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「生成AI」は「検索」を代替しない──地図とGenerative AIの未来を考えてみた

前回は「メタバースとAIの先にある世界」という切り口で、AIが得意なこと、人間が得意なことを考えました。今回は、昨年末から話題を呼んでいる「ChatGPT」がもたらす「地図の未来」について、あれこれ想像してみたいと思います。

そもそも、「ChatGPTとは何か」について、せっかくなので、ChatGPT(AI=機械)に「ChatGPTについて教えてください」と質問してみました。

簡潔でわかりやすい回答ですね。ちなみに、下記が(人が書いた)ウィキペディアの内容です。

「ChatGPT(チャットジーピーティー、Generative Pre-trained Transformer)は、OpenAIが2022年11月に公開したチャットボット。OpenAIのGPT-3.5ファミリーの言語モデルを基に構築されており、教師あり学習と強化学習の両方の手法で転移学習されている。2022年11月30日にプロトタイプとして公開され、幅広い分野の質問に詳細な回答を生成できることから注目を集めた。しかし、人間が自然と感じる回答の生成を特徴としていることから、自然に見えるが事実とは異なる回答を生成することもあり、大きな欠点とされた。ChatGPTのリリース後、OpenAIは290億米ドルと評価された。ローンチから2か月で、ユーザ数は1億人に達した」

ChatGPT|Wikipedia

2カ月で1億ユーザーを突破というのは、歴代SNSと比べても、桁違いの速さです。2006年にスタートした「Twitter」のユーザーが1億人を突破したのは、2010年のことでした。ツイッターよりもはるかにスピーディにユーザーを獲得した「TikTok」や「Instagram」と比べても、その差は歴然です。

「TikTokとInstagramがアクティブユーザー数1億人に到達するのに要した時間は、それぞれ9カ月と2年半だ。それらのサービスよりもはるかに前に登場した『Google翻訳』は6年半、『Facebook』は4年半を要した」

「ChatGPT」、史上最速でアクティブユーザー数1億人に到達か|ZDNET Japan

賛否両論、「ChatGPT」にまつわる情報も爆発的に増加

そうした熱狂を裏付けるように、インターネット上では「ChatGPT」に関する話題が急激に増え、その性能に驚く声、あるいは懸念などで溢れかえっています。

ニューヨーク市、あるいはフランスのパリ政治学院のように「ChatGPT使用禁止」の判断を下した自治体や大学もあれば、シンガポールのように学校現場での利用を認める国も出てきました。

「ChatGPT」と比較されることの多いグーグル陣営も「近い将来Google検索にもAIによる新しい機能を追加し、複雑な情報と多角的な視点を分かりやすく整理して提供するとしている」と報道されています。

また、回答のレベルの高さという点では、さまざまな試験で合格点を獲得したことが報じられています。

一方で、「嘘をつく」「間違った情報を教える」という反応も多くあり、世界中の人々の関心の高さが窺えます。

「ChatGPT」と「キーワード検索」の違いは何か

このように、さまざまな意見が飛び交う「ChatGPT」(Generative AI)について、誤解を恐れずにいえば、「検索を完全に代替することはない」と私は考えています。もともと私も検索エンジンをつくる会社で働いていたこともあるので、その違いを意識的に捉えているのかもしれません。

あくまで現時点での仮説に過ぎませんが、「検索エンジン」と「Generative AI」との違いを、次のような4象限マトリクスで考えてみました。

「検索エンジン」と「Generative AI」との違い

あくまで現時点での仮説に過ぎませんが、「検索エンジン」と「Generative AI」との違いを、4象限マトリクスで考えてみました。

縦軸を「悩み」として、上に行くほど「クリア」、下に行くほど「曖昧」に。横軸は「イシュー度」として、右に行くほど「重要度」がアップして、左に行くほどダウンしていくと考えると、「検索エンジン」は右上の第1象限に、「Generative AI」(ChatGPT)は左下の第3象限に置くことができます。なぜ、私がそう考えたかの理由が次のメモになります。

検索エンジンは「正解」、Generative AIは「共感」

私たちは、「検索エンジン」を使う際、ある程度はっきりした「問い」をもったうえで、「キーワード」を入力します。その「キーワード」に反応する形で、検索エンジンは「解の選択肢」を複数並べてくれます。「ファクト」が表示されるという意味で、私たち自身が悩みそのものを「クリア」に意識しているほど、正解にたどりつきやすくなると考えられます。

一方の「Generative AI」は、こちらの「問い」に対して「提案」を返してくれます。その際、そもそも私たちの悩みが曖昧で、イシュー度も低ければ、「Generative AI」が行なう「提案」もまた「こういうのはどうですか?」という感じにならざるを得ません。

それに対して「人」が「ちょっと違うな」となれば、文脈を読みながら「じゃあ、こんな感じですか?」と軌道修正して対話をしていくことを想定しているからこそ、「ChatGPT」には「Chat」という名前がついているのではないでしょうか。「ChatGPT」は、正解不正解、真偽のほどを最重要視しているというよりは、「それ、いいね!」とか「なるほどね!」とか、「共感できるかどうか」を「ゴール」としているような気がするのです。

つまり、検索エンジンのゴールは「正解」であり、Generative AIのゴールは「共感」というように、現時点では「両者のゴールは違う」というのが私の見立てです。

余談ですが、日本マイクロソフトが開発したAIの「りんな」に採用されているのも「共感チャットモデル」であり、「共感」は「Generative AI」を考える際のキーワードになりそうです。

有楽町で「ChatGPT」の"配慮"に触れた

では、「Generative AI」の1つのゴールが「共感」だとすると、「地図」と掛け合わせたら、どんなサービスが生まれるでしょうか。

たとえば、この記事を書く数日前、私は失効してしまったパスポートを再取得するために、有楽町に出かけました。しかし、忙しさにかまけて窓口に行くのを後回しにしてしまったことが原因で、窓口の方に、「期限が切れているので、もう一度申請してください」と告げられてしまったのです……。完全に私の落ち度ですので、ショックを受けながらも再申請することにして、窓口をあとにしたのですが、ちょっと休憩したいなと思いながら、街を歩いていました。

そんなとき、「キーワード検索」をする場合は、まず頭の中で「いま、有楽町にいるから、場所は有楽町。ゆっくりしたいけど、まだ夕食には早いから、カフェがいいかな。甘いものも食べたいけど、夜も打ち合わせが長引きそうだから、カレーを食べておいたほうがいいかな。いや、会食が入るかもしれないから、やっぱりデザートにしておこう」と考えたうえで、「有楽町 カフェ 甘いもの」と入れて、喫茶店を探すことになります。

では、「ChatGPT」をはじめとする「Generative AI」ならどういうアクションになるでしょうか。

検索キーワードに最適なワードを頭で考える間もなく、「今、有楽町駅の近くにいて、ちょっと疲れたから甘いものが食べられる、すぐに入れるカフェを教えてください」と思ったことを口にするでしょう。ということで、実際に入力してみたところ……。

こう答えてくれました。現時点では、「ChatGPT」は最新情報がインプットされていないのか、コーヒーのチェーン店をオススメされました。ちなみに、紹介されたこれらの店名は正確ではありませんが…。

ただ、近い将来、飲食店の最新情報を地図技術と組み合わせたり、音声入力に対応するようになれば、外出時に相当頼りになる相棒になりそうな予感がします。

そして、私が感じたのは「私に寄り添ってくれている感」があったことです。私の「すぐに入れる」という希望に対して、「あらかじめ確認してから訪れることをおすすめします」という答えには、AIなりの人間への配慮を感じました。

「ChatGPT」と「地図技術」を掛け合わせるとどんなサービスが生まれるか

「キーワード検索」が私たちに有益な情報をもたらしてくれるのは、私たちが「何を調べたいか」を知っているからです。ただ、私が有楽町を所在なさげに歩いて「どこかで一休みしたい」と考えていたように、私たちの毎日はそこまで「目的」的ではありません

それは、地図を使った旅も同じで、分刻みでスケジュールを決める方もいるかもしれませんが、「空港についたあと、タクシーに乗ってホテルの部屋に行ってから、何をするか考えよう」というようなケースのほうが多いでしょう。

そんなとき、iPhoneのSiriや、Google Homeみたいに呼びかければ、いい感じの返事をしてくれるチャットボットがあれば、需要がありそうです。実際、すでに海外では「都市名と滞在日数を入力するとOpenAIが旅行日程を作成してくれるツール」が登場し、話題を呼んでいます。

今、世の中では「グーグル検索の終焉」というようなセンセーショナルな切り口でさまざまな議論が行なわれています。もちろん、キーワード検索とのシェア争いという面はあると思いますが、私はどちらかといえば、両者は用途も使い方も、ユーザーが求める「答え」も違うように感じています。その仮説を、「人間の認知」という観点で整理したのがこちらの図です。

「知覚→悩み」はGenerative AI、「問い→答え」は検索エンジン

図の右側(問い→答え)は「検索エンジン」に向いていて、左側(知覚→悩み)は「Generative AI」に向いていると考えられそうです。また、「悩み」を「問い」に変換する際にも「Generative AI」は使えるかもしれません。「正誤」ではなく「好き嫌い」の世界の話は「Generative AI」のほうが得意そうです。

たとえば、スマホやPCでの検索には「調べるぞ」という能動性が必要ですし、文字にする時点であたまの中の整理をしているとも言えます。Generative AIは、先ほどの有楽町の移動中の例にもあるようにインターフェイスがイヤホンやAR(拡張現実)のメガネなどによる音声入力になれば、「独り言」で気持ちを伝えるだけで答えてくれます。クルマでの移動中も音声入力のほうが便利でしょう。

最後に、「ChatGPT」に、「ChatGPTと地図技術を掛け合わせると、どんなサービスが生まれるか」を尋ねたら、次のようなサービスの可能性を教えてくれました。

「ChatGPT」の"コンシェルジュ"的なサービスを提案している回答は、なかなか当を得たものです。飲食店について聞いていた文脈(コンテクスト)を読み取ってのことか、「飲食店検索サービス」を提案されています。すごい。

とはいえ、人間が考え出す”未知のアイデア”こそ、ビジネスの原石です。新しい技術を活用しつつも、「ChatGPT」には思いつかないようなイノベーティブな活動を、マップボックス・ジャパンのメンバーとともに、引き続き展開していきたいと思います。今後ともよろしくお願いします!

マップボックス・ジャパンHP

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