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2020/1/25(うたの日366)

アリ埋める出てくる埋める埋める出る 死なない死なないきっと死なない/ひろり

(2019/8/23「埋」)

すごい歌だと思う。上の句は状況描写、下の句が感情描写になっているのだけれど、下の句を思うあいだも主体はずっとアリの巣を埋めていると思っていいだろう。楽しいとも、アリの巣を埋めなければ、というような切迫感も描かれておらず、それが逆にとてつもなく不穏な感じをにじみ出させていて、怖い。怖さに成功していると思う。
また、この歌で特筆すべきは結句の「きっと死なない」というところだろう。「きっと死なない」は「アリは生き埋めにしても死なない生きものなんだろう」という認識として読んだ。実際は死んでしまうアリもいるんだろうし、アリとはいえそういう命の把握をしつつ、さらに主体自身でアリの巣を埋めながら「生き埋めにしても死なない」からアリの巣を埋めても大丈夫、という論理は何処か捻じれていて子どもの視点からの景のような気がする。
ただ、この歌を全体比喩として、このくらいでは死なないと解っているから受難を与え続ける残酷な神のようにも読むことができる。神の試練、というのは大して理由などなく案外こんなものなのかもしれない。

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