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2020/8/15(うたの日366)

食パンを一枚握ってつぶしても私が買ったものだから良い/小川けいと
(2019/8/22「私」)


食パンなのがすごく効いている歌だと思う。例えば、あんぱんはクリームパンだったら、柔らかいし、握ると解りやすく中身がはみ出たりするのだけど、食パンはそれがない。ただ潰れるだけで手ごたえがない。かつ、あと4枚か5枚はある。残機みたいでちょっと怖い。また、読みがいくつかできるけれどそのどれもが、うっすら怖いものになると思う。
一読した際は、食パンを潰したのはどうにもならない苛立ちや怒りからで、それを生じさせた相手がいるとしても、相手ではなく自分へと八つ当たりをしているように読んだ。相手の所為にしたら良いのに、それができなくて自分の情けなさを責めてしまっているのかな、と。「私が買ったものだから良い」は「私の心なのだから、どうしようが私の勝手だろ」というような、自暴自棄な気持ちではないだろうか。「自分をもっと大切にしなよ」というアドバイスに「私の何を解っているんだ」と跳ね返してしまうような心持ちになっている気がした。…だが、これは自分に対しての激情ではなくて、肉親に対しての怒りのようにも読めるとも思った。例えば、自分の子供へ向ける冷ややかな怒り。虐待、とまではいかなくても、自分の子供を自分の好きなように扱う感覚として「食パンを一枚握ってつぶ」すというのは、恐ろしくもあり、でも腑に落ちる比喩だと感じる。


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