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すでに通信と放送の融合時代は始まっている (「季刊EIT」 2006年3月)

 世界で最もブロードバンドが普及している韓国では、国民のテレビ視聴時間と地上波テレビの広告収入がともに低下傾向にあるという。原因の一つは、数年前からドラマを含むテレビ番組がインターネットで再配信されるようになったからである。好きな時に見ることができるオンデマンドの番組もあるし、モバイル機器向けのテレビ放送もすでに韓国では普及している。おそらく、今後日本でも韓国のようにパソコンや携帯電話、PDAでテレビ番組をみる若者が増えてくるだろう。

 そんな中で注目すべき技術が「ポッドキャスティング」である。米国では2004年末くらいから、日本では2005年の夏くらいから流行している。ポッドキャスティングはブログの音声版だ。音楽とは異なり、基本的に無料でダウンロードできるものが多い。名前がPodcastingなのでiPodでしか聞けないと思っている人もいるが、パソコンでも、MP3に対応した携帯音楽プレーヤーでも聞くことができる。ポッドキャスティングが優れている点は、RSS2.0という技術をベースにしているため、聞きたい番組(サイト)を登録しておくと、新着ファイルが自動的にダウンロードされる点である。取り組んでいるのは個人だけではない。既存のラジオ局が次々とポッドキャスティングを始めている。

 当然、次は動画である。「音声ファイル+RSS」がポッドキャスティングなら、「動画ファイル+RSS」はVLOGあるいはビデオポッドキャスティングと呼ばれる。気に入ったサイトを登録しておけば、新着の動画が自動的にダウンロードされる。仕組みはポッドキャスティングとまったく同じだ。米Apple社は10月12日にビデオポッドキャスティングに対応したビデオ再生が可能な新iPodを発表しており、すでにこれに対応したコンテンツも販売されている。これから、日本でもiPodのような携帯ビデオ・音楽プレーヤーで動画を楽しむことが一種のブームになるのは間違いない。

 これまで、「ネット配信では権利処理(著作権と著作隣接権の処理)が障害になっている」と言われてきたが、これは誤解である。すでに著作権団体と利用者団体協議会の間で暫定的な料金設定もされ、日本経団連がドラマをモデルにした権利者に支払う料金の基準を策定している。もはや権利処理は障害ではなくなっている。そもそも、テレビ番組をビデオ化することと、インターネットで配信することに大きな違いはない。

 日本の現状をみると、インターネット系の企業は積極的で、放送局側が受身に立っているように見える。民放がインターネットによる番組配信に積極的になれない理由は、ビジネスになるのか確信がもてないからだろうか。確かに、有料にしてお金を払ってくれる利用者がどのくらいいるのか、ネット配信によって広告料がどの程度得られるのかは誰にも分からない。

 ちなみにネット配信のビジネスモデルは、有料か無料かという問題ではない。韓国のように有料+広告というやり方もある。「有料で広告のないもの」、「有料だけれど広告もあるもの」、「無料で広告のあるもの」どれが消費者に受け入れられるかはまだよく分からない。しかし、そんなことは走りながら考えればよいことではないだろうか。

 民放にとっては、これまでの広告によるテレビ放送というビジネスモデルが揺らぎ始めている。それは、ハードディスクレコーダーの普及によって、コマーシャルをスキップしてみる視聴者が増えてきているからだ。そんな中で、携帯電話や携帯映像・音楽プレーヤーで動画を見る利用者は確実に増えていくことは明らかなのだから、インターネットによる番組配信は新しいビジネスのチャンスだと考えなければいけない。


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