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緊密性が作品の危機を救う   パウル・クレー「花ひらいて」

クレー作品の優れた特性は、素材に関する感覚に明快に現れる。基底材の表面(紙、キャンバスなど)に、インクや炭がわずかに乗ることにより、作品に表情の変化を与える。また、下地に使われる色彩(黒に近い色など)も、素材を視覚的に活性化する。その点で、彼の作品の多くが小さいことは必然であり、大きさによって質が損なわれることはない。

《花ひらいて》にもその特徴は見られるが、この作品は、中央下部の明るい領域にポイントが置かれ、あからさまに観者の視線を集中させる。こういった描画は、すでに指摘されている※ように芸術としては素人としての図解的な表出と言えよう。ピカソやブラックの1915年までの、キュビズムによる明暗の描画表現には遠く及ばない。
しかし、この作品では、明るい色がまわりの暗い色から集められて選択され配置されていることで拡がりとリズムを与え、図解や装飾の範囲にとどまらず、芸術としての質を維持している。ただし、この手法はマチスにも見られるが、マチスによる無性格な描画に比較すると、安定した中心を与える因襲的な表現となっているため、素材に関する感覚が、かえって作品を弱くしている。

とはいえ、《花ひらいて》や、他の作品の一部は、透明感がある深い色彩と色相の変化により、内面性や心理的な内容表現がなされている。その点で彼の作品のイメージ表現は独創性を有している。彼の作品を周囲や自身の素人の眼から救ったのは、画面における緊密な構成である。構成というよりも色彩を含めた形成といったほうが良いだろう。以外にも、セザンヌにつながる画面の構想によるが、それなくしては内面の表現に触れることはなかっただろう。

花ひらいて》1934, 199  油彩・カンバス、81.5×80.0cm、 ヴィンタートゥーア美術館 

※絵画論の現在
マネからモンドリアンまで
藤枝 晃雄




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