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2020/4/23(うたの日366)

太平洋高気圧から吸いこんだエアを浮き輪に口移しする/久哲

(2018/5/2「圧」)


かっこいい。浮き輪を膨らます歌、逆にその空気を抜く歌はうたの日の中でも無数にあるけれども、これはその中で一番好きです。…浮き輪を膨らましたり抜いたりする動作と一緒にそこに感情表現を入れたり、もっと具体的に夏のはじまりだとか終わりだとかの要素を入れ込むのがセオリーのような気がするのだけれど、これは本当に、ただ膨らますだけの歌。でも、その膨らます動作を描写する言葉がめっちゃかっこいい。
個人的に理系のごつっとした歌を取り入れる歌が好きなこともあるものの、浮き輪に空気を入れる動作を「太平洋高気圧から吸い込んだ」とすると(実際その通りで、すごく天気のいい日に呼吸をするだけでわたしたちは太平洋高気圧から空気を吸い込めるにも関わらず)、なんだか宇宙と一体化する感じがある。また空気ではなく「エア」というと同じ空気なのに全然違う空気のような雰囲気がにじみ出る。かつ、「膨らます」ではなくて「口移しする」で、宇宙の一部をわたしたちがいったん取り込んで、それを浮き輪に与えている感じがする。手の付けられないほど大きな宇宙から、アナログな手作業を得て夏が出現してくる仕組みが面白い。また、夏という具体的なワードを入れていないのに、背景に夏が広がっていてテクニックを感じられる歌だと思う。


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