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南章行(ココナラ創業者)のストーリー 2/2

 後編は株式会社ココナラ取締役会長の南 章行氏の創業後のストーリー。英語で行ったプレゼンテーションやカンファレンスでのモデレーターといった経験から、感じたことを語ってもらった。(前編はこちら


未上場のうちから海外機関投資家と面談
粗野な英語でも自分で伝える大切さを知る

 2012年のココナラ創業からしばらく海外との接点はなかったが、2019年から海外機関投資家から投資を募るために動き出した。日本発のスタートアップが海外機関投資家から投資を得るというのは、当時としてはかなり稀有なケースだったように思う。

 なぜ、海外の機関投資家に期待するようになったのか。まず、国内証券会社がココナラに対して良い評価(バリュエーション)を持ってこなかったから。彼らのココナラに対する評価は自分の予想より大分低いもので、どうしても納得できなかった。色々な識者に尋ねて回ってみたら、やはり自分の予想が正しいような良い感触を得た。まだ会社が小さな規模のうちに機関投資家に会いに行くことで、自分の予想を現実に変えるための道筋が明解に見えてくるのではないか、そして海外投資家に入ってもらえれば、上場後、それを旗印に世界中の投資家が集まるのではないか。そのような仮説を立てて、未上場のうちに積極的に海外の機関投資家に会うように動いた。

 そのうちの一つがフィディリティ・インターナショナル(2019年、総額12億円の資金調達を実施)。世界中に展開している業界でも名前の通った資産運用会社だ。カウンターパートはシンガポールで、オペレーションのやりとりはロンドン。日本チームは日本語ができるが、シンガポールオフィスでの交渉やプレゼンは当然のことながら英語しか通じない。CFOと自分の2人でたどたどしい最低限のビジネス英語でコミュニケーションを図った。一度、通訳も入れてみたけれど、やはり自分の会社のことは自分で語ったほうが伝わるという確信を得たので、粗野な英語ながらも自分たちで面談に臨むことにした。こうやって試行錯誤しながら未上場のうちからココナラに投資してくれる投資家を海外で探し始めた。

英語のプレゼンは知的格闘技
質疑応答まで使って自分の思いを伝え切る

  シンガポールだけでなく、ロンドンやエジンバラにも飛んだ。1日5回のプレゼン。つたない英語ではあるが、自分で話せば通訳を介するのに比べて会話量は3倍になる。英語が下手すぎて印象が悪くなるリスクはあったものの、シンガポールでの経験から迷わず自分でプレゼンテーションをする道を選んだ。

 特に印象深かったのはエジンバラで行われたスコットランド人相手の最初のプレゼンだ。本当にしんどくて、開始1分で通訳を手配しなかったことを大後悔したほど。何度言い直してもらっても、スコットランド訛りの英語がまったく聞き取れない。プレゼンテーションはなんとか乗り越えたが、質疑応答は酷いもの。一発目がこの惨状だったから、これから数日間で同じことを十数社相手に繰り返すのかと思うと、恐怖感しかなくて泣きそうな気持ちになった。でも、多くの人を巻き込んでイギリスまで来たし、会社の成長と自分の人生がかかっているから、やるしかない。とにかく必死に1日5回のプレゼン繰り返すうちに、3日目には口が慣れてきて、流暢なプレゼンができるようになった。

 投資家が何を重視しているか、どのようなフレームワークを想定しているのかは、プレゼンを始めなければわからない。壮大な知的格闘技だ。ものすごく大変だった、だけど、ものすごく楽しかった。

 ここで伝えたいのは、日本の投資家と海外の投資家ではプレゼンテーションの流れがまったく違うということ。日本の投資家は、たとえ内容がつまらなくても最後まで聞いてくれ、質疑応答となる。ところが海外の投資家は「俺の聞きたいように聞かせろ」スタイル。プレゼンの1ページ目から質問してくる人、後ろから聞いてくる人、そしてプレゼン資料を全く見ない人などがいて、スタイルはバラバラ。こっちが言いたいことを一方的に話しても、向こうが聞きたいことを話さないとだめ。だから相手の理解したいフレームワークに合わせて話すほかない。投資家から矢継ぎ早に浴びさせられる質問に必死に答えるなかで、どうしても伝えたいことを、その中になんとか入れ込む。プレゼンテーションが終わった時の質疑応答までフル活用して伝えたいことを全て言い切るように工夫した。

英語でのゲストスピーカーやモデレーターでは
頭を使って乗り切る勇気と度胸が必要

 2018年、早稲田大学の外国人MBA生向けのイベントでゲストスピーカーを引き受けたことがある。講義の時間は、90分間のプレゼン+90分間の質疑応答。さすがに3時間の講義を英語で行った経験もなく、自分の英語では誤魔化しがきかないと判断した。とても忙しい時だったが、英語のスクリプトを自分で作って英語の先生に直してもらう。そして90分間、完璧に、そして流暢に喋れるように指導を受けた。そのために20万円もかけてバカだなと思ったけど、これは良い経験だし自分への投資。必死でやったら、3時間の英語の講座をやりきれた。こうやって英語のプレゼンも乗り切れるという成功体験があったから、イギリスやシンガポールで海外投資家に向けたプレゼンもなんとか成功させることができたのだと思う。

 またシェアリングエコノミーの団体で、海外のゲストスピーカー数名と繰り広げるカンファレンスのモデレーターを引き受けたこともある。正直「これは“絶対に”無理。その場で言われたことに英語で返す自信はない」と確信したのに、なぜかオファーを受けてしまった。そうなれば、やるほかない。「これ、どうやって乗り超える?」と途方に暮れたが、とりあえず英語の質問を10個考えて、不安を隠せぬまま当日を迎えた。 

 案の定、ディスカッションでは内容の1/3がわからず、どんな質問を投げかければ良いのかわからない深刻なレベルだった。でもそこで突然閃いた。カナダ人のコメントを聞いて、「その観点いいね! で、キミはどう思う?」と右のオランダ人に再質問する方法。わかるところは自分が答えるが、わからないところは他のゲストスピーカーに再質問して乗り切る方法だ。用意した質問は10個使い切ってしまったし、自分が何を喋ったのかわからない部分もあったけれど、会場のお客様からは拍手喝采。こうして外国人とのディスカッションの回し方を会得することができた。次、同じようなオファーが来たら、この経験を活かして、もっと上手にまとめることができるだろう。

必要なのはスーパーサイヤ人的発想
失敗した人にしか見えないものがある

 こうやって、少しづつハードルのバーを上げる感覚を多くの人に知ってもらいたい。難しそうなハードルを乗り越えると、それよりも「ちょい高め」のハードルがやってくる。でも乗り越えず諦めた者に次の「ちょい高め」のハードルはこない。ハードルが飛べずに転んだっていい。それが次への成功へと繋がるのだから。失敗を恐れて飛ばないよりも得るものは格段に大きいだろう。

 自分はキツかった経験を積み上げることで、新しいことへのチャレンジができるのだと考えている。現在の自分がこうしてあるのも、こうした「スーパーサイヤ人」的な感覚を大事にしてきたからだと思う。スーパーサイヤ人とは、漫画『ドラゴンボール」で登場する「死にかけると前より強くなる」という設定のキャラクター。

 おそらく周りの人から、南という人間は大きな失敗をいくつもし、危機的な状況に陥っていたことが幾度もあるように見えていたはずだけど、自分はそれを成功と解釈しているから、「これまで挫折したことはありますか?」と言われても何一つ思い浮かばない。むしろ過去のやらかしを「挫折」とネガティブにとらえず、脳内で正当化する、そんなトレーニングを無意識のうちに重ねることで進化を重ねてきたと自信を持って言える。失敗は学びに変わる。そんな気概があれば過去なんていくらでも変えることができるだろう。世の中には成功と学びしかない。これが自分の揺るぎない信条だ。

【文】黒田順子

Aun Communication のコメント
 海外機関投資家とのコミュニケーションにおいて、通訳を介さず直接やり取りしたエピソードが印象深い。完璧な英語ではなくても(むしろ、完璧ではないからこそ)、その姿勢、熱意、本気度が投資家に伝わり、実際の資金調達に繋がったのだと思う。
 グローバル時代においては、たとえ日本国内でスタートアップや中小企業を経営していたとしても、少なくとも自身の想いや会社のミッションは自ら英語で伝えることができるように準備をしておくべきはないだろうか。

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