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2020/4/26(うたの日366)

前向きな魚の交尾に泣いている(いきをはくことかんがえてみて)/未補

(2018/10/10「自由詠」)


解りそうで、ぎりぎり解らない。でも、なぜかすごく気になって思い出してしまう歌があり、この歌もそんな歌である。
上の句はまだ解る感覚がある。実際、魚の交尾は雄も雌も前を向いて為されるものだし生殖のための行為であるので極めて「前向き」だ。
下の句のバーレーンに入っていて平仮名なのは、言葉にならなかった主体の胸中だろうか。「かんがえてみて」は命令形のようにも思えるが、自分としては言いさしの倒置法(いきをはくことをかんがえてみて泣いている)として読んだ。
しかし、ここから無数の読みがある気がする。ただ、自分としては人間の生殖の暗い面を詠んだとまとめない方がいいと思い、飛躍かもしれないが、片方は魚、片方は人間の異種婚礼としての読みを提示したい。映画『シェイプ・オブ・ウォーター』のような。
なので、この泣いているのは悲しみではなく「前向き」なことが嬉しいのだと読みたい。それまでの主体の、人の間での苦しさから、解き放たれたことに対しての。息を吐くことは息を上手に吸えていないとできない。そういえば『シェイプ・オブ・ウォーター』でも最後、主人公は水中で呼吸するすべを得て魚の神と結ばれる。

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