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2020/3/18(うたの日366)

この星では狂っちゃだめだと言い聞かせネギを刻んで刻んで刻む/遠藤健人

(2019/6/27「我慢」)


一読してすごく怖くなった。が、怖い短歌はいい短歌だと穂村弘も云っていて、これもすごい短歌だと思う。
上の句と下の句、どちらだけ読んでも怖くて、合わさることによって増幅されている感じがある。着目するところはまず「この星では」で、刻んでいる主体が、別の星から来た宇宙人として読むこともできる。宇宙人がこの星のルールに必死で溶け込もうとしているような。それだけではなく、発狂した前世がある、また本当は地球人だが、先日紹介した御殿山みなみ氏の「宇宙人だなと会社でわらわれて夜UFOへ帰る 電車で」的な「宇宙人」かもしれないと想像が膨らむ。この時点でかなり楽しいが、それは読みを限定させない情報の出し方をしているからだろう。
また「ネギを刻む」行為を持ってきたのがとても良く、ネギは味噌汁に入れるため毎日刻むイメージがある。主体は狂わないように必死になっているが、刃物で自分や誰かを傷つけたりはしない。ひたすらネギを刻むところに、それでも日常を維持しようとしている意思が読み取れる。毎朝のルーティーン的にネギを刻んでいる自分も気が付いていないだけで、おかしくなっているのではないかと、考えさせられる。さらに白葱の断面はスマイルマークに似ていて、刻めば無限にスマイルマークができることにも気がつき、この歌がもっと怖くなった。



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