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~個人タスクから読み解く4-3-3~ J1 第2節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台

2020明治安田生命J1リーグ第2節 湘南ベルマーレvsベガルタ仙台 2020.7.4

長い長い中断期間を経て帰ってきたJリーグ。ベガルタ仙台は平塚の地で今季初、また木山体制として初の勝ち点3を獲得しました。この試合を語るうえで欠かすことが出来ないのは仙台の4-3-3というシステム。これまで4-4-2や3-4-2-1で歴史を刻んできたクラブにとって、この4-3-3のシステムの採用は新たな挑戦といっても過言ではないかもしれません。この記事ではそのシステムを11人がどのような役割のもとで構成しているかを読み解いていきたいと思います。

いつものような試合の中での戦術の駆け引きを時系列で確認するレビューにについてはまた別に書くかもしれません。多少これと被るところが出てきそうですが。では。

両チームの配置

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前述の通り、基本形を4-3-3とした仙台。対する湘南は3-5-2。

ゴールキーパー

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この日J1初出場を果たし、クリーンシートを達成した仙台ユース出身の小畑。以前には中盤でプレーしていたという彼の武器はやはり両足のキック。この武器を活かし攻撃時にはCBのビルドアップを後方から支えた。この武器があるため、敵を前方に引き付けた状態(=湘南の後方にはスペース)でロングフィードを前線に正確に入れ、盤面をひっくり返すことが可能に。相手に完全に撤退され、攻撃のためのスペースがないといった状態になった際にこのタスクはより重要になってくる。

GKの最もたる役割、ゴールを割らせないことに関してもこの日は完璧にやり遂げた。

センターバック

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中断前はシマオマテが務めた右CBのポジションにはこの日吉野が入った。開幕戦ではボランチでプレーした彼が1列下がったことで後方のビルドアップが安定。小畑がCB間に加わることで後方は相手の2トップに対し3人で組み立てる。その際に吉野は湘南の2トップの脇からボールを前進させ、相手の同サイドCH松田天馬を引き付けたところでその背後の関口に縦パスを届けた。

守備時の約束事として特に挙げられるのは、降りる相手のFWに対してそのままついていき、そこにパスが出た際に潰しきるということ。これは相方の平岡も同様の役割だが、彼ら2人はどちらかが出た際にはもう一人がその斜め後方のスペースを埋めるという原則のもとこの守備を行っていた。シマオほどの強さとはいかないが、遜色のない前向きの守備を見せた。

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ベガルタ仙台で過去4シーズンに渡りCBで出場してきた平岡。今シーズンも彼の統率力や空中戦の強さは欠かせないものになりそうだ。前述したように守備時の原則は吉野とほぼ同等。抜群の安定感を誇る。

ある程度の距離でも正確に楔が打てる相方とはタイプの異なる平岡。中距離のパスを届けるよりかは長距離で長沢目掛けてフィードを送ることが多い。かといって短距離の組み立てを行わないかと言われればそうではない。彼が始発点となる左サイドは特徴的な型のもと前進を行っていた。

サイドバック

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平岡が支える左の前進においてキーとなるのが石原崇兆。彼はパスを受ける際、大外のタッチライン沿いではなくより内側のいわゆるハーフレーンに立ち位置を取りボールを受ける。この際、局面は以下のような形になる。

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この内側のスペースで受けると同レーンの湘南CH斎藤が寄せに来る。また西村も大外に張ってWBの動きを抑制。このことにより、CHの背後のスペースが開き、そこに立つ松下に崇兆が直接パスを届けたり、西村が受けてから落として入れたり、椎橋が角度をつけてボールを受け楔を入れたりした。

この左サイドのビルドアップは崇兆自身の武器を見事に生かしたものだと思う。彼の特徴は両足でボールを正確にコントロールできること。平岡からのパスを右足でコントロールすればピッチの内側にいる椎橋にボールを届けられる。その逆も同様で、左足で触れば斎藤がプレスに来る方向とは遠い位置でコントロールすることができ、パスの難易度がまた下がる。この柔軟性が左サイドの前進を支えている。

ハーフレーンを初期位置としてプレーする崇兆はウイングの西村が大外高い位置で受けた際、そのまま内側のスペースを走り、湘南WBとCBの間への侵入を試みる。インナーラップ。また西村が内側にいる際には自身は外側を回りWBをピン止め。西村をCBとの一対一に集中させる。

攻撃時にその特徴を発揮する崇兆だが、守備時に少なからずデメリットが生じる。それは逆サイドからクロスが来たとき。Jでは逆サイドの身長の低いSB近辺で長身の選手がクロスを合わせ得点するというシーンがよく見られる。去年のマリノスもそんな感じだった気がする。ということでこのような失点を防ぐべく、他の守備陣のカバーも求められる。

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逆サイドのクロスをそもそもあげさせなければ、崇兆の身長問題は発生しない。その点において蜂須賀がいかに敵のサイドの選手の自由を制限するかは重要になってくる。この試合では同サイドの鈴木冬一をマンマーク。彼が内側に絞って逃れようとしても決して離さなかった。実際にこの試合仙台が入れたクロス数が24本だったのに対し、湘南は半分の12本。うち成功したものはわずか1回。湘南のサイドアタックを見事完封した。

攻撃時、まずボールが逆の左サイドにある際は内側に位置をとった。これは仮にボールが奪われたとしてもゴールに最も近い中央のスペースを消すことが出来るという利点がある。これは崇兆もやっていたことだ。

対し自分のサイド、右サイドにある際にはタッチライン沿いでプレー。関口やジャーメインが内側にいれば勢いよく大外を駆け上がった。

また蜂須賀の武器は左右で正確なキックが出来ること。その武器を発揮し、相手を右サイドに寄せては左HLでフリーになった崇兆に正確なサイドチェンジを送った。百発百中。

アンカー

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4-3-3システムの肝となるアンカー。中央で全体の軸となる働きが求められるが、このポジションには椎橋が入った。彼は2018シーズンに3-1-4-2システムのアンカーを経験していたこともあり、少ないタッチでボールを捌き、周囲と連携しつつ軸として安定したプレーを見せた。

守備時のアンカーはCBの手前のスペースを埋めることが一番の仕事。これを行わなければCBがアタッカーの前に晒され、簡単に一対一を仕掛けられてしまう。この仕事をする上で一つ重要な動きが味方と味方の間を塞ぐこと。

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例えば鈴木がボールを持ち蜂須賀に対して仕掛けている際、椎橋はボールに近い蜂須賀と関口の間に立ち、中のCBの手前のスペースを遮断。侵入を防いだ。

インサイドハーフ

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左サイドのIHに入ったのは天才こと松下佳貴。前述のように左サイドでの組み立て時には斎藤の背後に立ってボールを受け、逆サイドにアウトサイドで展開するなど充実のプレーぶりだった。また背後に立つだけでなく手前に立つことで同じようにCHを引き付け西村へ背後のスペースを提供したり、さらにはターンしてDF裏へスルーパスを送るなどの”らしさ”を見せた。

守備時にSBやアンカーが中央のスペースを意識した立ち位置を取ったように、このポジションにも相手を中央で自由にプレーさせないようにする役割が求められた。そのタスクとして松下は彼と近い位置に立つ敵のCH斎藤をマンマーク。後述するFWの誘導と同時に相手を捕まえることで、中からの侵入を防ぎボールを奪取した。

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左松下の松下とIHでコンビを組んだのが関口。彼も同様に守備時は松田をマンマークし自由を奪った。ただ自ら相手を術中にはめてボールを奪いに行くこの戦術は主体的であると捉えることもできるが、一方で列を降りたり、工夫して動くCHの選手に対しても愚直に密着し守備をするのは能動的であるともいえると思う。実際に降りるCHについていきすぎた余り、アンカーとの距離を開けてしまうこともあった。これからさらに時間が経ち、実戦経験や修正を重ねることでそのプレスのメリハリが向上することを期待したい。

さて元々サイドでの仕掛けやランニングに定評があった関口がIHでプレーすると、その特徴が消えてしまうのではないかと危惧していた。しかしそんなことはなかった。同サイドのジャーメインが内側に絞った際に関口は外側に出てWBに対しドリブルを仕掛けた。また安易に仕掛けるだけでなく、後方にボールを戻し組み立てなおすなど試合の主導権を保持するような落ち着いたプレーも見せた。

ウイング

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2018年、チームの中で規格外の存在となった彼が色々あってまた仙台に戻ってきた。以前シャドーのポジションで磨かれたスペースに立つポジショニングスキルは健在で、何度も言っているCHの裏のスペースでボールを受け、相手に対し幾度となく仕掛けることでゴール前まで侵入した。またクロスを合わせる際にも闇雲にゴール前に入らず、マイナスのCBから離れたポジションで合わせてのシュートを試みた。空振ってたけど。

相手のビルドアップ時にはWBへのパスコースを消すように外側からCBの岡本に対してプレッシャーをかけた。こうすることで松下や関口がマークしているCHにパスが集まり、ボールを奪う確率を高めた。

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この日貴重なゴールを取ったジャメも西村同様の仕掛けを右サイドで発揮。蜂須賀と関口と連携し立ち位置を取ることで湘南ゴールに近づいた。西村に比べればカットインの回数は少なく、むしろ先制点のシーンのように縦に行って右足でクロスというシーンが多かった。

ウイングの守備として、相手がビルドアップをしている際には外を遮断する動きが求められることを上で説明した。そのプレスがはまらず湘南が仙台ゴールに近づいた時にはCBの周辺に立ってカウンターの機をうかがう。またその立ち位置は速攻が出来るだけでなく、CBの上がりを抑止する効果がある。現に湘南は開幕節でCBが積極的にオーバーラップしチャンスを作っていたが、この日はそのようなシーンはあまり見られなかった。立つだけで相手に脅威を与えられる存在。そんな仙台の両ウイングだった。

センターフォワード

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ワントップに入った長沢は後方からのフィードのターゲットとして役割を全う。クロスに対してもCBとポジション争いを行うことでDFラインを下げさせ、マイナスに入る西村のためのスペースを作り出した。

相手のビルドアップに対してはアンカーに入った福田を監視し、プレーを制限。なかなか後方で絡めない福田はそれを嫌いCB間に入り組み立てを試みるが、いずれにしても長沢に中央のスペースを消され、その先のCHはIHの餌食となり、効果的なプレーとは言えなかった。

交代出場の選手

ここからは後退で入った選手のプレーや役割をさらっと確認していく。

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58分に投入された赤﨑。DFラインと駆け引きをし、スペースからミドルシュートも。終盤のボールキープはチームに時間を与えるには絶好のプレーだった。

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赤﨑と同タイミングで投入されトップ下のような位置を取ったゲデス。この試合のカギとなっている湘南のCHの選手をランニングで引きつけ、外に追いやって中に空間を作るなどクレバーなプレーを前線で見せた。また自身がそのスペースで受け味方とコンビネーションを見せるなど器用さも垣間見えた。

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67分にジャーメインに変わって右サイドに入った山田。ゲデスや赤﨑が作ったスペースに入ってのシュートがあった。また守備は特に素晴らしく、442のサイドからCBに対してプレスをかけるウイングとしてのプレーや、中央のCHをマークするIHとしてのプレーを見せた。

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90分にリードを守り切り勝利するために投入された二人。しっかりと中央を固め、相手の侵入を許さなかった。

最後に

ということで新生ベガルタの4-3-3を個々がどのような役割をこなし、湘南を相手にどんなプレーをしたのかについて振り返ることで読み解いていきました。このシステム変更によって個々の武器がうまく組み合わさったように思います。チームの個々のストロングをかけ合わせた結果このようなシステムになったみたいな。帰納法。

それでもここまでチームとしての狙いや約束ごとが想像以上にはっきりと出るとは思っていませんでした。中断期間の取り組みが勝ち点という結果になって本当に良かったです。もちろんこれが再開後初めての試合で、今後の相手やメンバーによってこの4-3-3の仕組みは変わってくるでしょう。それはそれで、どのようなバリエーションを出せるのかが楽しみです。



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