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2020/6/18(うたの日366)

常識が崩れ去る日の空は青 髭の剃り方忘れた父よ/朧(ろう)

(2019/10/30「常」)

上の句も下の句も、たとえ自分が経験したことでなくとも頷ける気がする。「空は青」と「髭」は底の方でゆるく繋げられやすくて、イメージの選択も上手い。また、世界というのは限りなく自分中心に回っているのではないということがよく解る。自分の「世界」が壊れてしまってもその外側の「世界」は関係なく回っている感じが出ている。
特に「髭」は日課として剃らなければならないものであるし、誰かと会うため、外出するために、社会と結びついている必然の作業だ。それまで剃っていたはずなのにそれを「忘れて」しまうことなどあるはずがないはずのに、有り得てしまう世界はすごく怖い。髭ならば特に、剃らなければそのひとの表情すら変えてしまうだろう。…「常識が崩れ去る」のは主体の外側の世界であるとともに「父」の内側でもある。青空はおそらく、変わってしまった表情の奥にもあるのだろう。…自分も祖母の家に行った際、風呂場に枯葉が溜まって、窓が開いたままでどうも数か月は入ってないのではと思われる光景を見たことがある。生きていくうちに何度も常識は崩されてゆくのだろうけれど、それに慣れることはないのだろうな、とも思う。怖くもあるけれど、大いにうなずける好きな歌です。


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