不動産IDが「ルール」でなく「仕様」であるべき理由
昨日、国交省が「不動産IDルールガイドライン」を策定し、その資料を公開したことにともない、「相変わらず酷すぎる」と何点かを具体的に例示して解説しましたが、今回、改めて「ルール」ではなく「仕様」とすべき、という点について詳しく説明したいと思います。
何が問題なのか、というその理由は幾つかありますので、順番に説明いたします。
「ルール」の意味
問題点にふれる前に、まず言葉の定義から明らかにする必要があります。言葉の意味が曖昧ですと、誰もがそれぞれ勝手な解釈で誤解したり理解自体が難しくなるからです。
rule(ルール)には、規制、法規、ガイドラインと言った意味があります。
*この時点で、「不動産IDルールガイドライン」がオカシイ理由の一つが分かりますね。「不動産IDガイドラインガイドライン」と言っているようなものですから。規制なのか法規なのかも不明ですし。
由来
英語を使う上で、単語の由来(etymology)を知ることは最も基本的な学習方法です。英語の場合、だいたいギリシャ語かラテン語に由来する単語なので、単語の起源を知れば理解も深まり、他の同系統の言葉の意味も紐づる式に分かって行くという応用が効くからです。
英語のruleという言葉は、元々はラテン語のregulaから来ている言葉ということです。この時点で、英語に慣れている人であれば、あ「regulation(レギュレーション=規制)」と同根の言葉なんだろうな、とピンと来ます(そしてこれは事実です)。
支配するルール
ですから、「ルールするという行為」は、「だれか権威者による支配」という意味を含みます。
「regulation(レギュレーション=規制)」を行うのも規制当局者ですよね。
ですから、ルールは権威者によってエンフォース(enforce=押し付け・強制)されるものなのです。そうでなければそれはルールではありません。
ガイドしてラインを引く
元々のラテン語のregulaは「まっすぐな木の棒」、元は「まっすぐにする、導く、統治」といった意味があります。なので、英語のrulerという単語には「支配者」という意味だけではなく、「定規」という意味もあります。まっすぐな線を引くためのガイドとなる棒のことですね。
つまり、ガイドして線がまっすぐになるよう強制する定規 = ruler = 支配者、ということになります。一見、無関係そうな言葉でも起源が共通だからこうなるのですね。
「不動産ID」とは
具体的には、
1234567890123-G001
のような、英数字とハイフンで構成されるもので、コンピュータが扱う場合は数字の「番号」ではなく、「文字列」として扱われるものとなります。
仕様である理由
「不動産ID」は、このように、「どういう構成」で、「どういう文字」を使って、・・・「でなければならない」という幾つもの「要求事項(requirement)」の集まりによって成り立っています。
「相互運用性を図るため」というそもそもの目的を実現するために「要求」されること、という意味です。
ここで「ひらがな」を使ったりすることは出来ません(使えるとしたら文字コードの指定が必要になってくる)。つまり、ANSI標準のASCIIの英数とハイフンでなければ相互運用性上、「共通コード」として通用しない、というわけです。
*因みに、国交省の「不動産 ID ルールガイドライン」では、「使用する文字種は、半角とする(数字は半角数字、アルファベットは半角大文字のみ)」としかありませんが、このような場合「半角」という指定は不十分であり不正確。書くなら、ちゃんと「ANSI標準のASCIIの英数とハイフン」とすべきです。ASCIIに半角も全角もへったくれも無いのですから。
ですから、これは専門用語で「要求(requirement)」となります。
このような要求事項をまとめたものを、「仕様(specification)」と言います。
「ルール」でも「ルール整備」でもありません。
何では無いのか
国交省は、この点、太字の大文字で強調しています。
わざわざ、ここまで繰り返し強調て説明しなければならないのは、「制度」か何かだと誤解して「導入される」などとする人が大量発生しているからです。日経新聞も誤報レベルの記事で報道してしまっていました。
それもこれも、国交省自身が「ルール」だ「ルール整備」とか言うからなのであります。
何のルール・ガイドラインなのか
不動産ID自体の構成を定義する原理原則のことを言っているのか、不動産IDを利用する際の取り扱いに関する原則のことを言っているのか、曖昧すぎる、ということです。
「このルール」って何の事を指して言っています?
何に対するルールなのか、恐らく意識もしておらず、なんとなく不動産IDに関すること全部ひっくるめたルールというかガイドライン、ぐらいで言葉を使っているのでしょう。
とてもいい加減です。
「不動産IDのルールを定めるガイドライン(留意点含む)」という位置づけなのです?
まず、日本語としても論理が通ってなくてオカシイ(ルールを定めるルールを策定しました?)。本来は、不動産IDの「仕様」は仕様、「(その仕様の)利用にあたっての留意点を解説する」のはガイドライン、ではないのですか?普通に考えて。
国交省の資料の説明でも、全体を通して、意識して、意味をちゃんと分かって使っているとはまるで思えません。
不動産IDの「仕様」は仕様、その他、「利用にあたっての留意点」といったガイドラインはガイドラインを解説する別文書にするぐらい、はっきりと区別して使い分けるべきです。
いい加減すぎ。
ここで言う「ルール」こそ、仕様外の相互運用性(インターオペラビリティ)のために「ガイドライン」で定めることなのです。
ごっちゃになっています。
それもこれも、国交省自身が「ルール」だ「ルール整備」とか言うからなのであります。
オープンスタンダードであるべき
オープン標準またはオープンスタンダード(open standard)と言ったりします。
不動産IDにしろ(将来的な他の仕様も含め)、国という権威者によって押し付けられる「ルール」であってはならないのです。
今後のことを考えると、とても悪い前例が出来てしまったな、と。
補足:
「米国版『不動産ID』、RESO UPIの事例を紹介」で、RESO Universal Property Identifier を紹介しましたが、わざわざ言うまでもなく、当然のことながら、その仕様の正式名称は「Universal Property Identification System Specification v1.0」です。仕様書はここ(ZIP)。
国交省のあそこに貼り付けてきた
国交省に、メールでもしてこのnoteのアドレスでも送ってみようかなと、一瞬だけ魔が差したのですが、どのみち、国交省のサイトには、電話番号とFAXしか出していない、ので、某所に貼り付けてきました。さて、どうなることやら。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?