高田徹|マップボックス・ジャパンCEO
「インスタ映え」とTikTok的「コンテクスト消費」──“Z世代の消費“を考える
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「インスタ映え」とTikTok的「コンテクスト消費」──“Z世代の消費“を考える

高田徹|マップボックス・ジャパンCEO

最近、あるデジタルメディアの経営者の方から「最近のトレンドは、Z世代を中心にInstagram的な“映え”から、“コンテクスト消費”に移行しつつある」という趣旨の話をお聞きしてハッとしました。ここでいうコンテクストは「文脈」というような意味合いです。

これまでは非日常ともいえる「映え」、つまり他者からの「憧れ」の対象となるような経験が重視されてきました。

しかし、最近のZ世代(1990年代中盤から2010年代序盤までに生まれた世代)はもっと身近なもの、自分らしい体験のほうに重きをおくようになっているということでした。

たとえば「絶景を見渡せる場所で写真を撮る」ことよりも、「友人の誕生日にケーキを焼いた」というコンテクストを大切にするようになってきたという話です。

もっといえば、「友人の誕生日を祝う」というだけではなく、雰囲気のよい高級店で祝うとなれば“Instagram”的である一方、「気のおけない仲間が集まって誕生日を祝う」という、その人にしかない文脈(コンテクスト)が加わるというイメージです。

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「映え」から「コンテクスト」というお話をお聞きしたとき、私の頭を瞬時によぎったのは、「Instagram」と「TikTok」との違いでした。

どちらのプラットフォームも、自分で撮った写真や動画をアップするわけですから、「どう見られるか」という点を重要視しているSNSであることには変わりはありません。共にユーザー数も膨大です。

しかし、「映え」を重要視してきたInstagramよりも、TikTokは「コンテクスト」重視のトレンドと相性がよいのではないかと感じたのです。そう考えると、TikTokが飛躍的にユーザー数を伸ばしていることの合点がいきます。

コンテクストと相性のいい「TikTok」

なぜTikTokはコンテクストと相性がよいのでしょうか?

いちばんの違いは、Instagramでは「写真」をアップすることが多いのに対して、TikTokは「動画」をアップするという点です。

Instagramでは「映える」場所や素材を探すだけでなく、写真を加工して、さらに「映え」を演出する傾向があります。

TikTokも、フィルターやエフェクトを駆使して盛ることはできますが、Instagramに比べると動画は加工してもいわゆる「映え」とは異なります。また「縦型」動画はテレビなどで馴染みのある「横型」とは異なり、ふだんからスマホで撮るのが「縦型」であることから「日常」に近いものであるため、「素」の状態に近いコンテンツになるのではないでしょうか。

「日常」であり、「素」に近い。その特徴はマーケティング分野でも活用され始めています。たとえば、以下の記事で紹介されているANAの“TikTok”活用法です。

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記事内では、機体洗浄の動画をアップしたところ、視聴者から「手洗いなんだ!」と驚きの声があがったことで、「我々にとっては日常の光景だが、視聴者の方には新鮮に感じてもらえる」という気づきを得たという事例も紹介されています。

顧客向けに念入りに加工したコンテンツよりも、「素」に近いコンテンツのほうが真実味、新鮮味があるということなのでしょう。

実際、ANAでは「いいね数」よりも、「共感」を重視した戦略をとっていると記事にもあります。Instagramでは「非日常」がコンテンツになりやすいのに対して、“TikTok”ではコンテクスト(文脈)さえあれば「日常」もまたコンテンツになるということを示しているのではないでしょうか。

ANAは今後、採用にもTikTokを活かしていくようですが、たしかに、静止画ではなく、動画で「日常」を伝えたほうが、社内の素の雰囲気が伝わり、入社後のミスマッチを防ぐことができそうです。

「憧れの消費」から「文脈のある消費」へ

こうした違いはなぜ生まれたのでしょうか?

「Instagram的なもの」と「TikTok的なもの」との違いを社会的背景の変化から考えてみたいと思います。理由は3つあると考えられます。

1つ目は、長期的にデフレ化にある日本ならでは特徴とも言えますが、ロープライスでハイクオリティーなサービス・商品があふれることで、「映え」の希少性が下がってしまったのではないかということです。

びっくりするほどの高いお金を払わなくても、おいしくて、きれいで、快適な体験が誰でもできるようになりました。「映え」の大切な構成要素の1つである「差別化」が難しくなるのは当然といえば当然です。

2つ目は、「非日常」よりも「日常」を大切にする傾向が顕著になっているということ。これはコロナ禍で人と対面で会う頻度が減少していることも影響しているかもしれません。

ステイホームが推奨され、リモートワークが普及したことで、人と会う機会も時間も減少。結果として、多くの人が自分の「日常」と向き合う時間が増えたことで、「非日常」への憧れが相対的に減少した可能性があると私は思っています。

コロナ禍でファションなどにかける金額が減少する一方、住宅や家具にお金をかける人が増えたと言われているのも、仮説を裏付ける現象と言えそうです。実際、大手アパレル企業が店舗数を減らし、希望退職を募ったという報道がある一方、引っ越し需要、不動産需要が増加しているというニュースもよく流れていましたし、首都圏の新築マンションの平均価格においては、あのバブル期を超え、過去最高を記録したそうです。

3つ目は、定性的な仮説ではありますが、「SNS疲れ」「いいね疲れ」といわれるように、無理をして「映える」写真を撮るのに疲れてしまったということが挙げられます。その点、「日常」であり、いいねを押さなくてもオススメが勝手に流れる受動的なTikTokが受けているのではないでしょうか。

非日常から日常へ、憧れの消費から文脈(コンテクスト)のある消費へ、ユーザー心理の変化が加速しているのではないか──これが私の見立てです。

どちらの消費も満たす「旅」というコンテンツ

ここまであえて「Instagram的なもの」と「TikTok的なもの」を対比させていますが、これらは対立するのではなく、今後も併存していくのだと思います。

マズローの欲求5段階説では、人間の欲求が低次から高次へと変化していくと言われています。低次の欲求である「生理的欲求」「安全欲求」あたりが満たされると、次は「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」というように、精神的な欲求へと推移していく。

そう考えれば、非日常であろうと日常であろうと、写真や動画をシェアするという行為は、高次の欲求を満たすためのアプローチの違いであって、どちらも精神的な「何か」を満たすアクションという意味では同じです。

少し唐突に聞こえるかもしれませんが、「Instagram的なもの」と「TikTok的なもの」のどちらの消費も取り込めるのが「旅をする」という行為ではないかと私は思っています。

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国内外でリゾートホテルを展開する星野リゾートの戦略を見るとわかりやすいかもしれません。星野リゾートでは、施設内での料理、催しが充実しているだけでなく、雲海や星空といった「非日常」のコンテンツも用意されているため、いわゆる「インスタ映え」する要素満載です。

一方で、地域との連携も強化しており、近年力を入れている都市観光ホテルブランド「OMO」では、「ご近所マップ」という地図が用意されていて、「映え」というよりも、その地域”らしさ”に根ざした「日常」の発見にも力を入れていることがわかります。

里山十帖や松本十帖を展開する自遊人、さらには「宿泊施設の個性を活かす、新たな仕組みをつくる」をミッションに掲げるTabist(4月にOYO Japanから社名変更)もまた、価格帯等の戦略はそれぞれ違いますが両方の消費を含んでいます。

ご縁がありマップボックス・ジャパンは、Tabistの地図制作のお手伝いをしています。

地図というのは”無色透明”ではおもしろくないと常々思っています。もちろん、便利な地図は必要ですが、それだけではなく独自の編集方針で編まれた地図があったほうが、私たちの生活や日常が彩りのあるものになるはずです。

星野リゾートの「ご近所マップ」というのも素敵な試みだと思います。やはりローカルの再発見は地図から始まるものです。

ドライブアプリ「SUBAROAD」の制作にマップボックス・ジャパンもご一緒していますが、「最短ルートではなく、おもしろい道を走る」というコンセプトに大変な刺激を受けています。

地図は、写真や動画など何でも重ねることができるプラットフォームです。「Instagram的なもの」や「TikTok的なもの」をどのように取り入れていくべきか、引き続き模索していきたいと思っています。

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高田徹|マップボックス・ジャパンCEO
米国Mapboxの日本法人CEOです。「デジタル地図」で世界を変えることにチャレンジしてます。ソフトバンク投資部門を兼務。好きなマンガは『美味しんぼ』。→ https://twitter.com/torutakata