構造審査よもやま話 第4話 〜法律にはまだまだ深淵がある〜

「トリビアの種」って今から考えるとテコ入れ企画だったのかな。






告示594号第2 第三号ハ (水平震度による突出部分に作用する応力の割増)

地階を除く階数が4以上である建築物又は高さが20メートルを超える建築物であって、昇降機塔その他これらに類する建築物の屋上から突出する部分(当該突出する部分の高さが2メートルを超えるものに限る。)又は屋外階段その他これらに類する建築物の外壁から突出する部分を設ける場合
作用する荷重及び外力(地震力にあっては、当該部分が突出する方向と直交する方向の水平震度(令第88条第1項に規定するZの数値に1.0以上の数値を乗じて得た数値又は特別な調査若しくは研究に基づき当該部分の高さに応じて地震動の増幅を考慮して定めた数値を乗じて得た数値とする。)に基づき計算した数値とする。)に対して、当該部分及び当該部分が接続される構造耐力上主要な部分に生ずる力を計算して令第88条第一号から第三号までに規定する構造計算を行い安全であることを確かめること。





…ほんと、法律って読みづらい。

要約しますと、構造部材が2mを超えて片持ち状になっているときは応力を増やしましょう、ということです。


片持ち、とは先端に支えが無いという状況ですので地震で揺らされた場合に先端がぐわんぐわん振られる、と。

それでも壊れないようにね、がこの法律の背景です。



具体的な対応としては長期の応力を1.33倍にしたり、逆読みで長期の検定比を0.75(=1/1.33)に抑えたり、といった解法が一般的になります。

これは、短期の応力が上記の告示によって長期の2倍になるのに対し
短期の許容応力度は長期の許容応力度の1.5倍になるので

2/1.5=1.333

から来ています。


具体的な数値にしましょうか。

長期の応力が30、D13@100として単位幅で127*1000/100=存在鉄筋量1270、許容応力度196、有効せい150

とした時、必要鉄筋量は

30*1000*1000/196/150=1021

よって長期検定比は

1021/1270=0.804


で1.0を超えないからOKだね、って話なんですがここで突出部の応力割増がかかるとすると

短期の応力は1Gで2倍の60、許容応力度295

なので必要鉄筋量は

60*1000*1000/295/150=1356 で1270を超えるためNGです。


ここがNGにならないようにするためには、ちょっと変な数値ですが存在鉄筋量を1361として長期検定比を0.75に抑える必要があります。

長期検定比1021/1361=0.75
短期検定比1356/1361=0.996

単なる数学の四則演算なので
α=60/30*196/295=1.33で考えても同じ話、
不等号使って数式で解いても同じ話です。




ここまで構造の先生が読んだら卒倒しそうな文章。

堪忍してや、構造の話がしたいんとちゃうねん。構造以外の人も読んで楽しめる記事が書きたいんや。




余談ですが私個人の実感として半数以上の方が2mを超えてなくても1.33倍や時に1.5倍までして計算してきます。

安全側だから良いんですけどね。



更に余談

こないだ面白いなと思ったのがRCでSD390を使用している場合
私なんかは何も考えずに1.33倍したら、って感じだったんですが

SD390の長期許容応力度は195、短期許容応力度は390(径28mmを超える場合)なので比率は2倍
応力割増はしないで良い(既にしていると見なす)。


なかなか気が付かなかったですね。

F/1.5の上限が195、かつ、割増の原理、を理解されていないと出来ないので素直にスゴイと思いました。







ここからが本題

国交省や各地方の整備局が民間の審査機関に監査に入るのですがその結果を取りまとめた資料が年1回で公表されます。

昨年の資料の中で、片持ち部材のみではなく当該片持ち部材が「取付く部材」に対しても指摘すべしというお達しが出回りました。


うっそ、やったことないって。





告示本文「~当該部分及び『当該部分が接続される構造耐力上主要な部分』に生ずる力を計算して~」

あ、明記されてた。うん、見落としてた。



でもこれ、やったことない人がほとんどではないでしょうか。

当該部材の割増しかやったことないし、見たことも無いよ。



法律の見落としは非常にマズいので、今までやらなかった言い訳を考えてみます。

・多くの場合、片持ち梁の基端は柱に接続され、更に奥には大梁が存在する。 よって片持ち基端応力は固定モーメント法に基づき見上げ柱・見下げ柱・大梁に分割される。

・片持ちスラブや大梁が基端となる片持ち梁では、片持ち基端応力は大梁をねじれさせることになるが
やはり多くの場合は内スラブも同時に付いている。控え小梁がある場合も。

・検討が必要なのは短期となるため、そもそも柱や大梁には本体地震力による応力が入力されており
片持ち部材の長期応力の2倍は、それと比べて小さいことが予想される。


だから、わざわざ検討しなくても問題ないだろうことを見越して検討しなかったんですよ。






…で、通るかなぁ。

今後は通らないですね、だって法律に書いてあるもの(自分のことは棚上げ)



こうしてこの世にまた一つ新たな指摘項目が生まれた。


設計者の皆様にはどうか内容のご理解いただき指摘されてもうまく言い訳作ってくれ、と思います。

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