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地図は「北が上」派 vs. 「進行方向が上」派

全世界で600万部、日本だけでも200万部を突破している『話を聞かない男、地図が読めない女』

日本では2000年に発刊され、その後2002年には文庫改訂版、さらに2015年には新装版が出されています。

恥ずかしながらどんな話だったか忘れてしまったので、先日、文庫改訂版を入手して読み直してみました。

一読されたことのある方ならご存じだと思いますが、そもそもこの本は、「男女の脳の働きの違い」について扱ったものであり、「地図の話」はほんの少ししか載っていません……。

とはいえ、せっかくの機会ですから、この本をきっかけに、「地図」についてあれこれ考えてみたいと思います。

いつから地図は上が「北」なのか

「地図」という観点で注目したいのは、第5章「空間能力」。

冒頭、ドライブ中のレイとルースという名前の夫婦が登場。

夫のレイは、妻のルースが道案内のために地図を回転させることに腹を立てています(「北」が上になっている紙の地図では、文字も北を上にした際に読めるように印字されているため、地図を回転させてしまうと文字が読みにくくなることに、レイは怒っている)。

今では地図アプリでナビゲーション機能を使えば、「進行方向」が上になるように地図が勝手に回転してくれるので、2022年の2人はもうドライブ中に喧嘩をしなくなったのではないでしょうか。

とはいえ、実は、私も地図を見たらすぐに「北」がどちらかを確認してしまうのですが……(地図業界では、「北」が上の地図を「North Up」「進行方向」が上になる地図を「Heading Up」と呼んでいます)。

また、インターネットで検索してみると、「“North Up”か“Heading Up”か論争」が思った以上にあちこちで展開されているようでした。

では、いつ頃から「北が上」だったのか気になって検索したところ、ウィキペディアには次のように載っていました。

「古代ローマ時代までは北が上であった。中世の世界地図は、ヨーロッパでは東が上、イスラームでは南が上、中国では北が上であった。どの方位を上にするかにも意味が込められていることが多い」

初期の世界地図|Wikipedia
クラウディオス・プトレマイオスの世界像に基づく世界地図。クリストファー・コロンブスのアメリカ航海の10年前のもの。(Wikipedia

国や地域によっても違っていたのですね……。

そして、その後、「北が上」となっていったのには、航海の際、「北極星」の位置から方角を割り出していたことも影響しているようです。

ちなみに、北九州にあるゼンリンミュージアムに伺って勉強した「地図の歴史」についてnoteにまとめていますので、お時間ある方はぜひご一読ください。

興味深く感じたのは、書籍のなかで、1998年にイギリスで制作された「南「が上になっている地図が紹介されていることです。

2022年現在、先述したようにアプリ1つで解決できることではありますが、当時としては画期的なアイデアだったのではないでしょうか。

また、もう1つ目を引いた地図雑学は、GPSを使ったナビゲーションに関する話題があったこと。

インターネットで検索すると、世界初のカーナビは、1981年にホンダが開発した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」のようですが、カーナビゲーションの歴史にも「“North Up”か“Heading Up”か論争」のヒントが隠されていそうです。

“Heading Up”の立役者はカーナビゲーション!?

たとえば、カーナビの歴史が詳細に記述されている次の記事には、1989年に“Heading Up”的なカーナビが搭載されたとあります。

「1989年には、日産が『シーマ』に進行方向を上にして地図を表示する『マルチAVシステム』を搭載。地図は90度ごとに回転するタイプでしたが、進行方向が上になる“ヘディングアップ”の先駆けともいえる仕様が、初めて実用化されました」

始まりは1981年のホンダ!カーナビの歴史:その1|GAZOO

そして、その後、現在のような「検索機能」「ナビゲーション機能」等が登場──。

ここまでの情報をもとに、私の仮説をメモすると次のようになります。

もともとは地域や制作者によって『どの方角を上にするか』はばらばらだった

次第に『紙の地図』は “North Up”が主流に

『デジタルマップ』の出現で“Heading Up”の可能性が芽生える

『カーナビゲーション』の普及で “Heading Up”がスタンダードに

スマートフォンの普及で“Heading Up”派が多数派に(?)

ただ、もちろん私自身が“North Up”派であるように、まだまだ「北が上」派も健在です。

また、リアルな世界以外では、たとえば、ゲーム画面の隅っこに表示される地図も方角が固定されたものが多い印象です。シチュエーションによって、便利な手法を選択するのがベストというのが実際のところではないでしょうか。

また今回、深掘りはしませんが、普及するデバイスの「形」によって、サービスの「フォーマット」が決まってくるという可能性もあるように感じています。

たとえば、下記の記事では、「“North Up”か“Heading Up”か論争」についても触れられています。

私がとくに気になったのは、次の記述です。

「進行方向の状況をより詳しく把握できる縦長ディスプレイが今後普及するかもしれない。すでにテスラやボルボをはじめ、トヨタの『プリウスPHV』など採用例は少ないが実例はある」

カーナビの地図は「ヘディングアップ」? それとも「ノースアップ」?|Motor-Fan

鶏が先か卵が先かの議論かもしれませんが、縦読み漫画が急速に増えたり、ティックトックなどのシュート動画で「縦長」が主流となっているのは、スマートフォンの普及と無縁ではないのは間違いなさそうです。

“North Up”でも“Heading Up”でもなく、空を見上げる!?

ちなみに、先日、次のようなリリースを見つけました。

「Yahoo! MAP、スマートフォンを空に向けると、目的地の方向の上空にキャラクターがARで浮かび、目的地の方向を示す『ルックアップ』機能を提供開始」

Yahoo! MAP、スマートフォンを空に向けると、目的地の方向の上空にキャラクターがARで浮かび、目的地の方向を示す「ルックアップ」機能を提供開始|ニュース - ヤフー株式会社

今後、カーナビなどでも実装されている音声で伝える機能と、ARやVR技術が結びつくことで、近い将来は、“North Up”でも“Heading Up”でもない第三の手法が登場しているかもしれませんね。

ちなみに、みなさんは地図は「北が上」派ですか? 「進行方向が上」派ですか?

おわりに

最後に。「“North Up”か“Heading Up”か論争」に触発され、マップボックス・ジャパンでは「North Upステッカー」と「Heading Upステッカー」を制作しました。

私も、お会いした方々へ「どっち派ですか?」と聞きながら、ステッカー配布していこうと思います。

マップボックス・ジャパンHP

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