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ネズミとかんづめ

 大学の講義で物語の創作を取り上げたとき、モデルとして私が書いたものです。この講義について詳しくは「書くことをどう教えるか」の記事で書きました。学生の反応がどうだったのかは、内緒。
 内容は次の文献に基づくものです。
・メルディ・バレほか著/北川達夫・フィンランド・メソッド普及会訳(2006)『フィンランド国語教科書 小学3年生』経済界.

 *

 むかしむかし、大草原に小さなネズミがいました。ネズミは大草原の小さな家に住んでいました。冬にどっさり雪が積もって家から出られなくなったので、食料はすっかり尽きてしまいました。

 ネズミはおなかがすきました。

 ネズミは家中を走り回って、えさを探しました。ところが、家の中には、肉もなければ、野菜もない。米びつのなかに、米一粒さえ残っていませんでした。

 そういえば、台所の奥にごみ箱があったなあ。ネズミは思い出しました。あそこならば、きっと食べ残しがあるだろう。ネズミは、そのごみ箱に飛んでいき、ふちの上に登りました。ごみ箱の中には、いくつかのふくろがあって、そのなかに食べ残しを入れたふくろもあるようです。よかった、よかった。ネズミはそう思って、ふくろのそばまで歩きました。すると、ごみ箱の上から大きなネコが飛び出してきたのです。ネズミは大急ぎで、天井の隅に逃げました。

 ネズミは天井の隅から、家を見渡しました。おや、あそこにあるのは、みかんのダンボールではありませんか。よかった、よかった。ネズミはそう思って、みかんのダンボールのところまで歩きました。ところが、ダンボールはからっぽだったのです。

 ダンボールのとなりには、かんづめがありました。今度こそ、えさがあります。ネズミはよろこんで、前歯をかんづめにつっこみました。ところが、缶詰のふたはカンと小さな音を立てるだけ。ネズミがどんなに前歯をぶち当てても、ふたを開けることすらできません。

 どうしたらいいんだろう。ネズミは考えました。かんづめを高いところから落として、缶を壊したらどうかな。いいえ、そんなことをしたら、大きな音のせいで、さっきのネコに気づかれてしまうでしょう。

 ネズミはいいことを思いつきました。まず、台所に行きます。そこに、包丁の砥石があります。それを使って、自分の爪をかん切りのようにするどくけずります。そして、その爪をかんづめのふたに差し込んで、ゆっくりギコギコと動かしていくのです。すると、かんづめの中身も、すこしずつ、すこしずつ、見えるようになってきました。こうして、ネズミはえさを食べることができたのです。

(おしまい)

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