「広島県中山間地域振興計画」から見る「学校」と「地域」の接近における一考察
直近2回は、「人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究」の考察をしました。これによって、「学校」と「地域」の関係性はこれまでより接近しており、「地域」側からも「学校」に近づいていることが明らかとなりました。では、広島県の場合は、どのような状況なのでしょうか。
偶然にも、令和3年の1月に「第2期広島県中山間地域振興計画」[注1]が策定されていたので、そちらを紐解いていきます。前半は基本情報の整理、後半は学校と地域の接近に関わる部分を整理します。
まず、策定の趣旨と基本情報です。
策定趣旨:
将来に向けて持続可能な中山間地域を実現していくため、平成25(2013)年10月に制定した「広島県中山間地域振興条例」(以下、条例という。)に基づき、翌年12月に「広島県中山間地域振興計画」を策定し、地域に暮らす方々が、将来に希望を持ち、「笑顔で幸せな生活を営むことができる中山間地域」を目指して、<人><仕事><生活環境>の三つの柱に沿った関連施策を総合的に展開してきました。(p.2から一部抜粋)
計画期間:令和2(2021)年度〜令和7(2025)年度、5年間
対象地域:中山間地域を有する市町村19市町村、対象地域の人口は約36万人、県全体の1割の12.6%(広島県全体は約284万人)、面積は7割
尚、大崎上島町は「全地域が中山間地域(全域過疎市町)」に該当しています。(県内は10市町)
次に、中山間地域の現状を整理しています。
平成27(2015)年から令和27(2045)年までの30年間で、県全体の人口減少率は15%と推計されている中で、全域が中山間地域(全域過疎市町)の10市町では総人口が24万人から14万人まで減少し、減少率は県全体を大きく上回る40%になる(p.6)
とされています。地域に置き換えて考えてみると、次の30年で40%が減少するということなので、伝統文化の存続や町の行事などは、これまでと同様の形態はなく、存続させていくために最適な形態を考えることは不可避ということです。
高齢化率の推移は以下の通りです。
令和元年(2019) 令和27年(2045)
人口 高齢化率 人口 高齢化率
広島県 283万人 (28.6%) 242万人(35.2%)
全域過疎市町 24万人(39.4%) 15万人(46.0%)
大崎上島町 7,538人(47.6%) 3,791人(44.0%)
※大崎上島町は高齢化率県内2位から県内9位へ
大崎上島町の場合は、2045年の高齢化率は現在と比べると下がっています。これは、人口のピークが他市町村より早いため、高齢化率のピークも早く、人口減少が早く進んでいるからだと考えられます。(詳細は大崎上島町第2次地方人口ビジョン参照)[注2]
続いて、人口減少の最大の要因「自然減」となっており、外国人は年々増加しているものの、全体では社会減が続いています。
産業については、人口減少や高齢化が進んでいるにもかかわらず、農業の総生産推移によると、平成23年から29年までの7年間で20%近く高まっています。これは、県や市町村が早々に経営力の高い担い手の育成や集英規制の高い園芸作物への転換などを通じていることが要因に挙げられています。(p.10)
詳細はわかりませんが、この数字からは、広島県の農業は人口減少社会に対応していると言えます。後日、機会があれば、大崎上島町と比較しながら考察します。一方で、製造業や小売業は、平成12年から平成30年までで、事業所が半減しています。
生活環境については、居住時で発生している問題や現象のランキングを見ると、
1、空き家の増加
2、獣害・病害の発生
3、働き口の減少
4、公共交通の利便性の低下
5、耕作放棄地の増加
6、商店・スーパー等の閉鎖
7、住宅の後輩
8、医療提供体制の弱体化
9、土砂災害の発生
10、森林の後輩
11、小学校等の存続
(p.11)
となっています。
また、住民意識については、中山間地域における若年層の生活満足感が、令和2(2020)年の調査では、前回調査(平成25(2013)年)の37.5%を大きく上回る66.0%となっています。R2年度の調査なので、コロナの影響があるとは思いますが、若年層の意識の変化は鮮明です。中山間地域における若年層の生活満足度は明らかに高まっているといえます。
中山間地域の将来への不安要素は、次の通りです。
1、自身の健康
2、家族の健康
3、収入
4、家屋や田畑の管理
5、災害
6、生活交通
7、仕事
8、有害鳥獣の発生
9、子どもの教育
10、人間関係
(p.13)
さて、それらを踏まえたうえで、計画推進のための施策の全体像として、
①多様な力でつながる 人づくり
②夢をカタチにできる 仕事づくり
③安心を支える 生活環境づくり
この3つを施策の柱に据えて、「①多様な力でつながる 人づくり」のなかに「教育(3)地域を誇り未来を創る人材を育てる教育」があります。(p.18,19)
①多様な力でつながる 人づくり(該当する部分のみ抜粋)
【目指す姿】(3つ目)
・次代を担う子どもたちには、学校と地域が連携して、未来を創る人材としての資質や能力を伸ばす機会が確保され、地域に誇りを持ち、将来の担い手として育成される環境が整いつつあります。(p.22)
【現状と課題】
・人口減少が加速する中山間地域においては、次代を担う子どもたちが、地域に誇りを持って、新たな担い手として活躍していくことが求められます。このため、子供たちが地域との関わりを通じて、生まれ育った地域への深い愛情や誇りを持ち、自らの想像力や行動力で、これからの次代を切り開いていく力を身につけていけるよう、引き続き、地域と連携した教育活動を展開していく必要があります。
目指す姿というよりも、現状の報告となっていますが、現状と課題を整理して、これまでの取り組み成果としては、地域の次代を担う人材の育成:地域に貢献しようとする意欲を持っている中山間地域の県立高校の生徒の割合(H27:48.1%→R1:62.7%)
があげられています。この割合を高めるためにどのようなことに取り組んだのかは、とても興味深いので後日調べてみます。
以上、今回は人口減少社会の学校と地域の接近から派生して、広島県の中山間地域振興計画を検討しました。
内容を要約すると、
広島県は、中山間地域の目指す理想とする姿を長期的に整理しながら、次の5年は、中山間地域を次世代に託すための力強い土台を築く期間と捉え、デジタル技術を最大限に活用したスマートな里山づくりを進めていくことを目指しています。教育については、「学校」と「地域」が連携して、将来の担い手が育成される環境が整いつつあるものの、これまで以上に「学校」と「地域」の連携による特色ある教育活動を展開していくことが必要である。
となります。
以上です!本日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
関連note:大崎上島町における「学校」と「地域」の接近を考察しています。
◆大崎上島町における高校魅力化と地方創生の連関 その1 -第2次長期総合計画-https://note.com/tory_10/n/ncc36c7185e7a
◆大崎上島町における高校魅力化と地方創生の連関 その2 -総合戦略-
https://note.com/tory_10/n/n1697f95f2b17https://note.com/tory_10/n/n1697f95f2b17
注1:「第2期 広島県中山間地域振興計画」のサイトはこちらhttps://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/life/735328_7238712_misc.pdf
注2:大崎上島町第2次地方人口ビジョン
https://www.town.osakikamijima.hiroshima.jp/machizukuri/torikumi/3279.html
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