のライフヒストリーを決定づける可能性が高いからです。

少しだけ紹介すると、本書の構成は3部となっており、まず第1部では日本社会における学歴の位置付けを確認するところからスタートします。(著者の近著に「学歴分断社会」があります。後日、触れたい)

「他社会では決定的であるはずのこうした社会構造上の要因の影響力は、現代日本社会では、相対的に見ると、必ずしも強力なものではない。それゆえに日本社会においては、僅差しかもちえない大量の中間層を峻別する論理は、学歴をおいて他には見当たらない」(p.5)

その後、研究方法等を整理して、注目する高校「島根県立横田高校」の説明があります。
第2部では、ライフヒストリーとして、35人へのインタビューがあり(ここが本書の醍醐味)、第3部では、意識調査とそれらをすべて受けて終章でローカルトラック論が展開されます。

以下、最も気になった部分を引用します。

「個々のインタビュー調査を通じて確信したことであるが、かれらには仁多郡で育ったエリート層としてのパーソナリティ、あるいは島根県人らしさのようなものが払拭されないで見え隠れしている。言い換えれば、六年の流出経験を経ても、この地域がかれらに与えた形質が変わらないで残っているようなのである。」(p.165)

高校卒業後の大学や就職で、それまでの18年間とは比較にならないほど大きな経験をしているにもかかわらず、故郷を離れた場所で生活をする間にその場所と同じ世代の人たちと変わらない意識を持つかといえば、そうではないという事実を明らかにします。

つまり、高校までの過ごし方がその人の地域への想いだけにとどまらず、仕事選択時や住まいの選択時に影響する可能性がある、といえます。よって、高校までの学校生活において、地域住民との交流や伝統文化との接点がその後の人生の地元との距離感を決定づける、といえます。(言い過ぎ?)


とっても簡単でしかも当たり前の結論となってしまいましたが、今日は以上です。アンケート結果や質問用紙についての考察は後日時間があれば詳述します。

本書は、地方におけるUターンや定住の促進、人づくりの仕組み化、地域人材育成などに関わる人にとって、必読だと思います!本日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

次回は、広島県立大崎海星高校の卒業生に注目します。

注1:https://www.amazon.co.jp/学歴社会のローカル・トラック―地方からの大学進学-SEKAISHISO-SEMINAR-吉川-徹/dp/4790708950/ref=sr_1_2?__mk_ja_JP=カタカナ&dchild=1&keywords=ローカルトラック&qid=1618627340&sr=8-2



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?