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NY駐在員報告  「イントラネット(その1)」 1996年4月

 今月は、3カ月前のレポートでも紹介した「イントラネット」について報告する。

イントラネットとは何か

 イントラネット(intranet)の"intra-"は「〜の中」を意味する接頭語で、主に学術用語に用いられる。"intracardiac"は「心臓内の」という意味だし、"intragalactic"は「銀河系内の」という意味である。そのためイントラネットは、時々、単なる組織内ネットワークだと誤解されることがある。しかし、イントラネットは単なる組織内ネットワーク、社内ネットワークではなく、インターネットの技術を用いた組織内ネットワークを指す。

 イントラネットという言葉が一般的になったのは、95年の秋か暮れあたりからだが、新聞や雑誌の記事には少なくとも95年の春には登場している。手元にある資料によると、約1年前の95年4月24日付けのDigital News and Reviewに、Stephen Lawtonがイントラネット紹介の記事を書いている。その後、夏から秋にかけて、イントラネットは徐々に米国情報産業界の人口に膾炙し、業界紙に頻繁に取り上げられるようになった。95年11月には、マイクロソフト社のCEO兼会長のビル・ゲイツも、COMDEX /Fallにおけるスピーチで、これからのキーワードの一つとして"Internet & Intranet"を取り上げている(彼がスピーチの中で取り上げるようになれば、その言葉や概念は、この業界で一般的になったと考えて差し支えない)。

 しかし、イントラネットの意味するものは必ずしも明確でない。記事によっては、単純に社内用のWebサーバーのある社内ネットワークをイントラネットと呼んでいるものもあるし、有名なフェデラル・エクスプレス社のWebサーバー(これはインターネットに接続されている)をイントラネットの成功例として取り上げている記事もある。どんな用語にも言えることだが、言葉は、世に広まっていくにつれて意味が変化していくこともあるし、本来の意味とはまったく異なる意味で使われてしまう場合すらある。
 ここでは、以下のような条件を満たすネットワークをイントラネットと定義して話を進めることにしたい。

  1. 通信プロトコルとしてTCP/IPを利用していること。

  2. 情報伝達の方法として少なくとも1種類のインターネット標準を採用していること。(ここで言う情報伝達のインターネット標準とは、インターネットの電子メールに利用されているSMTP (Simple Mail Transfer Protocol) やWWWに利用されているHTTP (HyperText Transfer Protocol) などのことである)

  3. 企業内あるいは特定の組織内に構築されており、外部から部外者がアクセスできない情報やサービスがあること。

マイクロ・インターネット

 96年2月18日、Network Wizards社のMark Lotterからインターネットに接続されているホストコンピュータ数に関する最新の統計が発表された。この数字はいくつかの理由で正確ではないのだが、インターネットの利用者を推測する上で最も信頼できる数字である。これによると、96年1月時点でのホストコンピュータ数は947.2万台である。半年前の95年7月が664.2万台であったので、半年間で42.6%増加したことになる。年率に換算すると103.4%である。つまり、インターネットは飽和してきたという悲観論者には申し訳ないが、ここ数年の毎年2倍になるというペースは変化していない。ちなみに、かつてユーザ数は、このホスト数を10倍して推定していた。この方式を適用すれば、推定インターネット利用者数は約9500万人になる。ここでは(根拠はないが)少し控えめに6〜7倍することにして、インターネットの利用者は約6000万人ということにしておこう。

 この統計資料にはコンピュータにつけられた名前による統計が含まれている。トップは、95年1月以来ずっと"www"であるが(つまり"www.nantara.com"や"www.kantara.co.jp"のような名前のホストコンピュータが一番多いのだが)、この最新の統計によれば、96年1月には"www"で始まるコンピュータが7万5743もインターネットに接続されている。世界には"www"で始まらない名前のWebサーバーもあるので、インターネット上のWebサーバーの数はおそらく8万以上あるだろう。情報が多すぎてどこに何があるのか分からないとか、知りたい情報がどこにあるのかわからないという声もあるが、Alta VistaやLycos、Yahooなどのサーチ・エンジン、ダイレクトリを使えば、完全ではないにしろ、十分な情報を手に入れられる。

 つまりインターネットの6000万人のユーザは、互いに電子メールで情報を交換し、8万ものコンピュータに収録された情報を共有していることになる。ユーザは世界中に散らばり、使っているコンピュータはバラバラで、利用しているアプリケーションソフトも一様でない。しかし、地理的な距離をものとせず、ハードウェアやOS、アプリケーションソフトの違いを乗り越え、数千万人が世界最大の分散型データベースで情報を共有しているのである。この数千万人で実現できていることが、一組織の中でできないはずはない。米国最大の企業ですら、従業員は数十万人で、インターネットの規模の100分の1である。共有すべき情報も、現在インターネットで利用可能な情報量と比べれば、桁違いに小さいに違いない。企業内の情報を社員で共有し、社員間のコミュニケーションを円滑にすることができれば、企業としてメリットは計り知れない。後述するように、米国で進んでいる経営革命の鍵は、情報の共有とコミュニケーションの円滑化にある。

 世界170カ国(地域)を結ぶインターネットにできて、社内ネットワークでできないはずはない。では、社内にマイクロ・インターネットを作ってみよう。それがイントラネットである。

 インターネットの世界を経験して、これまで利用していた社内の情報システムの使い勝手の悪さに気付いた人も少なくないだろう。地球の裏側の友人と瞬時にしてメールを交換し、WWWのブラウザでグラフィックス付きのホームページを見ていると、インターネットは魔法の杖のようだ。この魔法を実現しているソフトウェアは、別にインターネット上だけでしか使えないものではない。企業内に持ち込んでも十分利用できるのである。特にLANが整備された組織であれば、回線が太い分、インターネットより使い勝手はよくなるはずである。

イントラネットで何ができるか

 イントラネットを利用している企業はもはや珍しくもないが、その利用の方法は同じではない。単に社内用のWebサーバーで情報を共有しているというところもあれば、メールやネットワーク・ニュースの機能を利用しているところもある。イントラネットで利用できる機能を見てみよう。

(1) 電子メール
 インターネットの電子メールはSMTP (Simple Mail Transfer Protocol) というプロトコルによって転送されている。この規格を社内ネットワークに用いると社内の電子メールはインターネットと同じ環境になる。POPサーバーを使って、ネットワーク接続されているホストコンピュータ(ここで言うホストコンピュータは昔ながらのメインフレームではない。通常はワークステーションか、ハイエンドのパソコンである)からパソコンにメールを転送することもできる。研究所を別にすれば、まだCC:MailやMS Mail、Notes MailのようなLAN用メールソフトを利用している企業が多いのも事実であるが、SMTPを利用するところも増えている。

 理由はいくつかある。一つは、インターネットとの接続に必要なプロトコル変換が必要ないために、ゲートウェイでのトラブルが減少することである。

 もう一つはLAN型のメールを公衆回線利用のWANに用いると、電子メールが瞬時に届かないことがあるからである。つまり、ニューヨークの本社とサンパウロの支社を電話回線で接続したWANでLAN型のメールを使った場合、通常、電話回線は接続したままにするのではなく、一定の間隔で電話をかけ、双方のメールサーバー同士が情報を交換する仕組みになっている(インターネットのUUCP接続のようなものだと思えばよい)。例えば2時間毎に情報を交換するように設定してある場合には、電子メールでありながら、相手に届くまで最悪の場合には、2時間かかることを覚悟しなくてはならない。もちろん通常の郵便や宅配便に比べれば速いが、ビジネスには不向きではないだろうか。もちろん、専用線で接続し、常時、メールサーバー間の情報交換を行うように設定すればよいが、当然費用もそれだけ割高になる。もちろん、地理的に離れたオフィスを結ぶ場合にはインターネットを利用するという手段があるが、それなら社内もインターネットと同様のSMTPを採用した方がすっきりする。

 ちなみに、Forrester Research社のWebサーバーで行われた「インターネットメールは、LAN用電子メールにとって変わるか?」という読者投票では、90対34でインターネットメールに軍配が上がっている(Forrester社自身はLAN用電子メールを支持しているのだが………)。

(2) グループ・ディスカッション
 グループ・ディスカッションを行うには3つの方法がある。まず一つはメーリング・リスト機能を用いる方法。メーリング・リストは、そのメイン・アドレスにメールを送ると、あらかじめ登録されているメンバー全員に同じメールが届く仕組みになっている。したがって、プロジェクトやトピック毎にメーリング・リストを作成し、これを利用してグループで議論ができる。長所はメンバーを限定できることと、必要に応じて社外のメンバーもグループに加えられることである。

 第二の方法は、ネットワークニュースサーバーを利用する方法である。これはパソコン通信の電子掲示板と同じような仕組みで、サーバーに蓄積されたメッセージを共有することになる。もちろん、インターネット上のニュースサーバーとの情報交換は行わないように設定し、ファイアーウォールの内側にサーバーを置けば、社員のみで利用する電子掲示板になる。組織が大きい場合には、ネットワークニュースサーバーをあちこちに設置し、インターネットと同様にNNTP (Network News Transfer Protocol) を利用して、蓄積したメッセージを交換することもできる。問題は、メーリング・リスト方式と異なり、通常はメンバーを限定できないことと、社外からの参加が難しいことである(不可能ではないが、ファイアウォールに穴をあけることになる)。

 第三の方法は、専用のソフトウェアを用いる方法である。マイクロソフト社のFrontPage、net.Genesis社のnet.Thread 1.1、Lundeen & Associates社のWeb Crossing、DEC社のWork Group WebあるいはWorkgroup Web Forumといったソフトウェアは、Webのブラウザに対応しており、Web上でグループディスカッションができる。パスワードによるセキュリティ機能や電子投票機能が付いているものもある。比較的設定が容易で、機能も豊富になってきている。

(3) 情報の共有
 情報の共有に一番適したものはWebサーバーの利用だろう。米国内ではかなり一般的になってきている。社内用のWebサーバーのある社内ネットワークがイントラネットであると紹介している記事があるくらいだ。

 社内用のWebサーバーに登録される情報は、社内電話番号表、メールアドレス一覧から社員用の各種マニュアル、政府調達の手引き、各種レポート、顧客情報など実に様々である。こうした情報は、情報量が比較的少なく構造が簡単なものはHTML化してWebサーバーに登録されているが、複雑な構造を持ったデータやイントラネット化する前からデータベース化されていたものについては、Webサーバーをゲートウェイにした専用のデータベースサーバーに格納されていることが多い。既存のDBMSとWWWのリンクを可能にするシステムも開発されているので、構築済みのデータベースを無駄にしなくてすむ。

 共有する情報が多くなれば、必要な情報を探すのに時間がかかるのも、インターネットと同じである。仕事で情報を検索しているときに、意外な情報が見つかることがあるのが醍醐味だからといって社内ネットサーフィンを楽しんでいるわけにはいかない。そういう場合にはインターネットと同じように、検索エンジンを社内用に設定すればよい。

(4) 業務アプリケーションの可能性
 「ニューヨーク地区インターネットアクティビスト、特に目的の無い飲み会」(略称「nomikai」、私もメンバーの一人)では、マンハッタンでの会合(つまり飲み会)の出欠確認をWebサーバー上で行っている(URLはhttp://www.three-c.com/nomikai/nomikai.html)。つまり、このWebサーバーにアクセスして出欠欄をチェックし、コメントを入力しておくるとWebサーバーに登録された情報の一部が更新される仕組みになっている。こうしたWebサーバーでは単にサーバーからブラウザのユーザに情報を一方的に送るだけではなく、逆向きの情報伝達も可能になっている。現在、こうしたインタラクティブなWebサーバーで用いられている技術はCGI (Common Gateway Interface) が中心である。Alta Vista、Lycos、Yahooなどの検索エンジンもCGIを利用している。つまりブラウザ側で入力されたキーワードをWebサーバーが受け取り、検索を実行するCGIスクリプトをサーバー側で実行し、結果をブラウザ側に送信する仕組みになっている。この機能をイントラネットで利用すれば、Webサーバー上で動く簡単な業務アプリケーションシステムを開発できるだろう。

 また、ここ最近注目を浴びているJava、HORBなどの技術を用いれば、もっと複雑な業務アプリケーションもWeb上で処理できるに違いない。

(5) その他
 他にもイントラネットで利用できそうな、新技術はたくさんある。InternetPhoneや NetPhone、DigiPhone、WebPhoneなどは、インターネットを利用して長距離電話ができるソフトウェアである。つまり、パソコンに接続したマイクとスピーカーを使ってインターネット経由で音声通信ができる。ソフト業界はインターネット人口の急増に伴ってインターネット電話が普及すると考えているようで、次々とこの手のソフトを発表してきている。インターネット電話が普及する可能性があると考えているのはソフト業界だけではない。ACTA(米電話通信協会)は96年3月、インターネットを利用した電話の禁止を要請する書簡をFCC(連邦通信委員会)に提出したと発表した。インターネット電話を利用すると利用者は長距離電話料金や国際通話料金を支払わなくて済む。ACTAのメンバーである長距離電話会社は、インターネットの普及に伴って収入が減少することを恐れているのだ。ACTAが恐れているくらいだから、表だって話題にはならないが、米国にはインターネット電話で電話料金を節約している企業が出てきているのかもしれない。

 CU-SeeMeはパソコンと小型のビデオ・カメラでテレビ電話を可能にするソフトである。リフレクターを介することによって3人以上でビデオ会議をすることもできる。28.8Kbpsのモデムでもなんとか使えないことはないから、専用線接続をしている企業ならまったく問題はないだろう。同じLANの中ならとても実用的なのではないだろうか。もっとも同じビル内ならビデオ会議をする必要性はないかもしれない。双方が専用線接続している環境なら、地理的に離れていれば試してみて損はないように思う。

 Real Audio、True Speech、Internet Waveなどのソフトは、インターネット上の音声ファイルをダウンロードしながら再生できる"Audio on Demand"ソフトである。StreamWorksやVDO Liveは音声付き動画ファイルをダウンロードしながら再生できる"Video on Demand"ソフトである。こうしたソフトも、社員の教育・訓練のツールの一つとして、あるいは社内放送の代替ツールとして利用できるのではないだろうか。

導入事例

 米国内、特に大企業ではイントラネットの利用は珍しいものではなくなっている。例えば、95年12月に公表されたForrester Research社の調査によれば、米国の大企業1000社のうち22%は既にイントラネットを利用している。
 また、O'Reilly & Associates社の調査(96年1月実施、北米の従業員数が1000人以上の大企業を対象とするサンプル調査、サンプル数410社)によれば、北米の大企業の37%が社内用のWebサイトを保有している。
 例えば、フェデラル・エクスプレス社は社内用に約60のWebサーバーを利用している。この多くは、社員が社員のために構築したものである。世界中にいる約3万人の従業員は、メンフィスにある本社のWebにアクセス可能になっている。もちろん、本社のネットワークは部外者のアクセスから社内情報を守るため、ファイアウォールによって守られている。

 3カ月前のレポートに「ロッキード・マーチン社は17万人の社員を結ぶネットワークをIntranetにすることを決定した。既に4万人の社員がネットスケープ社のソフトを用いて、社内向けのニュースレターや連邦政府の調達手続きといったドキュメントを共有している」と書いたが、すでに約180のWebサーバーが設置されており、社員用に延べ42,500ページの情報が提供されている。二つのレベルのファイアウォールも設置し、部外者からのアクセスを遮断している。ちなみに、共有情報の中には社員電話番号一覧が含まれているのだが、このメンテナンスは社員自身がオンラインでできるようになっているという。これは見習うべきかもしれない。共有する情報はすべてシステム部門まかせにするのではなく、ユーザ個人や部門毎に管理した方がよいものが多い。イントラネットはそうした組織内の草の根的情報共有にも適している。

 VISAインターナショナル社は2500人の社員がネットスケープ・ネビゲーターを利用して"VISA Info"と呼ばれるイントラネットを活用している。このシステムにはVISA社が提携する1万9000の金融機関の情報が登録されており、96年夏には提携金融機関からのアクセスも受け付ける予定になっている。このシステムによって、金融機関とVISA社の間でやり取りされている疑わしいクレジットカード利用の照会などが電子化され、書類を大幅に減らすことが目標である。

 薬品メーカーのEli Lilly社では、26,000人の社員のうち16,000人がイントラネットを利用しており、既存のデータベースもWebサーバーを介して検索できるようにする計画が進んでいる。

 MCI社では12,000人の情報技術者がWebサーバーを用いて、ソフトウェアのコードを共有し、イントラネットを共同作業のツールとして利用している。

 Webサーバーは企業として知識を共有するのに適している。コンサルティング会社であるBooz-Allen社のアナリストたちは、社内で作成したレポートをWebサーバーに蓄積して共有している。これは新規のレポートを作成する際にも過去のレポートは非常に有用だからだ。Mitre社も同様のシステムを構築している。

 リーバイス社のイントラネットでは、サンフランシスコの本社から欧州でのマーケッティング成功事例などの情報をみることができるようになっている。

 フォード社のイントラネットは、アジアと欧州のデザインセンターも接続している。96年型のトーラスの設計には、このイントラネットが役立ったといわれている(残念ながら、大幅にモデルチェンジした96年型トーラスの売上げは伸び悩んでいる)。

 シリコン・グラフィック社では7200人の社員が800のWebサーバーにある14万ページ以上の情報をイントラネットによって共有している。

 この他、3カ月前のレポートで書いたように、AT&T社も、Lotus Notesのユーザであるメリルリンチ社でも、ロータス社を買収したIBM社でもイントラネットの利用が進んでいる。

イントラネット市場の展望

 データクエスト社のRich Spenceは、96年末までにフォーチュン誌の主要1000社すべてがイントラネットを利用することになるだろうという大胆な予測をしている。いくらなんでもそこまではと思うかもしれないが、そう遠くない将来には、それに近い状況になるだろう。

 ある専門家は、WWWサーバーの4分の3はイントラネットに利用されていると推計しているし、ネットスケープ社は、出荷されたWebサーバー用のソフトのうち70%は社内用に用いられていると推計している。また、同社のBen Horowitzは、現在、世界中に24万台あるWebサーバーの3分の2は社内用に利用されており、2000年には社内用サーバーの数は、インターネット用のサーバーの10倍になるだろうと述べている。ちなみに、現在でもIBM社ではインターネット用サーバーの30倍の台数のイントラネット用サーバーを利用していると言われている。

 Zone Research社によれば、Webサーバー市場をインターネット用とイントラネット用に分けると、95年ではインターネット用が6億2200万ドルで、イントラネット用の4億7600万ドルよりやや大きいが、98年にはインターネット向けの市場が19億ドルであるのに対して、イントラネット向けの市場が78億ドルと4倍以上の市場になると予測している。

リ・エンジニアリングと情報化

 これだけ米国で流行しているのだからわが社でも、と考えてイントラネットの導入を進める企業が出てくるだろう。形から始めることは悪いことではないが、目的も目標もなく導入しても役に立たないのは、どんなツールでも同じだ。イントラネットを有効に利用するつもりなら、それなりの目的意識を持って臨む必要がある。

 米国でグループウェアやイントラネットが注目を浴びている背景には、リエンジニアリングの波が押し寄せているという事情がある。JETRO N.Y.の機械工業部の年次報告書によれば、現在進行中の経営革命のキーワードは、"Cut Layers in Hierarchy"、"Mandate"、"Information Sharing"、"Education & Teamwork"、"Creativity & Innovation"、"Flexibility & Agility"、"Customer Satisfaction"であるという。同報告書の言葉をそのまま借りて説明すれば、「即ち、企業経営・組織の合理化のために、先ず取り組まなければならないことは、指揮命令系統のピラミッド(Hierarchy)を解体し、組織の多層構造(Layers)をカットすること。そうすることにより、不要な管理職層が持っていたMandateは、下の者に降ろされ、より多くの権限と責任を有する管理者が、より少数の上下関係の中で、迅速に経営判断を下せるようになる。その際のポイントは、Information Sharingと社員教育の徹底、そしてその結果もたらされるチームワークの力」である。組織内の情報化・電子化の徹底によって、これまでの縦割り組織に存在していた情報の壁が消え、情報の共有化によって個人の判断能力が高まり、優れたチームワークが発揮され、組織の想像力が生まれる。その結果「組織にも経営判断にもフレキシビリティと機動性(Agility)がうまれ、最先端の市場ニーズに柔軟に対応することが可能となり、Customer Satisfactionを常に最大化できる」ということになる。

 つまり、情報の共有とコミュニケーションの円滑化は、米国で進展しつつある経営革命の鍵を握る重要なパーツであり、その手段がイントラネットであり、グループウェアなのである。

 周知の通り、日本では、モノをつくる現場や大規模な定型業務の情報化はかなり進んでいる。ここ数年来指摘されているように、次の情報化のターゲットは、オフィスの情報化、ホワイトカラーの情報化、非定型業務の情報化である。この決め手がグループウェアであり、イントラネットであるように思う。
 問題は「情報の共有」が日本の組織ですんなりと受け入れられるかどうかではないだろうか。言葉は悪いが、「情報を搾取する中間管理職層」の存在が指摘されている。誰かが組織内の情報の流れを自己の都合でコントロールしたり、重要な情報を一人占めすることは、その個人の地位の保全や出世のためには役立つだろうが、プロジェクトグループや組織のためには大きなマイナスになることが多い。場合によっては、大きな損失を招くこともあるだろう。オフィスの情報化によってコミュニケーションを円滑にし、情報の共有化を進めることは、組織にとってプラスであることは確かだ。しかし、情報化によって存在理由を失うことを恐れている中間管理職層にとっては、すんなりと受け入れられる改革ではないかもしれない。

 CALSやEC(エレクトロニック・コマース)によって、設計、生産、流通のさらなる情報化を進めることも重要なのだが、企業経営と組織の改革のために、情報化が一番遅れている部分に焦点を当てて、イントラネット、グループウェアを最大限活用する計画を進めてみてはどうだろう。

(次号に続く)

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