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Vol.7 古都金沢に東欧の風邪を吹かせる若きホテリエ

DeepJapanでは日本を元気にするために、インバウンドの支援をしています。
インバウンドはとても魅力的な業界なのですが、良く知られていない部分も多々ありインビューを通じてその面白さが伝わったらいいなと思っています。
100人インタビューの7回目は東京観光財団の仕事の取材でお世話になったライフスタイルホテルLINNAS Kanazawaを運営する株式会社Linnas Designの代表松下さんです。


リンナス金沢は、シェアキッチンやYouTubeの活動、スタッフアワーを決めるなど尖った運営をしていますが、金沢でホテルを始めたキッカケを教えてください。
 
前の会社にいた時に、コロナになり金沢のホテルを撤退する動きになった時に、このホテルを引き継ぐことを決めました。私にとっては、金沢は東京から埼玉に引っ越すのと同じくらいの気持ちです。東京も関西も近いこの街は、両方の動線からお客さんを呼びやすいというところも可能性を感じました。私は旅人で日本も世界も色々な街を巡りましたが金沢はトップ3に入ります。空気感、人の距離、空の開けた感じ、ヨーロッパにいるような感度、職人気質、センスが街としての平均点が滅茶苦茶高い。自分の感覚が研ぎ澄まされる感じがしてスゴイ好きな街です。

金沢は条例で景観も守られているし、住んでる方も街に誇りを持っているのが伝わってきます。それにしても他のホテルではやらないことをしているのは、何故なんでしょうか
 
私は東京生まれ埼玉育ち。学生の時にエストニアに留学していました。そこでの生活が今のホテル運営のヒントになっています。東欧の130万人の国で九州くらいの広さしかありません。色々なものがIT化されていて、ちょうど私が留学していた時に、国会がペーパーレス化されたり、留学生にもマイナンバーカードのようなものが配られていた変化の真っただ中。そこで面白かったのが「エストニアが何のために効率化するか?電子化することで国民はやらなくていい作業が消え年1.2日自由な時間が増えます。」と説明していました。量を求めるための効率化ではなく、より人生の質を高めるために効率化をしようということが言われている。

国会の提出文書をつくる仕事が宮大工と揶揄され、事務作業に若手官僚が疲弊する日本とは思想が随分違いますね。
 
このリンナスというホテルの名前もエストニア語の「街の中」という意味の言葉と日本語の「凛と成す」からつけています。ホテルオペレーションの業務効率化のところでチェックインシステムやフロントアワーを設けているのも、お客さんとのコミュニケーションをする時間をとるためです。ホテルでイベントをすることで、ゲストと街が結びつきリンナスのコミュニティの質を高める。このために効率化をしています。

リンナスで実施しているイベント

「地域のつながり、人との出会い」口で言うのは簡単ですが、実践されているのがスゴイですよね。リンナスさんと仲の良いコーヒー屋さんにいったら、松下さんが街をつないでいることに感謝してました。ちょうどいた常連の方に話を聞いたら「私はコーヒーを買ってるんじゃなくて人と会ってる。」と言っていて、松下さん達の考えに共鳴してくれているなって感じます。
 
これは僕たちがこだわっていることです。ホテルがある種のメディアとなって街の人達の顔を想像できるような観光体験を創りたい。お洒落なコーヒー屋だから行くんじゃなくて、「リンナスに泊まってるんです。教えてもらった〇〇さんいますか?」と言って欲しいんです。僕らがキッカケとなって街とのコミュニケーションが生まれてほしい。
 
そうした考え方って自分達のP/Lにすぐに直結しないと思うのですが、そのあたりはどう考えを整理しているのですか?
僕らだけに利益がある状態は好ましいと思っていません。スタッフにも、会社にも、地域も良いという三方良しの状態を大事にしています。流石に今の規模で、街の人全員をhappyにすることはできない。頭に顔が浮かぶ人たちのことは思いながらやっています。
 
リンナスのもう一つの特徴でYouTubeやSNSを使った広報が秀逸だと思いますがその原動力であるチチさんに出会いを教えてもらえますか
 
https://www.youtube.com/channel/UCpxAJkJzmexvmxRBifuFU3g/featured
 
関東で出会いました。彼女自身がホテルマンだから、ホテルでの過ごし方を良く知って、ホテルマンとしての新しい在り方に取り組んでいる。リンナス金沢をやる時に思いついたのは彼女と一緒にホテルのニューベーシックをつくることでした。
彼女のすごいなぁと思うところは、粘り強さと巻き込む力です。新しい施策をやるとなったら形にするまで粘り強くやり切る力、巻き込む力の2つが必要です。
普通だったら一人ではできないことも、周囲からサポートしてもらっていて頼ることが上手です。そして周りから頼られている。気がついたらそれが形になっている。周りを巻き込むの範囲が最初はスタッフ同士の巻き込む力、だんだんとエリア、街単位で巻き込めるようになってきました。彼女の巻き込む力が大きくなって成長している感じますね。
 
ローコストオペレーション、SNSでの顔を出して発信、勇気がいるんじゃないか?と思うのですが踏み切った時の心境や葛藤を教えてください。
 
コロナで事業を引き継いだ時点で葛藤は全て置いてきました。新しいやり方にチャレンジしていました。全てが変わる世の中なので、新しいことを一つずつ着実にやっている。奇を てらってやっているとは思ってない。最初からやろうと思ったことを一つずつやっている。気持ちの上下はない。
 
 リンナスをこうしていきたいというのはありますか?
ワンデイワンクリエイションという言葉を大事にしています。これは一日、世の中に一つ新しい価値を提供しようという考えで、役職関係なく共通して持っている意識です。僕らは世の中に新しい価値を提供したいから、ツールとして事業、事業の中にホテルがあって、不動産の機能として宿泊があって、免許として宿泊業があるだけで、その中で提供できる価値があるだけです。新しい価値を提供できるか?そこに尽きる。いつもそこを考えながらやっています。
 
松下さんと話しているとすごいエネルギーを感じます。ただ逆の見方をすると、宿泊業に限らずに「働かられされている」とか「仕方なくやっている」でも新しい価値を生み出すために一歩踏み出すのは怖い。そんな人も現実いると思うのですが、そうした方に何かメッセージはありますか?
 
自分が楽しむのが何よりじゃないですか?楽しんでいるかはお客さんにも伝わるので心の底から楽しむ。楽しくないのでゲストに話しかけるキッカケを失ってしまう。それが原因となって、そのゲストが過ごす金沢での体験全般が負の連鎖になるかもしれない。それくらいフロントの人の役割は大きい。じゃあどうしたらいいかというと、自分が楽しむのにつきる。私は経営者ですが、まず自分が楽しく働く。働く人もどうしたら楽しく働けるか楽しくなるかを考えるだけです。これだけで、いい連鎖が生まれます。
 
挨拶が大事。なんかテンション低い挨拶する人いるじゃないですか?その人が元気かどうかに関係なく、元気に挨拶したら、元気さって伝染する。働いている間、元気に過ごせるかなって。ホントに体調悪いなら、休めばいいと思いますよ。
 
組織として仲が悪いとパフォーマンスも落ちますもんね。部門ごとのセクショナリズムで客の方を見ていないなんて状態の話もよく聞きます。
 
前の運営会社の時に不仲が原因でスタッフが半分辞めたり、現場が気まずい空気になったり、お役さんの満足度が下がったりしたケースは見たことがあります。これは気が付いた人から楽しむしかない。そのためにも効率化できることは効率化して、ゲストとの体験の質を上げていきたいんです。

松下秋裕 株式会社Linnas Design 代表取締役
1990年東京生まれ。中央大学法学部大学卒業後、外資系不動産会社にて不動産運用業務に従事。
2015年10月、ホテルベンチャーに一号社員として入社。新規宿泊施設開業4件に携わり、全施設のマーケティング、採用、運営統括などホテル運営の幅広い業務を経験する。
2020年11月に独立し、場のプロデュース・運営を行う株式会社Linnas Designを設立。2021年4月に一号店となるライフスタイルホテル『LINNAS Kanazawa』を金沢に開業。2022年9月28日 4月には金沢のクリエイターとクリエイティブ・ブランディングを行う株式会社MiKSを共同設立し、場に限らずローカルに根ざしたプロダクトやプレイヤーとの協業を行う。
趣味は旅と言語で、世界64カ国に渡航。
 
好きな観光地・・・・・・中米
好きな食べ物・・・・・・チョコレート

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取材後記
松下さんのことは宿屋大学の近藤さんの著書で知り、若くして新しい形のホテルにチャレンジする人だなぁと思っていて取材でお会いできるのが楽しみでした。最初は広報を担当しているチチさんの方に目がいっていましたが、その屋台骨を支える思想とホテルを引き継ぐ覚悟や行動力の両輪があってのリンナスでした。
取材の夜は金沢で出会った方と一緒に近江町市場で買ったものをシェアキッチンで酒盛り。友達の家で飲んでるような居心地の良さ。空気感って計算で生まれるものではなくて人やその人の思想によって生み出さる。DeepJapanも気持ちよく仕事できる存在を目指します。

インタビュー・木立徹
DeepJapanのプロデューサー。これまで手掛けたインバウンドの公共事業は140以上。仕様書を読むのが趣味。インバウンドの専門家のコミュニティの運営や在日外国人800人をネットワークしている。
大阪府出身、さいたま市在住

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