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2020/8/23(うたの日366)

トトロって鳴く生き物がトトロなら僕はさしずめスミマセンかな/長谷川伝
(2019/5/1「トトロ」)

「トトロ」部屋の短歌なのだけれど、まずトトロと自虐を取り合わせる発想がなかなかなくてすごいな、と思う。実際、この部屋でトトロをこういう風に抽出しているのはこの歌だけである。実際、自身の思い出とかノスタルジーを絡めてつくりやすいお題なので、全くそのフレームに入れてつくっていない新しさがある。
かつ、細かい部分で上手な歌だと感じる。「トトロって鳴く生き物がトトロなら」で、そういえば確かに命名のされ方は鳴き声からつけられたわけだし、「スミマセン」もコミュニケーションに失敗してしまったときに発せられる言葉でもある。なので、主体が「スミマセン」という名前で呼ばれていないのは、その法則の世界に生まれなかったちょっとしたラッキー、もしくはバグだとも云うことができる。…個人的にはその、バグの読みの方が面白いかなと思う。「スミマセンという名で呼ばれなくて良かった」というよりかは、完全にコミュニケーションが成り立たない方が怒られもしないわけで、そういう名前で呼ばれた方がもっと生きやすかったのに、というニュアンスがある気がした。また下の句はすごく愛唱性がある。「僕はさしずめスミマセン」はちょっと「あめんぼあかいなあいうえお」のような感じでネガティブなフレーズなはずなのに、口に出しやすくて、耳に残る。ちょっと可笑しいのに、全体的に淋しく、上手い短歌だと思う。

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