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Web3と地図──「集合知」は「公共性」につながる


2022年の年末からビジネス系メディアの話題は「ChatGPT」一色といった雰囲気もありますが、今回はあえて「Web3と地図」について取り上げたいと思います。

「Web3と地図」を考えるきっかけとしてご紹介したいのが「Hivemapper(ハイブマッパー)」というWeb3プロジェクトです。

「Hivemapper(ハイブマッパー)」 https://hivemapper.com/explorer

概要については、下記Webサイトに簡潔にまとめられています。

hivemapper 概要と考察レポート|CT Analysis

一言でいえば、「専用カメラをつけて運転することでトークンを獲得する」プロジェクトです。

少し小難しい話をすると、「ハイブマッパー」は分散型自律組織の「DAO」の一種であり、FT(ファンジブルトークン)が1種だけ発行される、いわゆる「シングルトークン」のDAOになります。

「地図だったらGoogleマップで十分じゃないか」と思われるかもしれませんが、「ハイブマッパー」は中央集権的なデジタル地図へのアンチテーゼとして生まれており、活動の方向性についても「投票」により決定していくという特徴があります。

hivemapper 概要と考察レポート|CT Analysis

「分散型物理インフラネットワーク」(DePIN)の観点を含む、「ハイブマッパー」の戦略については、共同設立者兼CEO自ら語っている記事が参考になります。

DePIN(分散型物理インフラネットワーク)とは何か? 持続可能なDePINを築く鍵は?|coindesk JAPAN

Web3的な発想と地図は相性がいい

私が今回なぜ、「Web3と地図」というテーマを掲げたかといえば、どちらも「集合知」的な特徴を有しているからです。

地図の成り立ちから考えれば明らかですが、いまほど世界の形がはっきりしていなかった時代、人々は自分たちの知っている道や場所を寄せ集めて「地図」にしたり、別の地域の人たちと情報を交換しながら「地図」をつくっていったと考えられます。

だからこそ、初期の「地図」は、距離感がチグハグになっていたり、存在しない想像上の島が描かれていたりします。洋発の詳細な世界地図が誕生したり、日本でも江戸時代に伊能忠敬をはじめとする地図製作者の努力によって精度の高い地図が誕生することになりました。

地図の歴史については、過去のnoteをご覧ください 。

私は地図がもともと有している「集合知」的な要素は、いまの時代にも有用だと考えていますし、実際に「ハイブマッパー」誕生以前から、デジタル地図の世界では、さまざまな「集合知」的な取り組みが行なわれてきました

代表的なものの1つが、2000年代にスタートした「OpenStreetMap(オープンストリートマップ)」です。

「OpenStreetMap Japan」のサイトには、「OpenStreetMap(OSM)は、誰でも自由に地図を使えるよう、みんなでオープンデータの地理情報を作るプロジェクトです。プロジェクトには、誰でも自由に参加して、誰でも自由に地図を編集して、誰でも自由に地図を利用することが出来ます」とあります。
「オープンストリートマップ」と「ハイブマッパー」の仕組み上の違いを1つ挙げるなら、内部資本の有無であり、「ハイブマッパー」は内部資本を持ち、メンバーに報酬を提供しながら活動しています。

他にも、メタ(旧フェイスブック)が2020年に買収した「Mapillary(マピラリー)」も「集合知」的な使命を掲げています。

「Mapillaryのチームが掲げる使命は、画像を通じて世界のさまざまな場所を知るためのテクノロジーとツールを構築し、そのデータを誰もが利用できるようにすることです。あらゆる人々にMapillaryのデータを利用していただき、より良い地図の作成、より安全な交通環境の実現、都市開発、場所やストーリーの視覚化、過酷な場所にいる人々の支援に役立てていただけることを願っています」

Mapillaryについて|Mapillary

また2022年に、マイクロソフト、アマゾン、メタ、トムトムによって設立された「Overture Maps Foundation(オーバーチュア・マップ・ファンデーション)」のサイトには、「Collaborative Map Building」と書かれているだけでなく、Executive DirectorのMarc Prioleau氏は挨拶文の中で、「collective insights」という言葉を使い、「集合知」的な取り組みであることを強調しています。

「私たちはテクノロジー、エンジニアリングスキル、データを結びつけるために、より大きなコミュニティを構築する必要がありました。 Overture の目的は単純明快です。オープン マップ データの領域を向上させ、現在および次世代のマップ製品を強化することです。 拡大するコミュニティの集合的な洞察により、単にデータセットを蓄積するだけではありません。 むしろ、地図データが最新の状態を維持し、相互運用可能であり、幅広いアプリケーションに対応できる未来への基礎を築くための意識的な取り組みです。 Overture は、利用可能な高品質のデータ ソースを活用し、協力の橋を築くことを目的としています。 それは旅であり、すべてのステップ、すべてのリリース、すべてのパートナーシップが重要です。」

Who We Are|Overture Maps Foundation

もっと身近なものを挙げると、オープンストリートマップを活用した「OpenSkiMap(オープンスキーマップ)」などは、「集合知」によって生まれた地図の好例といえます。

OpenSkiMap.org

災害時にも活かされた「集合知」的なアプローチ

地図の「集合知」的な特徴は、災害時にもその真価を発揮します。今回の能登半島地震でも、公の機関だけでなく、民間企業、そして人々の善意による「集合知」によって、さまざまな「地図」がつくられました。

また、これから復興に向かう過程で、「この橋はヒビが入っているから危険だ」とか「建物が倒壊しているので、この道は通れない」とか、集合知的な情報を集めた「地図」が必要になります。

【令和6年能登半島地震 道路復旧見える化マップ(国土交通省)】

【能登半島地震 復興まちづくり支援マップ(α)】

【通れた道マップ 災害発生時の安全な走行のために(トヨタ)】

【能登半島地震コネクトマップ】

それは、東日本大震災のときも同じで、このnoteでも取り上げたことのある「震災インフォ」は、地震発生の数時間後にボランティアの技術者たちによって立ち上げられました。

地震後4時間足らずでオープンした「sinsai.info」|日経クロステック

「震災インフォ」や中心人物の一人である関治之さんのことは下記のnoteで紹介しています。

Web3と公共インフラの維持

話を「Web3」に戻すと、地震発生時のような有事においては、「インセンティブの設計を」などと、悠長なことは言っていられません。一方で、中長期的なインフラ維持には、「ハイブマッパー」がそうであるように、DAO的な発想を組み込み、インセンティブを提供するような枠組みがあったほうが、持続可能な活動になるようにも思います。

そして、すでにそうした試みは、日本で実際に行なわれています。

たとえば、「鉄とコンクリートの守り人」からスタートして、「マンホール聖戦」で話題となり、社会貢献型Web3ゲーム「TEKKON」に結実した一連のプロジェクトは、「集合知」と「インセンティブの設計」を意識したチャレンジです。

「TEKKON」のサイトには次のような記述があります。少し長いのですが、Web3的な発想が「公益」に結びつくことがよくわかる内容ですので、引用してご紹介します。

「水道関連インフラに関して、一例を挙げよう。日本全国には、下水道関連のマンホールが1,500万基ほどあるとされ、そのうち300万基ほどが耐用年数を超えていると言われる。こうしたマンホールに対し、下水道局は修繕や更新をかけていくことになるわけだが、この方法は、「壊れてから(事故が起こってから)交換する」という受動的なものか、もしくは「年齢順に交換する」という、非常に非効率なものである。なぜ非効率なのか?それは、いくつもの環境要因によって、必ずしも年齢順にマンホールが劣化するわけではないからであり、これは年齢だけをベースに人間の健康状態を診断することが、必ずしも正しくないことに似ている(健康診断の問診票に、あなたは定期的に運動をしていますか?お酒をどれくらい飲みますか?などといった項目があるのを見たことがある人はわかるだろう。こうした後天的行動要因が、病気の発症に大きく影響していることが知られている)。しかし、この1,400万基のマンホールの表面写真を市民がすべて撮り尽くすことができたらどうだろう?我々が開発した『TEKKON』の試験版アプリでは、東京都渋谷区に存在する下水道マンホール10,500基を、市民のスマートフォンを使うことによって、たった3日ですべて撮り終えることに成功した(これは下水道局が保有し得なかったデータである)。このペースで行けば、日本中、いや世界中にあるマンホールの写真を撮り終えることに現実味が出てくるということだ。こうして実際の状態を前提に交換するマンホールを選定することで、莫大な更新投資金額を30〜40%も削減できるという試算を行っている。公共インフラの市民による状態監視、また公共料金の削減に、現実味が出てくるのだ」

TEKKONのビジョン|TEKKONホワイトペーパー

維持コストや管理コスト等が課題となる公共インフラは、他にもあります。
たとえば、道路、橋、トンネル、河川等。

こうした公共財の維持を、集合知を生み出しながら持続的に行なっていくには、「Web3」と「地図」を掛け合わせたような発想が必要になっていくのではないでしょうか。

「Online meetup」と「GEO展2004」開催します!

今回は、地図の可能性を「Web3」と掛け合わせることで考えていきましたが、いかがでしたでしょうか。

地図には他にもさまざまな可能性があります。少しだけPRになりますが、「もっと知りたい!」という方はぜひ、マップボックス・ジャパンが関わっているイベントにご参加いただけると嬉しいです。

mapbox/OpenStreetMap Online meetup #15

「災害対応とウェブ地図の最前線」をテーマにしたOnline meetupです。

日時:3月27日(水) 19:00〜
参加無料

ジオ展2024

地理空間情報をテーマに企業やサービスが集う「共同展示会」です。

日時:2024年4月19日(金) 10:00〜
入場無料(要登録)

ぜひ、足をお運びください!