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2020/8/24(うたの日366)

夢の中、撃ちまくれたし、念じればビルも壊せた パンツは穿いてた/ポテト博士
(2020/8/02「パンツ」)

一読してすごくじわじわ来てしまう短歌。「夢の中」と初句で云ってしまうことにもちょっと新鮮さがある。というのも、夢の短歌はなんとなく、夢であることを最後にネタバレさせるようにつくりがちだったりするので…これは、最初にネタバレしても全然大丈夫な夢の話ということになる。実際、すべて動詞は過去形になっており夢から醒めた直後にひとつひとつ思い出していってるんだろう。…そのまま夢のなか特有の万能感のある描写が続き、結句で突然「パンツは穿いてた」と真顔で呟く感じがなんだか可笑しい。でも、よく考えると、すごいスピードで走れるヒーローでも服は破れてなかったり、大事な部分だけ残っていたりする。もしくは、サッカー漫画などで、実際にはあり得ない大技が繰り出され地面が抉れていたりしても、ボールはなんともなかったりする、あの感じ。夢の中では最強の存在だったようだけれど、実際は自分の履いていたパンツがいちばん強靭だったな…と起き抜けにぼんやり思い返しているのが面白い。
自分としてはヒーローとして読んだのだけど、悪役だった場合として読むのも面白い。テレビの向こうの悪役はすさまじい破壊行為をしていたとしても、テレビの向こうの存在なので絶対にパンツは脱がない。極悪非道のはずなのに、なぜかテレビのなかの良識はきっちり守っている。見る側になってそうと解ると違和感がこみあげてきて面白いが、夢のなかで自分がその役になっていると、ひどく真面目だったのかもしれない。結句で読みが何通りもできる不思議な歌だと思う。


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