見出し画像

2020/3/21(うたの日366)

冬の駅かすかな咳が暗闇をなお暗くして上る階段/カシオペア

(2018/11/6「咳」)


描写に徹している歌で、実際にあり得るような景だし「咳が暗闇をなお暗く」は読んでいても腑に落ちる。にも関わらず、なぜか怖さのある歌になっている。
なぜ、そのように読めるのか考えてみたところ、駅にはたくさん人間がいて然るべきはずなのに、そういう風に感じられないからだろう。「かすかな咳」でしか人間が出て来ず、その咳も主体がしているのか周りの誰かがしたのかは解らない。なんとなく「咳をしても一人」の自由律俳句のイメージが底に流れているような気がする。本当は大勢が駅にいるのだろうけれど、みんないっとき同じ電車に乗るだけの人間である。誰かが咳をしても、スルーするだろうし、する側も迷惑をかけないように抑えてする。それが、よりそれぞれの孤独を浮き上がらせているように感じられる。
また、この歌が怖く思える一因には、地下からの階段を上がっているはずなので、現実的には今よりも明るくなるはずなのに「暗闇をなお暗くして」となっている所為もあるだろう。感情を描写していないのに、先の見えない、何処へも辿り着けない感じが強くある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?