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2020/1/29(うたの日366)

ひさかたのメトロポリタンぼくじゃない誰かが夢を叶えたひかり /若枝あらう

(2018/10/26「叶」)

何処から説明するか迷うほど歌全体が上手く、でも、ただ上手いだけじゃなく、ぐっとくる点をたくさん持った歌だと思う。
「ぼくじゃない誰かが夢を叶えたひかり」というフレーズにまず心が打たれる。誰しも自分に引き付けて考えてしまうだろうし、「ぼくじゃない誰かの夢」であれ、それはみんな「ひかり」なんだと提示してくれている。
また、「ひさかたの」は「ひかり」にかかる枕詞でこれをさらっと使っていて、かつこの古語が二句目の「メトロポリタン」とぶつかっていて、化学反応のようになっている。従来の使い方では絶対になかった組み合わせを成功させている。
それらを含めて全体を読むと、メトロポリタン美術館は「ぼくじゃない誰かが夢を叶えたひかり」が集まった非常にまぶしい場所として提示されていることが解る。メトロポリタンに自分は行ったことがないけれど、そういう場所なのだとイメージできる。そのまぶしさは、自分のものでなくもう手の届かない(手の届かないものの喩えとしての美術館も上手い)ひかりなのだけれど、それに焦がれてわたしたちは足を運んでしまうのだろう。すごくしっくり来るし、微かな淋しさが残る。すごい歌だと思う。

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