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2020/2/29(うたの日366)

ころされる夢はいい夢らしいよとぼくをころした人がいう朝/nu_ko

(2019/1/11「自由詠」)

なんだか不穏ないちにちが始まりそうなのに、どうしてか微笑ましい景のようにも読めてしまう、不思議な歌である。仮名にひらいている部分と単語の繰り返しでやわらかい印象にしていることと、不穏な夢の内容がそれと打ち消し合っていいところに落ちついているからかもしれない。
「ころされる夢」を見たのは「ぼく」か「ぼくをころした人」どちらとしてでも読めるのだけど、自分としては「ぼく」が見たのだとして解釈した。夢の内容にうなされて目覚めて相手にどんな夢だったのか訊かれる。さすがに相手にころされる夢だったとは云えないので結末だけ話すと「ころされる夢はいい夢らしいよ」と返される。…相手が誰だか教えても同じようなことを云えたのか。予知夢のように変にリアルだけれど、いや、でもきみにころされるんだったらハッピーな人生かもしれないな…と、いうような「ぼく」の心の動き(この間おそらく無表情)を想像して読んだ。
実は歌のなかにあんまり情報量がなく、こう云われたらこう思う、みたいな共通感覚を上手く利用している歌だと思う。想像する余地も多くあり、例えば夢の内容の詳細はなく「ころされる夢」だったことしか解らないのだけれども、描いていないからこそめちゃくちゃ酷いころされ方だったんじゃないかと逆に考えてしまう。
一読して、すっと入ってくるし、それこそ短歌をふだん読んでいるひとじゃなくとも頭に残るような歌だと思う。

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