最新の知見は最新なのか、という話


問題は問題が問題になるまで問題にならない。





技術と言いますか知見と言いますか、解釈は年々に変わっていくもので往々にして確認申請の世界では厳しくなる方向で進化?します。

5年くらい前は「そんな細かいこと‥」って話が今では当たり前、もザラかと。

今回はRC造における柱梁接合部の話。


今はほとんどの方がPw0.3%入れてくれますね。昔は説明に苦労しましたが。

RC基準のQ&Aに出てくれたのが大きいでしょうか。



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RC造の設計において最も基本的な拠り所はRC基準だ、と言って過言ではないかと思います。
私の本棚には1982年のRC基準がありますが、初版は昭和22年か。それだけ昔からRC造を支えてきたと言えるでしょう。

ただし逆に言うと昔には見つかっていなかった知見が漏れている、とも言えます。
※年々改定されており現在は漏れているものは無いかと思われます。日本建築学会様すごいぜ。



で、RC基準に不足していた、いわば応用編の部分を埋めるのに一役買っていたのが靭性指針(じんせいししん、と読みます)になります。

柱梁接合部の設計に着目すると、ここ30年くらい?は靭性指針がほとんどの設計で採用されていました。

最も普及している電算プログラムもデフォルトで靭性指針を採用しているので、一般的と言っていいでしょう。

(最新はRC基準もあるものの、実績の面で靭性指針が採用されているのがほとんどです。)

つまり、柱の設計・梁の設計はRC基準、柱梁接合部の設計は靭性指針、です。


ここで私を含むほとんど全ての方が見落としていたのが靭性指針の柱梁接合部における仕様規定になります。

RC基準の仕様規定ではPw0.2%必要のところ、靭性指針ではPjw0.3%必要、と仕様規定が厳しくなっているのですね。


柱梁接合部だけを取り出して別検討しているのだから建物全体はRC基準の仕様規定に従う、という見解でしょうか。

そもそも靭性指針の仕様規定がRC基準の仕様規定と異なっていたことに気付かなかった、でしょうか。

見落としだったのか怠慢だったのか、RC基準も靭性指針も法律じゃないと言い張ることがギリ可能なのでこれ以上は止めておきます。


とにかく実態として、柱梁接合部のPwは0.2%以上あるかのチェックしかしていなかった時代が存在しています。


15年位前ですかね、黄色本が発刊されて「各指針に基づく際は各指針の仕様規定に従うこと」みたいなのが明記されて
その頃から「え?これ、やばくね?」と一部でざわつき、指摘も徐々に出るようになり
(当時は設計者の反発が大きいものでした、しみじみ。大手の機関さまが指摘するまでは気付いても言わなかった、がくぶる。)
5年くらい前にRC基準のQ&Aで誰かが藪蛇をつついた結果、靭性指針でやるなら0.3%、が逃げれなくなった、

という経緯が私の実体験です。



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せっかくなので仕様規定の背景を深堀します。


RC基準では柱梁接合部という概念が昔ありませんでした。薄かった、というべきか。
柱梁接合部は柱の一部という思想だったので、柱のPw0.2%がそのまま柱梁接合部にも採用されたと思われます。

個人の感想です。

ひるがえって靭性指針のPjw0.3%

これ読んだらビックリするんですけど、根拠だいぶ薄くない?

「本指針の元とした終局強度指針では0.3%として余裕度に応じて0.2%まで低減できる。本指針では柱梁接合部の重要性を考慮して0.3%とした」

と。うーん。

なんにせよ決められたものには従うしかない。


ちなみに私の狭い世界では、新耐震で0.2%の柱梁接合部が崩壊した実例は聞いたことないです。

世の中ではあるのかもしれないけど。

それでも靭性指針が、じゃあ実在する建物で実大実験をした結果を鑑み0.2%でもOKに改正する、ことは考えづらいのですよ。
緩くなる方向の変更は何かあった時の責任が重過ぎる。


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ともあれ、かくして、今現在では靭性指針で柱梁接合部を計算したら0.3%入れる、が構造屋の共通認識にほぼなっている、という状況です。
まだアップデート出来ていない方もいますが時間の問題でしょう。






今日の本題。


ここまで最新の知見に設計が長い年月をかけて追いついた、という話をしたのですが、まだ十分ではないのかなと思うことを。


それは、「Pjw」が「Pw」に誤解されている。ということです。

この記事の中で意図的に「Pjw」と「Pw」と区別して記載しています。

私が見る限りほとんどの設計者が「Pw」で算定してくる状況です。


Pwの説明は省略します。

Pjwとは、靭性指針の柱梁接合部の項で定義されている語句で、梁の上端主筋と下端主筋に挟まれた部分(≠柱梁接合部)のせん断補強筋比 をPjwと定義しています。
単位長さではなく仕口コアとして求めているわけですね。


具体的に計算してみましょう。

柱が900角、仕口Hoopが2-D13@100 とするとPw=0.282%となり0.3%を満足していません。

ここで梁せいが600、上下のdtが85で上端主筋の下端~下端主筋の上端を400とします。

第1Hoopが下端筋のすぐ上、@100、最後のHoopが上端筋のすぐ下とすると5本入ります。

(私が現場監督していた時の鉄筋屋さんはそう入れていた、という話で。これが一般的かどうかは自信ないです)

Pjw=5*2*127/((600-85-85)*900)*100=0.328%

0.3%満足しちゃうぅ、対応しなくても問題ないぃぃ。




さて誤解があったとしてもPwで0.3%入れればPjwはそれ以上になるので安全側です。よって、わざわざ指摘をすることはありません。
Pwが0.29くらいだったら、Pjwで0.3超えるな、と判断してスルーしたりもします。

こちらから言う時は「Pjw」ってちゃんと書きますよ。




また、個人的に考える所で誰にも合意は取れないかなと思うのですが
中子はPjwに数えて良いのだろうか、私の中では疑問です。

靭性指針の中でPjwはせん断強度を上昇させるもの、ではなく、接合部コアコンクリートの拘束効果を高めるもの、とあります。


中子って拘束するかなぁ…

はらみ出しには寄与すると思うけど、コア拘束の鉄筋量に入れる…?



これは流石に噛み砕いた文章に出来ないのですが、うぅ、構造屋のゴーストが囁くのよ。

ま、そんなの指摘根拠が無いので心にしまっておくんですけど。





色々そっとしておこうよ。

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