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得るものを大きくする努力 (2007年2月)情報化レビュー

 新しい制度や仕組み、技術などを導入すれば、得るものもあれば、失うものもある。よくなるものもあれば、悪くなるものもある。したがって、何かを新たに導入する場合には事前に、得るものと失うものを十分に考えて導入の是非を判断し、導入した後は、得るものをより大きくし、失うものをより小さくする努力をすることが必要である。

 情報化についても同じことが言える。情報化によって利便性や効率が向上する反面、企業の機密情報や個人のプライバシーの属する情報が漏洩する危険性、デジタル化された様々なコンテンツが無断でコピーされて著作権が侵害される危険性が増大する。
 いつでも、どこでも欲しい情報が簡単に手に入るようになる反面、児童や青少年にとって有害な情報も簡単に取り出せるようになってしまった。
 インターネットによって、誰もが自由に情報を世界中に発信できるようになったことはよいことであるが、誹謗中傷によって人権が侵害されたり、企業が営業妨害を受けたりすることも多くなった。
 また、情報化によって生産性が向上する一方で、情報機器の操作が不得意な労働者が雇用の機会を失うという問題も起きている。

 世の中には情報化のもたらすマイナス面を強調して、情報化に反対する人たちもいる。確かに、情報化を抑制したほうがよい領域もあるかもしれない。しかし、多くの領域では情報化のもたらす便益は、そのマイナス面よりはるかに大きいように思われる。仮にマイナス面がかなり大きくても、人の叡智をもってすれば、それを小さくできる方法があるのではないだろうか。

 たとえば、住基ネットについてもさまざまな議論があるが、やはり、失うものより得るものの方がはるかに大きいシステムであると考えている。
 「失うものを小さくする努力」(情報セキュリティ対策など)も引き続き必要ではあるが、今、住基ネットに必要なのは「得るものを大きくする努力」だろう。
 そもそも、住民基本台帳は「住民に関する事務の処理の基礎」として整備されているものであり、多くの市町村が様々な事務処理に利用している。問題は、国や都道府県における住民に関する事務処理と、市町村の事務でも他の市町村に居住する住民に関する事務である。たとえば、納税義務者の住所を調査するために都道府県が市町村に、あるいは市町村が他の市町村に住民票写しを交付請求する件数と自ら写しをとっている件数だけでも、相当な数になる。こうした業務に住基ネットを利用すれば、住民票写しの請求、写しの作成や送付に関する事務を軽減できる。

 民間企業は情報化によって業務を効率化しコスト削減を実現してきた。国や地方公共団体においても情報化によって事務の効率化、コスト削減を実現できる部分がまだ多く残されている。

 財務省の資料によれば、平成18年度末の国と地方が抱える長期債務(国債と公債)の残高は775兆円になる見通しである。国民一人当たりにすると600万円以上にもなる。我が国が抱える少子高齢化というもう一つの問題を考えれば、この膨大な長期債務を未来にそのまま引き継ぐべきではない。長期債務を今すぐ大幅に減らすことは無理だとしても、少なくとも長期債務の拡大に歯止めをかけ、財政の健全化への道筋を明確にする必要がある。

 行政の情報化は、業務の効率化や適正化を通じて、国民負担の軽減と公平化をもたらす重要な手段である。今、求められているものは、単に情報化を進めることではなく、情報化によって「得るものを大きくする努力」なのである。

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