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第23講浜崎あゆみ『Love song』考察〜浜崎あゆみの葛藤と覚悟〜

僕の興味がある人リストの中に入っているavex代表の松浦勝人さん。
昔テレビのインタビューを見た時から、底知れない目の奥の鋭さ?みたいなものが気になりずっとウォッチしています。
そんな松浦さんが一年ちょっと前にYouTubeを開設したのですが、そこにクリスマスの対談でスペシャルゲストとして登場したのが浜崎あゆみさん。
https://youtu.be/8tGd1sMtOYo
ドラマにもなったように、交際経験のあるお二人。
その会話風景を見ていて、どちらも普段見せないような相槌や暗黙の了解のような間のやりとりで見ていて非常に興味を持ちました。

と、同時に久しぶりに浜崎あゆみさんを思い出して、年末にかけてずっと聞いていました。
世代ということもあり、『M』『SEASONS』『Voyage』『HEAVEN』『dearest』etc...と、好きな曲が多い浜崎さん。
そんな中で僕の中で最も印象に残っているのが今回取り上げたい『Love song』です。
テレビで何気なく聞いていて流れてきたこの曲。
初めは「あゆの新曲だ」くらいに聞いていたのですが、出だしの声、そして歌詞を聞くうちに釘付けになっていったことを思い出します。

らしくない歌詞


〈わかるよ その気持ち 名前 呼んでみる時の 心が 死んでいくような 引き裂かれるような 気持ち〉
これはドリカムの『ねぇ』の歌い出しなのですが、当時作詞をしたヴォーカルの吉田美和さんは最愛の夫を失っています。
(当時そのタイミングでテレビで歌った時は堪えきれず涙を流していたほど)
そんな吉田美和さんが一年ほどしてようやく立ち直った表明として(と僕は解釈しています)発売したのがこの曲。
そしてそんな環境で書き上げた一曲が、まるで傷ついた人にそっと寄り添うかのような「分かるよその気持ち」から始まるものでした。
当時この曲を聴いて受けた衝撃は未だに覚えています。

そしてその数ヶ月後に耳にしたのが浜崎あゆみさんのこの『Love song』でした。
僕はこの曲にも『ねぇ』を聴いた時と同じ衝撃と、何とは言えない「悲しみ」と「やさしさ」を感じました。
ひと言でいうと「らしくない」。

それまでの浜崎あゆみのイメージは、僕の中で「人に自分の聴いてもらう人」だったのですが、なんというか、この曲を聴いた時の僕の印象は「弱さを受け止めてもらいたい」という感覚だったのです。
詳しくは後述しますが、とにかく、僕の中で今までとは違う印象の楽曲でした。

シンプルな構成と強すぎる歌詞


僕が初めてこの曲を聴いた時の印象は、「シンプルすぎる構成」というものでした。
j-popでは、Aメロ、Bメロ、サビという構成が一般的です。
そんな中でこの曲はサビとAメロの2部構成。
(石井竜也さんの『River』、THE・虎舞竜さんの『ロード 第二章』、久保田早紀『異邦人』とかがここに該当します)
メジャーのど真ん中にいるような浜崎あゆみさんの新曲としてはとても印象的でした。

さらに歌詞の内容です。
この曲はおよそ24連ある歌詞の半分以上の末尾に「否定語」が用いられています。
もちろん「〜ない」の韻を踏むための演出でもあるとおもいますが、『Love song』というタイトルの曲の中で、しかもあえて歌詞が強調されるようなシンプルな楽曲でこんなにも否定的な表現を多用するということに、かなりの「意思」を感じました。

浜崎あゆみの「挫折」と「覚悟」


そんなかなり特徴的な構成をとるこの曲は、次のように始まります。
〈愛のない 人生なんて そんなの 生きる自信ない 夢のない 人生なんて そんなの 想像したくない〉
表題で『Love song』と謳っているのに、すぐさま「夢」の話が出てきます。
ここでは「愛と夢のどちらかのを選ばなければならない」でも、「そのどちらかなんて選べない」
そんな印象も受けますが、引き続き歌詞を見ていきましょう。

〈歌のない 人生なんて そんなの 見当もつかない ゆずれない 想いがなけりゃ つまんない 意味がない そんなんじゃない〉
ここで、「歌のない人生なんて」と言われていますが、これは「夢」の具体化と考えて良いでしょう。
つまり主人公にとって「歌」は「夢」であり、それがない人生など考えられないということを歌います。
また、ここは前の蓮と同じメロディが繰り返されるAメロの部分です。
およそAメロ全体の3/4を使って、主人公は「愛」ではなく「夢」への想いを述べています。
そしてここから突然のサビへ。

〈守りたいものがありますか? 守り抜けるか不安ですか?〉
ここで聞き手への質問が来ます。
しかも急に出てきた抽象論。
この問いかけのヒントは次の歌詞にあるので、引き続きサビの部分を引用します。

〈傷ついてボロボロの あなただから 強さ知ってる〉
ここで、訴える相手に対する理解を示します。
その内容が「傷ついてボロボロのあなただから」というもの。
ここには、「自分もボロボロだからあなたの痛みも分かるよ。そしてだからこそあなたもその痛みが分かるよね」という印象を感じます。

〈大事な人がいますか? その人を大事に出来てますか? 失ってしまう前に 優しくぎゅっと抱きしめて〉
この部分はタイトルとサビの後半だけみると、一瞬「ギュッと私を抱きしめて」という自分の願いを叫んだように感じますが、前後の文脈を押されると意味が通じません。
ここは聴いてくれている人に対して「大事な人を失う前に大切にしてあげて」というメッセージと受け止めるのが自然でしょう。
(この歌詞の考察は後半で行います)

さて、例によって著作権への配慮で、2番のAメロから少しずつ省略していきます。
(全編はこちらをご覧ください https://www.kkbox.com/jp/ja/song/grisY25XGML57VbZ57VbZ0PL-index.html)
〈どうやら そう簡単には ことは運ばないらしい〉〈そんなに 何もかも全部 うまくいくなんて思ってない〉
2番目のAメロはこう歌ったあと、諦めたい時も来るかもしれないけれど、それでも想いは諦められないと続きます。
もうこの2番では恋愛の要素は感じられません。
感じ取れるのはとても強い何かしらの「決意」のようなもの。

そして2番のサビに入ります。
〈失ったものはありますか? それは置いてきたものですか?〉
例によって全ての引用はできませんが、2番のサビでは、そのサビ全てが上のような疑問形で8回繰り返されます。
その全てが「過去に対する後悔はないか?」というもの。
直前で「いっそ諦めて楽になろうか」という歌詞からすると、そうした時にどんな後悔があるのかという、強い確認のようにも受け止められます。

そして最後にAメロの歌詞が繰り返されて終わります。
唯一違うのは冒頭は「そんなんじゃない」だった終わりが「そうじゃない?」となっているところ。
わずかな変化ですが、これのおかげで印象はまるでかわります。
その辺も含めて全体の考察は次のところで。

浜崎あゆみのメッセージは何か?


以上のように、よくよく追いかけてみると疑問が多いこの歌。
ここではそれぞれ僕が疑問に思った点とそれに対する僕の解釈をまとめていきたいと思います。

・「そんなんじゃない」と「そうじゃない?」の違い
ここの部分を僕は「反発」と「共感」であると考えています。
始めと終わりに同じ歌詞を持ってきて、その終わりにこの二言をつけることで、前半は「愛と夢なんて簡単な2択じゃないんだ」と訴えかける印象を与えます。
一方、いかに悩んでいるかを曲の全編でこれでもかと歌いあげることで、最後の「そうじゃない?」は「わかってくれるよね?」というような印象になる。
(僕にはそう聞こえました)
この印象変化が曲の説得力を何倍にも強めているというのが僕の考えです。

・浜崎あゆみさんにとっての「大事なもの」
浜崎あゆみさんは突発性難聴を患って、左耳が聞こえません。
僕がこの事を知ったのはこの曲の発売後でしたが、このエピソードを聞いた時、妙にこの曲に納得した事を覚えています。
歌手にとって耳は命のようなもの。
それが歌い続けたら聞こえなくなるというのは、僕らと重みが違います。
「歌を捨てて幸せな生活を選ぶか」それとも「歌手生命を捨てて歌を選ぶか」
まさに浜崎あゆみさんにとってはこんな2択だったのではないでしょうか?

命より歌をとった忌野清志郎さんや落語をとった立川談志さん。
反対に声を失って命をとったつんく♂さん。
アーティストの選択にはそれぞれありますが、そのどちらもが苦渋の決断です。
浜崎あゆみさんは「歌うこと」をとった。
僕にはこの歌にでてくる「大事なもの」とはこのことなんじゃないかなと思うのです。

「Love」か「Love song」か?


ここからは完全に僕の妄想ですが、そう考えるとこの曲のタイトルが、僕には「愛」(=幸せな人生)をとるか「愛の歌」(=歌手としての人生)をとるかという選択に見えます。
浜崎あゆみさんはその究極の2択から、「歌手としての人生」つまり「Love song」をとった。
そう受け止めたからこそ、僕にはこの曲がとんでも無く強い曲で、それ故にとんでもなく人を勇気づけてくれる曲に聞こえたんだと思います。

もちろん解釈は人それぞれですが、個人的には定期的に聴いて元気づけられるこの一曲。
皆さんはどう聴きますか?

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