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2020/4/30(うたの日366)

繋がれた管から洩れる酸素すら僕からとおく逃げようとする/西藤智

(2018/12/15「素」)


状況は幾つか想像できる。酸素ボンベを背負って海中にいるのか、宇宙空間にいるのか。…自分としては病室で酸素吸入器を付けられた状態かと呼んだ。
下の句から、きっと主体は長くないなと想像させられる。「逃げようと」という言葉選びから、「吸い込めない」という意味以外に、主体が酸素分子をマイクロレベルで捉えているような雰囲気が生まれている。そのため、見えているのに吸い込めないという絶望感と、健常なときとはもう見え方が違ってしまっているようにも読める。
この歌を知った当初はその下の句のフレーズが良いなあ、と惹かれたのだけれど、今読むと、また違う感覚がある。人工呼吸器に繋がなければ死に至るケースの肺炎の存在が、やはりどうしてもちらついてしまうからからだろう。日々、無意識で行っているはずなのにその「息ができない」という感覚は「僕からとおく逃げようとする」ものなのかもしれない。

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