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BCN 視点 #49 「オープンイノベーションの正道」 (2014年2月6日)

 グーグルは、1月13日、学習機能付きサーモスタットを開発するベンチャー企業のネスト・ラボを33億ドルで買収すると発表した。ネスト・ラボは、iPodの本当の生みの親だという噂のあるトニー・ファデル氏がアップル時代の元同僚と2010年に創業したベンチャー企業である。

 グーグルがなぜサーモスタットの会社を買収するのかと思うかもしれないが、グーグルはこの10年間に100社以上のさまざまなベンチャー企業を買収している。例えば、昨年後半にはロボット関連の企業を7社も買収している。この7社のなかには東大発のベンチャー企業や歩行ロボットで有名なボストン・ダイナミックス社も含まれている。

 ベンチャー企業を次々と買収しているのは、グーグルだけではない。米国の大手ICT企業は積極的にベンチャー企業に投資して戦略的アライアンスを実行し、あるいはイノベーションを取り込むためにM&Aを行っている。これを「コーポレートベンチャリング」という。このコーポレートベンチャリングについては、昨年11月に出版された『コーポレートベンチャリング新時代』(湯川抗著)に詳しく解説されているが、大手企業によるベンチャー企業の買収は、ベンチャー企業の創業者やベンチャーキャピタルなどの投資家にとって、新規株式公開(IPO)と並ぶ一つのイグジット(EXIT)となっており、米国においては、IPOするベンチャー企業よりも、大企業などに買収されるベンチャー企業のほうが10倍以上も多い。

 コーポレートベンチャリングの背景にあるのは「オープンイノベーション」である。自社がもつ技術やノウハウ、技術だけでなく、外部にある技術などを取り込んでイノベーションを起こそうというオープンイノベーションの考え方は、数年前から日本でも話題になっているが、その多くは他業種との共同研究や産学連携の枠のなかの議論になっている。日本の大手ICT企業はベンチャー企業に対して極めて冷たく、ほとんど投資もしなければ、戦略的提携もしないし、買収もしない。

 オープンイノベーションで最も重要なのはベンチャー企業への投資、ベンチャー企業との戦略的アライアンス、ベンチャー企業を対象としたM&Aであることが忘れられている。コーポレートベンチャリングこそがオープンイノベーションの正道なのである。


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