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2020/3/28(うたの日366)

「おはよう」と今にも夢から醒めそうなあなたの通夜で火の番をする/澪那本気子

(2018/12/11「火」)

死者や病気の人を詠むと詠み方によって「あざとさ」が出てくることもあるのだけれど、この短歌はそれがない。素直にうつくしいと思う。
上の句は意外に情報量が多く「「おはよう」と今にも夢から醒めそうな」のはその最後の姿が綺麗だったからということや、予期された死ではなかったのだと読み取れる。また、火の番をしていてかつ「あなた」という呼び方から、棺で眠る存在は主体とかなり近しい存在だったのだろう。死に対して覚悟や準備などできるものではないだろうけれど、それでも唐突な死はとても受け止めきれるものではないと思う。…こういうシチュエーションのとき、あざとさにかなり敏感なので、感情を表す語選びをかなり見てしまう。が、主体の動作だけで、感情は火に託されている。線香の火を絶やさないようにするのが、火の番の役割だろうけれども、「あなた」がいつ夢から醒めてきてもいいように火を灯し続けている雰囲気がある。さらに「火の番」という言葉を使っているので、絶やさないのは線香やろうそく以外に、自分のなかにある思いを火に喩えている気がする。
悲しみがあふれているのに主体の毅然とした強さがあり、とても好きな歌。




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