『地球の歩き方』に学ぶ編集価値と「UGC」の新たな可能性
『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)の「崖っぷちサバイバル!~大変貌で逆転~」を、みなさんはご覧になられましたでしょうか?
とくに私の印象に残ったのは『地球の歩き方』編集部の取り組みです。
かいつまんでお伝えすると、
コロナで海外ガイドブック『地球の歩き方』の売上が激減(9割減)、宮田崇編集長曰く「創業以来の危機」を迎えることに
学研グループへの事業譲渡が決定するなか、東京五輪に向けて、初の「東京」版を発行するも、無観客開催が決定。インバウンド需要が消滅……
しかし、予想外の売れ行きで、都内の書店から「東京」版が消えるほどのヒットを記録
その後、これまで国、地域ごとに編集していたものを、「図鑑」という軸で編集し直すことで、新たな需要を開拓(これまでメインターゲットではなかった「小学生」からも手紙が届いたそうです)
というような内容でした。
さらに、すでにメディアにも度々取り上げられていますが、ミステリー雑誌『ムー』や、人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』といったコンテンツとのコラボレーションを実現。
『ジョジョ』は、イギリス、アメリカ、日本、イタリアと世界が舞台の冒険漫画とガイドブックとの相性は抜群ですから、原作ファンも納得の1冊になっているのではないでしょうか?(実は、私もジョジョファンの1人で、社員にもオススメしています)
また、番組放送後も気になってラインナップをチェックしていたところ、9月には『J00 地球の歩き方 日本 2023~2024』が発刊。さらに、コアなファンを多数抱える人気番組『水曜どうでしょう』とのコラボレーションも決定し、9月25日に予約を開始とのことです。
膨大な情報を「編集」することで生まれるもの
放送のなかで印象的だったのが、編集者の今井歩さんの言葉です。
情報過多の時代だからこそ、紙の編集物が役立つ。その通りだと思います。
地球の歩き方の新井邦弘代表取締役社長は、インタビューで次のように話していました。
現地の記者と連携しながら、「あのお店は閉店してしまった」「現地では今、こういうトレンドが来ている」といった情報を定期的に収集し、取捨選択しながら内容に反映する作業を続けてきた『地球の歩き方』という媒体への読者の「信頼感」は相当なものがあるはずです。
この「信頼感」に、先述したユニークな切り口を軸にコンテンツを作り上げる「編集力」が結合したことが、ヒットにつながっていると感じました。
「コンテンツ×UGC」の可能性
もう1つ、私が注目したのは「読者参加型」という点です。
実は、近年マーケティング業界では「UGC」(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)という再び注目が集まっています。
「地球の歩き方」が読者とコミュニケーションしながらコンテンツを作っていることも、「創業以来の危機」を突破した原動力の1つではないでしょうか。
編集部の池田祐子さんの次の言葉は、まさに「UGC」の特徴そのものとなっています(太字は筆者)。
編集と読者がつくる一つの「世界観」
ここで思い出したのは、同じく人気旅行ガイド『ことりっぷ』です。同誌もまた、「UGC」を積極的に取り入れています。
サイトをご覧いただくと「スターユーザー」というコーナーがあり、ことりっぷ編集部公認の「旅好きな方や現地の魅力を発信している方たち」です。
「自分の好みに合うユーザーさんをフォローして、次の旅先さがしの参考にしてみてください」という説明とともに、全国各地のスターユーザーの方からの情報が掲載されています。
現在、若い人たちを中心に、飲食店や観光スポットを探す際、インスタグラムなどのSNSを活用するケースが増えていると言われています。
ただし、インターネット上の誰かわからない人たちからの情報は玉石混交であり、鵜呑みにすることのリスクも存在します。
一方、たとえば『ことりっぷ』には、『ことりっぷ』特有の編集方針によって醸成されている「世界観」があります。
その『ことりっぷ』の世界観が好きな人たちにとって、『ことりっぷ』および「公認のユーザー」からの情報というのは、インターネット上に存在する膨大な情報に比べて格段に有益なものとなっているはずです。
重要なのは「バズること」ではなく、「世界観」の共有
その意味では、さまざまな分野に存在する「インフルエンサー」が果たしている役割と似たところがあるのかもしれません。
ただ、ここで注意が必要なのは、「人気があるから」「バズっているから」という流行と、「自分の大切にしている世界観」はまったく違うものであるという点です。
つまり、インフルエンサーであればどんなインフルエンサーでもいいわけではなく、自分の好きな世界観を共有しているインフルエンサーでなければならないということです。
具体的にいえば、ただバズっている情報は自分の世界観と合致しない可能性が高い一方、自分の好きなアーティスト、タレントからの情報は、自分が大切にしている「世界観」と合致している可能性が高いわけです。
世界観を共有する仲間からの情報という点でいえば、以前に対談したTabist(タビスト)の田野埼亮太CEOが目指している方向にも近いのではないかと、個人的には感じました。
今後、Tabistのサイトに、Tabistユーザーからの情報、あるいはTabist加盟の宿泊施設からの現地情報が増えていけば、ユーザーが「Tabistが目指す旅ができる」可能性がどんどん上がっていくはずです。
道具としての「地図」、編集物としての「地図」
少し長い引用になりますが、上述した『水曜どうでしょう』と『地球の歩き方』のコラボレーションに関する記事には次のような一節があります。
最新の地理情報、地図情報というのは、旅行ガイドにとって欠かせない要素であるため、「総じて情報が古すぎてガイドブックとしては使いづらい」内容となっているものの、それを補って余りある「編集物としての価値」がそこにあるのは間違いなさそうです。
以上のようなことを考えながら、私が感じたのは、目的地にたどりつくための地図に代表される「道具としての地図」の有用性は誰もが認めるところですが、「編集物としての地図」の有用性については、まだまだ認知が広がっていないのではないかということです。
そして、その「編集物としての地図」の有用性を担保するのが、今回ご紹介した『地球の歩き方』『ことりっぷ』『Tabist』といったユーザーに愛されているブランドが築き上げている「世界観」なのではないでしょうか。
今回のnoteは『ガイアの夜明け』から始まりましたが、世の中をおもしろくする、楽しくするには、「道具としての地図」だけではなく、ある固有の世界観を有する「編集物としての地図」がもっともっと必要だということを改めて感じた次第です。
その「編集物」の基盤となる地図は、地図サービス開発のプラットフォームを提供する私たちマップボックス・ジャパンが手がける事業領域です。あらためて、「道具としての地図」だけではなく、「編集物としての地図」づくりの支援にも力を入れていきたいと思います。