高校魅力化コンソーシアムとコミュニティ・スクールの一考察 -その3 島根県の進めるコンソーシアムとは

国や県の資料をもとに、コンソーシアムとコミュニティ・スクールについて考察しています。今回は、4回連続シリーズのその3です。

その1 文科省の進めるコンソーシアムとは
その2 「高校と地域をつなぐ人材のあり方に関する研究会」の検討
その3 島根県の進めるコンソーシアムとは
その4 魅力化コンソーシアムとコミュニティ・スクールの一考察

島根県では、本年度(2021)中に、すべての高校においてコンソーシアムを設置する予定[注1]にしています。本稿では、島根県が進める「高校魅力化コンソーシアム 」(以下、コンソーシアム)について、島根県HPに掲載されている資料をもとに検討します。

「高校魅力化コンソーシアム」の手引き[注2]によると、目的は次のように設定されています。

【目的】
 「生きる力」は、学校だけで育まれるものではなく、多様な人々の関わりや、様々な経験を重ねていく中で育まれるものであり、地域とのつながりや信頼できる大人との関わりを通して、子供たちは心豊かにたくましく成長していくことができます。
 この「生きる力」の育成のために、地域の子供たちにどのように育ってほしいのか、何を実現していくのかという目標やビジョンを、地域の住民や市町村、小・中学校、社会教育期間、地元企業等と高校とが主体的・創造的な対話を行いながら協働で策定し、地域と一体となって子供たちを育む「地域とともにある学校」(以下、地域協働スクール)」を実現することが求められています。
 そのため多様な主体が参画し、魅力ある高校作りに取り組む協働体制が必要であり、この協働体制を高校魅力化コンソーシアム(以下「コンソーシアム」)と呼びます。

まず、前提として、生徒の資質・能力の育成は、学校だけではなく地域と協働して取り組むことを確認しています。本手引書には記述されていませんが、これは、新学習指導要領が目指す「社会に開かれた教育課程」の理念に合致します。実際、県立高校魅力化ビジョンでは、同様のものであると明記されています。[注3] 

次に、概要についてです。

【概要】
コンソーシアムには「意思決定の場」「協働活動の場」が設定され、相互に連携しながら「地域協働スクール」の実現を目指します。
 「 意思決定の場」 は校長、事務長、市町村代表、保護者代表等が、学校と地域の協働ビジョ ンや学校経営の基本方針等について協議・ 共有し、必要に応じて承認等を行う会議の場です。協議や承認する具体的な内容は各コンソーシアムに委ねられますが、「 地域の子供たちにどのように育ってほしいのか、何を実現していく のかという目標やビジョ ン」 が策定されるような場になることを目指しています。
 「 協働活動の場」 は学校に関わる多様な人材や団体により、学校と地域との協働活動がなされたり、学校経営等に係る対話や熟議がなされたりする活動の場です。 これも具体的な活動の内容は各コンソーシアムに委ねられますが、学校の諸活動の支援や家庭教育の支援、外部との連携・ 調整、情報発信の支援等が考えられます。
 コンソーシアム設立後の運営にあたっては、各校・ 各地域の実態に応じて、PDCAを回しながら、魅力ある高校づく りに取り組む協働体制の一層の推進を図り、「 地域協働スクール」 の実現を目指します。

 コンソーシアムの機能は2つに設定されています。「意思決定の場」と「協働活動の場」です。
 「意思決定の場」については、どちらか一方が活動についての承認を得るというよりも、双方が”対等”の立場で方向性を協議・共有をして、意思決定を行うという特徴が見受けられます。
 一方、「協働活動の場」は、学校と地域の実際の協働活動だけではなく、対話や熟議も活動とされています。

 2つに共通することは、具体的な活動の内容は各コンソーシアムに委ねられていることです。上述の目的を達成するために、実態に応じた形態に柔軟に変更することが基本とされています。

島根県のコンソーシアムについての特徴は次の3点です。

1点目は、「なぜ、コンソーシアムを構築するのか」が、コンソーシアム事業の起点となっている点です。「高校魅力化コンソーシアム構築に向けた問い集」[注4]の「はじめに」に次のような記述があります。

貴校(地域)は、なぜ、コンソーシアムをつくるのか。
まずはこの問いにじっくりと向き合うことからはじめる必要がある。すぐに答えられなくてもいい。むしろ、その問いを周りにいる先生方や地域の方々に聴くことからはじめてもいいのではないか。私たちはなぜコンソーシアムをつくるのか。私たちはコンソーシアムをつくることで、どんな学校の未来をつくりたいのか。学校と地域が協働してどんな生徒を育てたいのか。そして、その生徒たちと共にどんな地域の未来をつくりたいのか。こうして問い合うプロセスづくりこそが、コンソーシアム事業の要であると、先導モデルとなった各校・各地域が示してくれた。コンソーシアム構築は手段であって、目的ではない。(p.1より抜粋)

今年度中にすべての高校での設置するとのことですが、「どのようにして、設置するのか」「だれをメンバーに選定するべきか」「なにをするのか」など、設置に向けてのhow toではなく、why(なぜ)がすべての出発点になっていることから、コンソーシアムは目的を達成するための手段であるということが明確です。

2点目は、学校や地域の実態に合わせて、最適な体制を構築できるよう柔軟性を含んでいる点です。島根県の場合、コンソーシアムを県教育委員会が進めていますが、すべての高校を同一に見なす画一的な制度ではありません。先述の通り、具体的な活動の内容は各コンソーシアムに委ねられていることが再三確認されています。また、2019-2020年にかけての「コンソーシアム構築支援事業も」4つのモデルが示されています。当たり前ですが、都市部と離島中山間地域では、環境が全く異なりますし、自治体内の学校の数によって、自治体と学校の関係性は変わってきます。これは、制度設計をするときに見落とされがちですが、重要な点です。それぞれのモデルによって、目指すものも異なりますし、課題も異なります。構成メンバーや事業のスピード感も異なるでしょう。トップダウンの制度に見えて、現場のボトムアップを前提としたハイブリッドな制度です。

●都市型モデル:島根県立松江東高等学校(松江市)
都市部に所在し、高校魅力化推進協議会のような既存組織がない高等学校において
高校魅力化コンソーシアムを構築・運営するモデル
●一市町村一校モデル:島根県立津和野高校(津和野町)
中山間地域に所在し、高校魅力化推進協議会のような既存組織がある高等学校にお
いて、当該既存組織を更に進化・発展させて高校魅力化コンソーシアムを構築・運営するモデル
●一市町村複数校モデル:島根県立大東高等学校・島根県立三刀屋高等学校・同掛合分校(雲南市)
同一の市町村に複数の県立高等学校が所在し、高校魅力化推進協議会のような既存組織がある高等学校・地域において、当該市町村内での高校魅力化コンソーシアムのあり方を検討した上で、構築・運営していくモデル
●複数町村一校モデル:島根県立隠岐島前高校(海士町、知夫村、西ノ島町)
複数町村に一校のみが所在し、率先して高校魅力化の取組を推進している高校・地
域において、高校魅力化コンソーシアムを構築・運営するモデル
(p.5)

3点目は、県教育委員会がチームをつくって、各コンソーシアムを支援するために、「伴走」体制を構築することを明記している点です。

県教育委員会は、教育魅力化推進チーム(※3)の体制面での充実及び更なる機能強化を図り、各コンソーシアムを支援する伴走(※4)を行うとともに、各コンソーシアムの取組や意見等を教育施策や教職員の任用等の参考とする。
※4 伴走……教育魅力化推進チームのメンバーが、現場に出向いて顔の見える関係を構築しながら、現場と共に学ぶというスタンスで課題解決を目指すこと。
(p.3から引用)

以上が島根県の高校魅力化コンソーシアムの概要と特徴です。
本日は以上です!今回もご覧頂き、ありがとうございました!

注1:コンソーシアムの設置や運用についてのQ &A
Q18、 コンソーシアムの設置はどのタイミ ングで行いますか。
A18、 可能な高校・ 地域については個々の判断で設置できます。 2021 年度末には全ての高校において設置する予定です。」
高校魅力化コンソーシアムについて
注2:高校魅力化コンソーシアムの手引き
注3:島根県の「県立高校魅力化ビジョン」第1章に「地域協働スクールの実現」(p.8)について詳述されている。https://www.pref.shimane.lg.jp/gakkokikaku/saihen/keikaku.data/miryokukavisionsaisyu.pdf
注4:高校魅力化コンソーシアム構築に向けた問い集-高校魅力化コンソーシアム構築支援事業-https://www.pref.shimane.lg.jp/education/kyoiku/koukoumiryoku/consortium.data/toisyu.pdf?site=sp

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