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国語が苦手な小学生のための課題別読解力の身につけ方

国語という科目が伸ばしづらい最大の原因は?

「早く読むためには一度読み方を遅くしなければなりません」
これは僕がよく国語の問題が解けない(特に時間が間に合わない)という保護者の方にお話していることです。
国語が苦手な子は結構ここの部分でつまずいているように思います。
僕はここの部分で国語につまずいて国語が伸びなくなってしまう原因は現在の各種試験が持つシステム的な問題にあると思っています。
昨今の入塾試験や模試、昨今の多くの中学入試に出てくる膨大な文章を課す傾向にあります。
そのため、どうしても解くための速度が求められる。
この前提を踏まえて、国語の読解について次の3点を確認してみてください。

①国語が得意な子は要所をつかんで飛ばし読み(あとでこの正体は説明します)をするから速く読める
②国語が苦手な子でも読み飛ばしをすれば速く読める
③しっかりと文章を理解するには遅い(丁寧な)読みの訓練が必要である

「速さ」という表層で見ると、①と②は同じように見えます。
しかし②に行くためには一旦③という、表面的には逆行している訓練をしなければいけません。
しかも困ったことに③をやれば今までで小手先で"解けて"いた問題が解けなくなる上に制限時間に間に合わなくなるため、点数という定量面でも結果が下がってしまう。
この矛盾点があるため、なかなか本当の意味での国語力の養成に踏み切れない子が多く出てきてしまうわけです。

「本当の意味で実力をつけるには、一旦今のやり方を捨てなければいけないし、点数は一時的に下がるし、その過程はゆっくり丁寧に読むというじれったいものだよ」
この3点を小学生の段階で受け入れるのは容易ではありません。
だからこそ、多くの塾ではテクニックに特化した指導やそもそも国語が得意な子をターゲットにした指導によりがちになってしまうように思います。

読解速度のスマイルカーブ

僕はこうした読む力の養成課程に関して、「国語力のスマイルカーブという名を用いて、以下の図のように説明しています。

①スマイルカーブの谷の部分を知ってもらうこと、そして②谷の部分が必要な理由を左脳で納得してもらうこと。
これが入試に対応し得る読む力を高める上では絶対に必要です。

まず国語が苦手な子、そして「表面的には"解けて"いるように感じる子」はスマイルカーブの左側にいると考えて下さい。
今「表面的には"解けて"いる子」と書きましたが、実は国語で最も伸び悩むのはこの層の子です。
おそらく次の質問に3つ以上当てはまるお子さんはここに属すると思うので、一度下の質問に答えてみてください。

□点数が取れる時もあるが波がある
□試験時間や演習時間が十分に余る
□「どんな文章だった?」と聞くと答えられない
□正解もあるが誤答が的外れな時が多い
□日常会話が比較的早口である

スマイルカーブの左にいる子は、恐らく文章そのものに向き合う習慣がついていないため、一旦一文単位、文と文の繋がり、語や文が表す意味を意識した読みなど、ゆっくり丁寧に読むというスマイルカーブの谷の部分にいく練習をしなければなりません。

次にスマイルカーブの真ん中にいる子に関して。
ここにいる子は内容を理解する力はありますが、受け止める情報に濃淡をつけた読みができないため、読解速度がなく、試験に間に合わず、場合によっては得点的に国語が苦手と感じている場合があります。
ここに当てはまるタイプで国語が苦手な子の特徴は次のようなイメージです。

□試験時間や演習時間に間に合わない
□じっくり考えた問題に関しては解ける
□話すのが比較的ゆっくり
□塾や学校の課題が間に合わなくなりがち

あくまで体幹ですが、ここに2つ以上該当する子に関しては、まあスマイルカーブの谷にいると考えていいでしょう。
また、4年生や5年生時点では国語が得意な子の中にも、スマイルカーブの谷の部分に属していて、潜在的に今後伸び悩むだろうなと言う子もいます。
このタイプの子は言語化能力はあるけれど抽象度の概念がないため、記述や感想をダラダラ書きがちです。
国語に得意意識がある子のうち、最近見たアニメや読んだ本やマンガの内容を尋ねた時に、冒頭からダラダラ説明するような傾向があれば、恐らくここに属するでしょう。

ここに当てはまる子は、段落単位でどの文が重要なのか、文と文がどういう関係で結んでいるのかという事を意識しながら読む(ちょうど楽譜を音符単位ではなくメロディ単位で捉えるイメージです)ようになると、スマイルカーブの右側へとシフトする事ができます。

そして、スマイルカーブの右側に来ると初めて、試験問題にも対応し得る理解力と速度が伴った読解ができるようになるわけです。

国語力を階層化して弱点を明確にする

さて、これまでは読解速度のスマイルカーブという表現を用いて説明してきましたが、ここからは国語で求められる力をもう少し細かく分類していこうと思います。
最終的に国語で求められる力が「試験で結果を出すこと」であるとしたとき、僕はいわゆる"国語力"というものが次のような階層になっていると考えています。



それぞれ下の層から順に、①情報取得力、②内容把握力、③要約、④解答力(図では解法と書きました)と表しましたが、これは僕が小学校3年生から高校3年生まで(それこそ帰国子女の小学生の日本語の勉強から京大受験まで)を指導してきた中で考えた階層です。
特に小学生の国語に関してはこの階層の意識が非常に大事であるというのが僕の持論です。

階層①情報取得力

①の情報取得力というのは、文字を単なる語の連なりとして認識するのではなく、その言葉が指し示す意味を頭の中で把握する力の事をさします。
例えば僕たちが「りんご」と聞けば、あの赤い果実を指し示すのだということが瞬時に連想できます。
しかし、「パラミツ」と聞いても何のことだか分かりません(因みにバングラデシュなどで食べられる甘い果実です)。
前者は文字から意味が連想できる状態、後者は文字が記号として機能していない状態です。
これは単語単位の話で書きましたが、これは文単位、文章単位でも起こり、そもそも読めないという子は文が指す意味を考えていないわけです。

情報取得力を具体的図にすると、次のようなイメージになります。

日常にある生活経験と、これまでの活字経験が紐づいた状態を作る。
そしてある程度その部分を大きくする。
これが情報取得力の第一歩です。
当然本格的に読解をしていくには、抽象的な思考が必要です。
しかし、それをするにはまず、一定数の生活経験を頼りに文字で書かれた事の意味を把握する訓練が必要です。
今回僕はこれを書くにあたり、情報取得力に関しては小学2〜4年生前期くらいを想定しましたが、国語の読解力は個人差が非常に大きいため、それより後でも全然遅すぎるということはなく、日常から意識して身につけていくことが大事だと思っています。

この辺を身につけるには、家庭での日常会話や文字情報を絵に書いてみる練習などが有効です。
お子さんが学校から家に帰ってきたら、「今日どんなことがあった?」などの声かけをしてあげてみて下さい。
そして、その際にダラダラ長かったり、要領を得ず止まっていても、話を遮らないで辛抱強く聞いてあげて下さい。
そうすることで子供たちの中で経験を言葉にするという事が楽しい行為に変わり、言葉と生活が繋がります。
また、文字を絵にするというのはこの逆の練習です。
書かれた文字を絵にできるもいうことは、文字から情報を取得できている証拠です。
低学年のうちにいきなり無理やり問題を解かせると、活字そのものに拒否感を覚える可能性があるので、こうしたアプローチも有効です。

階層②内容把握力

情報取得力がある程度身に付いたら、次は内容把握力です。
これは文章を主観を排して、丁寧に、正確に把握する力のことです。

内容把握力に重要なのは、上の図のように語彙力、客観的視点、論理的思考力です。
当然ですが知らない言葉は理解できません。
そのため、受験期まで受験で必要な語彙量を身につける必要が出てきます。
日常からテキストに出てきた語句を調べて使う癖をつけることで、語彙力を身につけていく必要があるわけです。

小学生(内容把握力に関しては小4〜5を想定しています)内容把握に非常に重要な割にあまり言及されないのが二つ目の客観的視点です。
どうしても子供たちは年齢的な未熟さから、主観で物事を考えがちです。(説明文で「おれはそう思わへん!」と言ってみたり、物語文で主人公と自分の気持ちを重ねて読んでみたり...笑)
こうした読み方は、4年生後半くらいから抽象度の高い文章が出てくると、一気に読めなくなってしまいます。
そのために、他者という認識をすること、自分を客観的な視点から見ること、こう言った視点を身につけることも不可欠となります。

3つ目は論理的思考力です。
これは多くの参考書でもしばしば取り上げられるものなので、軽く触れることにします。
読解でいえば、いわゆる相同関係、対比関係、因果関係(中学入試の参考書では「言い換える」「くらべる」「つなぐ」と書かれていることもあります)などを正確に把握する力がここに当てはまります。
また、それ以外にも主語と述語の関係を意識することや付属語に対する注意などもここに当てはまるでしょう。

階層③要約力

さて、こうした力の次に必要となるのが要約力です。
スマイルカーブでいえば、ちょうど谷から右へのシフトの部分。
ここの部分の力を図式化するなら、次のようなイメージになります。

要約力が最も言語化しづらい能力ではあるのですが、強いて要素に分解するのなら、僕はこのように内容保持力と抽象度の視点に分けられると考えています。
内容保持力とは、文章を見た時に内容をある程度のかたまりで認識する力のこと。
TwitterやTikTokのように、流れてきた情報のいま・ここだけを読むのではなく、一定幅の内容をブロック単位で認識しようとする姿勢です。
これができないと、その中でどの内容が中心にあるのか、要するに何が言いたいのかというこの後に出てくる抽象度の訓練ができません。
まずは500〜1000字程度の文章を読み、頭の中に保持しておく練習が必要となります。
ちなみにこの力を身につけるのに有効なやり方として、小学4年生の前期のテキストの基本問題のようなものを、本文を読んだ後、文章を読み返さないで解いてみるという練習を僕はよく提案します(要約力については小5〜6前期を想定して書いています)。
これができるようになると、一定のかたまりで内容が把握できるようになり、次の抽象度の訓練もスムーズにこなせるようになるはずです。

次に抽象度についてです。
抽象度とは、文単位で階層をつけて、本文内容から重要な部分とそうでない部分を区別していく読み方です。
文と文の関係がどうなっているのか、その段落で中心となるのはどの部分になるのか。
こういったことを認識する力を、僕は広義に抽象度と読んでいます。

今年の開成中学校の問題が10000字を超える出題であったことが典型ですが、中学入試の問題は年々長文化する傾向があります。
抽象度を意識して、要点を押さえつつ濃淡のある読みをする訓練を積むことで、こうした長い文章にも対応できるようになるわけです。

階層④解答力

最後の解答力に関してですが、これは今回の記事の趣旨ではないため、簡単な図の提示にとどめておこうと思います。(解法のイメージは僕がこれまでに上げた学校別の記述答案の記事を参考にして下さい)

これまでの力を身につけた上で解法を身につけることで、さまざまな問題に対応する力が身につくわけです。

以上が僕が普段小学生の国語を指導する上で意識している読み方に関するイメージです。
自分の弱点は何なのか?そして、それに有効な対策はどのようなものであるのか?
これを意識しつつ、長期的な視点で(ココ超重要!)一歩ずつ身につけるのが国語という科目の難しさであり、また同時に楽しさでもあるのかなと思います。
国語が苦手なお子さんの勉強のお役にほんの少しでも立てたら幸いです。

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