見出し画像

2021シーズン開幕を迎えて

ついに開幕の日の朝ということで、昨シーズンの終わりから起こったことと感じたこと、そして今シーズンベガルタ仙台の戦術の展望をしてみたいと思う。

2020シーズン総括 -見えない隔たりと

まず木山前監督の中で2021年に向けた戦い方をする、ということが中断明け2020シーズンの位置付けだった。しかし負傷者続出、騒動続きと、木山さんにとって不運な事象があまりにも多かった。その中で当然戦術の落とし込みに苦戦し、最低限を固めることで手一杯だった。結果論だけど。標榜した433でのアグレッシブな戦い方で得た勝ち星は少なく、ガンバ戦然り、それは奇襲のような形で得たものだった。もちろん相手を欺くのも勝負事の大切な一要素。しかしそれ以外で勝てなかったのはつまり、チームとしての地力が明らかに足りないということだった。理想と現実の中で勝利の焦燥に駆られ、木山さんにとって2021シーズンには繋がらない戦い方を選択せざるを得なくなった。

最終節湘南戦の前半は理想のために積み上げてきたものを発揮しようと、せめてベガルタの未来につながるような戦い方を木山さんは指導者として選択した。不運なシーズン、マネジメントも難しかった中で積み上げた成果を出したいところだったが、0-0で前半が終了した。2020年ユアスタ未勝利に終わるわけにはいかず、勝負師としての木山さんは、後半に未来なき目先だけの戦い方を選択した。結果的に勝利は得られず、彼は仙台の地を去った。勝負に徹してもなお勝てなかった。その結果と、サポーターとクラブやチームを隔てていた、見えない壁の存在、内情が見えてこない事実が相まって、徐々に自分の中で退任は妥当な判断だったと思うようになった。木山さんは試合前後のインタビューで、どこを見ているのかわからない、難解な表情をする人だった。質問の答えも掴み所のない、まさに勝負師らしい人だった。ただその中でサポーターとの距離が見えるような、それが近づくような発言をもう少ししていれば…とも思う。

ただ不遇な一年を過ごしたからこそ、そうでない世界線であれば、どのようなストーリーを木山さんと描けたのかとたまに想う。次のクラブでは幸多き時間を過ごして欲しい。

オフシーズン振り返り -再び手を取り合って

そうしてやってきたのが手倉森誠現監督。運命で散々な状況を木山さんに叩きつけた神様が、同様に運命でテグを仙台に呼び寄せた。


まず初めに、彼に代わってよかったと感じることがあった。それは苦しい状況を苦しいとはっきり断言したこと。これは2021年にベガルタ仙台の監督を務め得た人材の中で、彼にしかできないことだと思う。その素直さ、サポーターが感じたものとの隔てのなさこそ、去年足りなかった、今年求められた要素だった。
監督の発言だけでなく、昨シーズン閉幕から今シーズン開幕までのクラブの取り組みも、それが意識されたものだった。広報カメラは連日YouTubeにアップされ、分け隔てなくチームの今を発信し続けた。さらにサポーターカンファレンスのオンライン開催や、佐々木社長直々のメディア出演で、クラブの今を包み隠さず発信した。これはサポーターのクラブに対する不信感や不安を払拭するには十分な、素晴らしい取り組みだったと思う。見えない壁は消えかけ、ベガルタ仙台とそれを支える人々が手を再び取り合おうとしている。そんな期待感溢れるオフシーズンを過ごすことができた。

画像1

2021シーズン展望 -編成から見えるもの

無論その期待感、希望をより強く大きなものにする一番のものは、トップチームの勝利に他ならない。ではいかにしてその勝利を現実的なものにするか。そこで戦術ブロガー()として、今ある情報から見えてくる手倉森仙台の戦い方を予想してみたいと思う。

想定されるシステムの中で、最も手堅く現実的なのは4231。まずはスカッドをそのシステムのポジションと年齢で整理してみたい。

画像2

見えてくる特徴は大きく二点ある。一つはどのチームにいてもスタメンで出られるような、実力がある選手がいるポジションでは、同じポジションの選手との年齢差に開きがあること。例えばGKは、昨年クバの控えを務めていた選手が移籍した代わりに、ストイシッチ、井岡の若い選手を二人新たに獲得した。右SBやCBなどにも同様のことが言える。これには近い将来のレギュラー獲得を担保し、成長と学びを促す狙いがありそうだ。逆に実力が横並びの場合は、同じ年齢層に選手を固めているとも言い換えられる。再びGKを例に取ると、クバの後釜を担うであろうポジションは、同じ年齢層の3人が務める。これには競争力を高める狙いがありそうだ。未来を嘱望される佐々木匠と同じポジションに、同じ年齢層の氣田や加藤を加えたのも、彼に10番をつけてもらうために設けたチャレンジであると捉えられる。

二つ目の特徴は、DFラインにタイプの異なる選手をそれぞれ置いていること。CBで言えば、空中戦や対人に長けるシマオと平岡、カバースピードやビルドアップに定評あるアピと照山にタイプ分けが可能だ。また左SBも同様に、足元の技術とキックがある長倉と、縦への推進力がある秋山にタイプ分けされる。これには対戦相手の戦い方に応じてメンバーを変え、丁寧にビルドアップして相手のプレッシャーを剥がしていくか、相手の攻撃を耐えてロングカウンターを狙うか、それぞれの中間を取るかなどを選択できるようにする狙いがありそうだ。

2021シーズン展望 -練習から見えてくるもの


チームのメンバーとそのポジションや年齢層からチームの将来性、そして臨機応変な戦い方が見えてきた。次に練習内容から考えられる、ピッチで発揮されるであろう、具体的な現象を三点挙げてみる。

1.状況に応じて広くボールコントロール

ここでのボールコントロールは味方からパスが来てからのファーストタッチ、ボールを運んで前進する際のドリブル、パスを指す。これを相手の出方、プレッシャーのかけ方に応じて左右両足それぞれ使い、広い方にボールをコントロールするようにする、というのがおそらく準備されている現象だ。例えばビルドアップする左CBにボールが渡ろうとしてる時、その選手の右前方から相手がプレッシャーに来てるとして、その場合は右利きであっても左足でコントロールし、広いサイドにボールコントロールする。これを意識した練習は身体的負荷がさほど高くないことから、一次キャンプの時から見られた。またコントロールから逆サイドへのロングフィードも練習していた。例に挙げたシチュエーションにおいて、昨年ことごとく苦労した平岡がどのような進化を見せるのかに期待したい。

2.楔からのコンビネーション

選手Aが縦パスや斜め前方へのパスを味方に入れ、それを受けた選手Bが近くにいる前向きの選手Cに落とし(レイオフ)、その前方の選手B,C,Dがそれぞれ重ならないように相手の背中側に動き出してボールを受けようとする、そういった現象もピッチ内で見られるはずだ。これを意識したトレーニングは、二次キャンプから三次キャンプにかけて行われていた。受け手側のタイミングや、同じポジションに走らないようにする(重ならないようにランニングする)意思疎通が必要になってくるこのプレー。実践の場でスピード感を持って発揮できるかに注目したい。

3.素早いトランジション

ボールを失ってからそれを奪い返す、もしくはコースを制限して全体が撤退する時間を作る、逆にボールを奪ってから真っ先にカウンターに出るといったトランジションの攻防にもこだわりがありそうだ。クイックな方向転換が連続する、特に負荷が高いこの練習を、三次キャンプでは連日行っていたよう。この局面を得意とする上原力也や、カウンターの先鋒となるサイドハーフに期待したい。前監督がテーマに掲げたアグレッシブさを、今年こそは結果に繋げられるだろうか。

おわりに

ここまで今シーズンの編成とトレーニングから読み取れるチームの戦い方を予想してきた。ここで挙げた要素は、戦い方のほんの一部に過ぎないが、積み上げてきたことが十二分に発揮されるシーズンになって欲しい。


キツイトレーニングを積んできた選手たち。にも関わらずけが人がほぼ出ていないのは、ツキがあるからだろう。そのツキを持って、勝ツキ満々で広島に乗り込み、勝利を手にして仙台に凱旋することを期待して、開幕を迎えたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?