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間下直晃(ブイキューブ創業者)のストーリー

日本で生まれ育ちながらも、グローバルな仕事環境で大活躍するリーダーの軌跡とマインドを発信するグローバルリーダー・ストーリー。

 ご紹介するグローバルリーダーは、株式会社ブイキューブ 代表取締役会長 グループCEOである間下直晃氏。1977年東京都生まれ。慶應義塾大学在学中の1998年に有限会社ブイキューブインターネット(現:株式会社ブイキューブ)を設立。2009年、インテル キャピタルからの出資を機に本格的に海外展開を開始。2012年、自らシンガポールに移住。2013年に東京証券取引所へ新規上場し、現在、東京証券取引所プライム市場。2015年、株式会社センシンロボティクスを設立。2015年にシンガポールのWizlearn Technologies Pte. Ltd(ウィズラーンテクノロジーズ社)を買収、2021年にはアメリカのXyvid Inc. (ザイビッド社)を買収。経済同友会副代表幹事。(2022年10月時点)


 学生時代から足掛け24年、日本のIT企業のグローバル化に積極的に携わり、業界をリードしてきた間下氏に、これまでの海外での事業展開を振り返っていただいた。英語での交渉やネットワーク作りで大切ものは何か。数多のビジネスシーンで感じたリアルな体験が語られる。

海外展開の第一歩はアメリカから。
誰もなし得ていない日系IT企業の先陣を切る

 父親が外資系企業で働いていたこともあり、3歳の時に8ヶ月だけアメリカに住んだことがある。記憶はまったく残っていないのだけど、外国への興味や憧れという気持ちは小さい時からずっと心のどこかにあって、海外で何かを成し遂げたいという夢は持ち続けていたように思う。

 1980年に日本の製造業が次々に海外に進出し、目まぐるしい発展を遂げたけれども、モノの時代でなくなってしまった今、海外で成功している企業は特にIT企業ではほとんどない。とはいえブイキューブのようなIT企業にとって日本マーケットだけでは十分でなく、事業を拡大させるためにグローバル化は絶対に避けて通れない。誰も成功していない日本発IT企業の世界進出にチャレンジしたい——そんな熱い気持ちだけで、ここまで来たのではないだろうか。

 1998年に学生起業した時には、海外進出を考えるゆとりはなかった。でもIT=アメリカという認識はあったし、小さい時の経験もあって、いつもアメリカを見ている傾向があったのは事実。「やっぱりアメリカだよね」という先入観というのが多少なりとも自分の人生に大きく影響したと思う。2003年、アメリカにオフィスを開いたのが海外展開の第一歩。当時はガラケーにデフォルトでインストールされていたiアプリを作っていた。そのアプリケーションを携帯に乗せるという発想で日本はかなり先行していたので、これをアメリカで展開することにしたのだ。

アメリカで直面したコミュニュケーションの問題
実体験から開発したテレビ会議システム

 アメリカに会社を作ったけれど、そこで社内のコミュニケーションの壁にぶつかる。社長は自分、ただ一人。アメリカに滞在していると日本での動きが止まる。日本に帰るとアメリカでの動きが止まる。日米を繋ぐテレビ会議みたいなものがあったらいいよね、という話になったものの、当時のテレビ会議はグローバル企業の役員室に設置されているようなハードウエアベースで、機械の導入だけで1000万円もの費用が必要になる。それなのに性能は優れていない。インターネット回線も現在より遥かに遅く、1.5Mbps の回線を皆で共有する時代。1000万円もするものは実用的でないから、他に安価なものを探すか、それとも自分たちで作るかという選択に迫られた。そこで試しに社内で開発を始めたら意外と使えるパイロット版が仕上がる。毎日のようにCTOと改善点を議論し合い、自分の実体験をもとにあれこれ要求し続けたら、半年後、かなり満足できるテレビ会議システムが出来上がった。「これ、売れるんじゃないの?」ということになったものの、ここで500万円や1000万円という値段をつけたら、多くの人に手が届かないものになってしまう。そこで思い切って、値段を19,900円という月額課金に設定し、2004年にASP(アプリケーションサービスプロバイダー)として「V-CUBE」の販売を始めた。

 2007年には国内シェアNo.1となり、2008年には黒字化。当時は目立った競合もなく、商品の使い勝手も競合よりだいぶ優れていたのが業界で一人勝ちできた理由だった。その勢いに乗って上場をする予定だったが、リーマンショックの影響で延期となり、もう一度、資金調達して規模を大きくする方向に舵を切る。2009年にはインテル キャピタルからの出資が決まり、そこから本格的にグローバル展開を始めた。まずはマレーシアにオフィスを構える。

海外展開はゼロイチビジネスを仕掛けるようなもの。
現地を無理してでも動かすために、海外移住を決断

 東南アジアではローカル企業に狙いを定めて、セールスを始めた。日系企業にV-CUBEを売るという選択肢もあったが、それでは海外展開と言えないし、日系企業相手であればそれは本社が手掛ければいい。マレーシアやシンガポールのオフィスでは最初からローカルスタッフを採用して、ローカル企業を攻める方針を固めた。現地のパートナーも日系企業ではないという当時では珍しいスタイルだったと思う。

 ところが、なかなかスムーズにビジネスが進まない。シンガポールから日本本社に「できない理由、うまくいかない原因」が毎日のように寄せられる。現地から「こうしたい、ああしたい」というリクエストが来ても、本社から見れば理解に苦しむリクエストも多く、得られる金額も小さく、ちゃんと対応しようとはなかなかならない。ましてや英語で連絡が来ようものなら、皆が返事をするのを躊躇する始末。まわりの日系ベンチャー企業の中でも同じように海外進出したものの、現地での対応を本社がほぼ無視をして撤退を余儀なくされる企業をいくつも見てきた。補給を断たれた旧日本軍状態である。そういう事態に陥らないため、今、何をすべきか。自ずと出てきたのは、自分がシンガポールに行くという結論だった。自分が行けば、本社も無視は出来ないはずである。

 海外展開は「ゼロイチ」のようなものだ。多少の無理をしないと形にならない。すでに成熟している日本本社のものさしを使っていては、絶対に成功しないのだ。そのゼロをイチに無理やりでももっていくことができるのは、創業社長の自分しかいない。また、小さい時から心の中に秘めていた、海外で挑戦したいという気持ちに火もついた。V-CUBEはテレビ電話会議システムを売り出し、世界中どこでもリモートで仕事ができると謳っている会社なのだから、それを社長が実践することにも大きな意味があるのではないか。

 シンガポールに移住するという大きな決断に出たが、予想通り、多くの問題や課題が目に見えて解決された。ローカルスタッフの声を無視せず、しっかり拾うことができたし、現地の特殊事情を自分が納得して日本本社に説明できるようになったので、ものごとが動かしやすくなった。社長が乗り込んだということでローカル社員のモチベーションも上がり、一方、日本の社員も「社長自らが現地で頑張っているのだから」という気持ちになり、全社のグローバル意識が一気に向上。海外売上高比率は当初1%程度だったものが、2013年には約25%に。日本が赤字でも海外が黒字という状態まで持っていくことができたのは、やはり自分がシンガポールで強権発動的な経営の采配を振るえたからだと思う。

グローバル企業との交渉を経て 感じたこと
人間関係構築と英語が2本の柱

 ブイキューブは海外企業からの投資や海外企業の買収など、さまざまなグローバル企業との交渉を経てきた。そのような交渉から得たことは大きく2つある。

 1つ目は家族ぐるみの交渉にすること。家族ぐるみというのは、お互いの家を行き来し、食事を共にするというレベルのことを指す。家に行くと奥さんや子供の様子が見える。するとビジネスシーンではわからない相手の夫や父親としての姿を垣間見ることができ、その素の性格もわかってくるものだ。するとお互いに裏切りにくくなり、下手に出られなくなる。なるべく早く、人間関係をそういうところに持っていくことが重要だと感じている。

 2021年に買収した米国企業Xyvid Inc.の交渉時も、コロナ禍ではあったものの、買収前に相手のお宅に家族と共に訪ねた。奥さんや4人のお子さんと一緒にお酒を飲み、コミュニケーションを取る。家族で仲良くすることで、相手のこと、そしてその企業のことをよく知ることができたのは、買収交渉時にとても有効だった。

 2つ目は、交渉は直接手がけること。ここでハードルになるのは、やはり英語だろう。2009年まで、自分はまったく英語が喋れなかった。だからインテルとの交渉はほんとうに大変だったことを思い出す。担当者のほとんどがインド人。電話会議では何を話しているのか聞き取れず、正直苦痛で、電話会議が大嫌いだった。実はインテルの出資を交渉していた時、最初に来た返事は「NO」だった。投資案件は本国の投資委員会で決まるのだが、その理由を先方の担当者に尋ねたらトップの人物がNOといっているからだと言う。「そのトップの人物は絶対にわかっていないはずだ」と勘が働き、その日中にアポを取り付け、すぐにアメリカまで飛んでいった。現地で彼を捕まえて、15分間説得する。今振り返れば、相当にひどい片言な英語で捲し立てたと思う。でも、そんな片言でも通じたようで、翌週には投資にGoサインが出た経験がある。

 一方、2021年に買収をしたXyvid Inc.は白人が9割を占めるアメリカ東海岸の企業だ。ネイティブ英語の壁は今でも感じていて、東海岸独特の難しいイディオムを使われると、お手上げである。それでも買収交渉で怖気付かなかったのは、ネゴシエーションの場では自分の気持ちや言いたいことしっかりと伝える基本的な英語で十分だと割り切り、自分に自信を持てたからだと思う。

 グローバルコミュニケーションの中で素敵な英語を話す必要はない。もちろん素敵な英語を話せるにこしたことはないけれど、言いたいこと、言うべきことを適切なタイミングで伝えられればビジネスの世界では通用する。英語ができないという弱みを感じず、気負わずに堂々とやるのが上手くいく秘訣だと思う。

 こういった交渉を経て、日常の業務がまわり始めれば、自然と英語にも慣れてブラッシュアップされていく。自分はインテルとの交渉以来、特に英語の勉強に時間を割いているわけではなく、時間がある時に英語で映画を見るようにしているくらいだが、シンガポールでビジネスの経験も加わり、英語力はだいぶ上がったように感じている。

海外では外国人と積極的に付き合う。
生身のコミュニケーションこそが宝物

 ビジネスシーンで多くの外国人と付き合うと「日本人が英語を喋るのは簡単なことではない」ということを彼らがよく理解していることを肌で感じる。日本人の私たちが思っている以上に、彼らは「日本人=英語が苦手」ということを前提としてくれている。実際に自分が上手くない英語で話していても熱心に聞いてくれるし「日本語と英語の二か国語が話せてすごいな」とリスペクトしてくれる。ビジネス以外の話題、例えばスポーツや食べ物のことなど、自分の得意な範囲のことを英語で伝えれば、彼らとのコミュニケーションの幅はさらに広がる。そこにお酒でも入ったら、もう十分に心の通った会話が成立するものだ。

 むしろ英語よりも大切なのは、人間関係の構築と言えるのではないだろうか。シンガポール等に行った時には、できる限り日本人とつるまないように心がけた。日本人とつるみたいのならば、日本でやればいい、シンガポールでしかできないことをやろうと、当初から決めていた。だから日系の集まりはほどほどにし、グローバルな組織のイベントに積極的に参加するようにした。すると、そういった場に日本人が参加するのは珍しいから、皆が喜んで話しかけてきてくれる。そこでの会話が後々つながり、人を紹介してくれたり、食事に誘ってくれたり。日本のことが好きと言う外国人はとても多いから、みんな喜んで自分の周りに集まってきてくれる。正直、「日本人ってお得だな」と感じたし、こういう日本人であることの良さを上手くアピールしながら、海外では自分の殻を突き破って、ネットワークの構築に努めるべきだと考える。これからグローバルな舞台で働きたい人には強く伝えたいメッセージだ。

【文】黒田順子(2022年10月執筆)

Aun Communication のコメント:
自社の海外展開を加速するためにシンガポール移住した間下氏。創業社長自らが海外移住することのインパクトの大きさは計り知れないが、それ以上に特筆すべきは、間下氏が日本人以外のコミュニティやイベントに積極的に参加するなどして、現地に入り込んだことだと思う。そんな社長の姿は現地の従業員の士気を高めるし、また、会社が現地社会に受け入れられるキッカケとなったことだろう。日本発のITベンチャー・ブイキューブの今後の欧米での展開から目が離せない。

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