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2020/3/25(うたの日366)

トンネルの出口に瞳 ああ僕は万華鏡の中にいたんだ/いぬ

(2018/7/11「トンネル」)


上の句から下の句への転換がすごい。「トンネル」だけ出てくると自分の周囲が真っ暗である状況を想像してしまうのだけど、下の句を読むとそういうわけではなくて、とてもきらびやかだったことが解る。また、江戸川乱歩の『鏡地獄』のような怖い感じのシチュエーションにも読めるし、ファンタジーっぽいシチュエーションにも読むことができて、多彩な読みが可能な歌だと思う。…自分としては、自分がそういうのが好きだということもあるけれど、子ども時代の終わり、のような感じで読んだ。周囲から愛されていた世界のなかで楽しく生きてきて、その世界がそれまで全てだと思っていた。でも、実はそういう訳ではなくて、その世界の外側にも実はもっと大きな世界があって、いつまでもここにはいられないことが解った…というような。どちらかというとポジティブな読みをしたのだけれど、西遊記の孫悟空が、実はお釈迦様の手のひらにいたように「万華鏡の世界の中」で「騙されていた」的な、読みもできるのかな、と思った。
読みがいくつもできるので、それゆえに読んだひとそれぞれの空洞に収まってくれるような歌だと思う。それまでの世界に騙されていたとしても、その間の綺麗な風景も想像させてくれる素敵な歌だろう。


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