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2020/7/30(うたの日366)

視力なき魚たち生きる深海に雪として降る鯨の精液/梶原一人
(2018/1/8「精液」)

一読してすごいなと思う。「精液」って生命の根源的な感じであるはずなのに、うつくしく詠むのが難しい素材だと思うのに、こういう風に詠めるのかと思う。
実際にあり得る景として切り取ったのかもしれないし、真っ暗になった街にそういう光景を幻視しているのかもしれない。
深海に住む魚は雪の存在を知らない。見えないところに住んでいるし、そうでなくとも視力がまずない状態だ。なので、この世界に降る「雪」は雪の名を冠していても実際は鯨の精液のことを指す、そんな深海だけで通じる言語のような感じが面白い。人間にとって雪はたとえ積もるとしてもはかないもので、そもそも雪は大気中のゴミを核にして成り立っている。だが、深海の「雪」は生命のかたまりとして海中に漂う。歌のなかで言及はしていないけど、雪を降らしている鯨を深海魚たちはどう思っているのだろうか。眼が見えないので鯨をきっと知らないままで、生命を降らしてゆく神さまのように感じているのかもしれない。


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