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2020/3/23(うたの日366)

蓮根をさりりと噛んで歯切れよく切り出したかった死体の話/魅録

(2018/6/19「蓮根」)


すごく怖い。「死体」とあるだけなのでなんの死体なのか(人間なのか、犬なのか猫なのかそれとももっと広く食材の話なのか)解らない。それも自分で何かを死体にした話なのか、なにかの比喩として死体の話をしたかったのか、それも解らない。だが、それにしても「蓮根をさりりと噛んで」から、食事中なのは間違いなく、食事中に「蓮根を噛んで」から「歯切れよく」切り出したかったという発想に驚く。
蓮根を歯切れよく切り出したら、何か相手の受け取り方が違うのではと考えたのだろうか。自分がなんとなく勢いづくだけで、「死体の話」の内容自体は全く変わらないはずなのに。この主体が違う仕組みに従って生きてる人間をさらっと描いていて上手い。
また、短歌は大事なことは最後の方で云った方が良いとされているけれど、これなどは「死体の話」というパワーワードにたどり着くまでは、ちょっといい話かもしれないと思わせる雰囲気がある。一読して「死体の話」に、え?と思ったあと、もう一度読んで上の句がじわじわ沁みてくる。蓮根の穴だらけの見た目と死体と、主体の飛躍した思考がどうしてだか解らないのに相性が良く、すごい短歌だと思う。



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