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2020/2/25(うたの日366)

つり革に身を委ねている青年のもっと遠くにある目的地/田村わごむ
(2018/10/18「身」)

事実そのままを詠んでいるはずなのにすごくかっこいい。言葉の選び方やシチュエーションが上手く、云わないでも青年の「もっと遠くにある目的地」というものの果てしなさをイメージできるようになっている。
ひとつずつ解いていくと、まず、電車に乗っている景を「電車に乗っている」や「電車の中」などといった言葉を使わずに表現しているのがいい。「つり革」を出すだけで電車の中の景として解るし、かつ、つり革にはネガティブなイメージが潜在的にある気がする。それを利用して、なんとなく現状に不満であるような(そしてそれも具体的には書いておらず)青年を描写することに成功している。また、電車に乗っているひとは常に目的地に辿りつくまでの途上であるということにも気づかせられる。が、青年はきっとこの電車が辿り着いたところは自分の本当の目的地ではないのだろう。「もっと遠く」は土地のようでもあり、心のなかにあるようにも思える。…細かいけれど、つり革につかまっている状態は前向きではなく、車体の横からの流れてゆく景色しか見えない。ただ過ぎてゆく景色を見つめつつ、今はどうすることもできない状態を感情を出さずすごくフラットに描いていて上手い。…自分はどちらかというとネガティブな読み方をしたのだけれど、ひとによってはポジティブにも読める、多様な歌だと思う。

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