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2020/2/9(うたの日366)

わたくしはこの世にひとり雨粒は輪廻のことをルーティンと言う/杏野カヨ
(2019/2/2「ルーティーン」)

下の句がめちゃくちゃかっこいい。発見の歌だと思う。雨が地球を循環しているのはよく歌の中でも使われたりするけれど、でもそれはわたしたちから見た視点で、雨にとっては単にそれは決まりきった「ルーティン」でしかない、ということが新しかった。いってみれば本当にその通りなのだけれど、雨の循環を「輪廻」として見ているのは人間の感傷でしかない。
また「ひとり」という云い方も独特で上手い。雨の一粒一粒が個人ではなく、ルーティーンを繰り返し、やがて海へと戻っていって蒸発する、全体であることが浮き上がってくる。
輪廻というものが存在するとして、過去の記憶がそのままだったとしても、わたしたちはずっと個人のままでひとつにはなれない。…個人的にはそこから人としての生まれてしまった悲しみのようなものを読んだのだけれど、この歌自体は上の句も下の句も事実のみ書いていて、雨粒の方に感情移入するか、「わたくし」の方に感情移入して読むかは自由だと思う。人としての一度きりの生を自覚して今を生きなければ、というようにまた別の、前向きな読み方もできるだろう。

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