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“媒介者であること” 宿 une hotel & diner

丹波篠山の中心地は城下町の文脈を今でも色濃く受け継いでおり、武家屋敷や商家だったものが街並みを構成している。山陰地方と京都を結ぶ要所であったため所々に旧京文化が垣間見え、流通に乗った特産品は黒豆や丹波焼をはじめ全国的な評価を受けることとなった。

une hotel & diner は中心街の入り口にあたる交差点の一角に位置し、木材問屋だった木造二階建ての建物を改装した棟貸しの宿である。外観はピスタチオカラーのモルタル壁に包まれたユニットと、宿泊機能の大半を担っている家屋ユニットに分かれており、それぞれがファサードとして向かう道路に違う表情で答えている。

モルタルユニットの一階にある雑貨店のスタッフに声をかけると、裏口のようなレジカウンター横の扉を案内され、ダイニングスペースにてチェックインを済ませる。

室内を見回すと松本民芸家具があちこちに身を置いている。丹波篠山とは異なる地の民芸家具であるが、その親和性は非常に高く、文脈の幹から派生した枝葉のように随所を彩っている。

「女性が安心して時間を過ごすための宿」と銘打っているものの、女性に対してラグジュアリーな設備やサービスが用意されているわけではない。

余計なものは置かれず、ただそこに横たわっている時間に身を任せる。大切なことはおそらく性別の違いではないのだろう。未踏の地である旅先に他でもない自分だけの居場所があるということに意味があるのだ。安心できる環境がなければ、感性を十分に働かせることができない。

une の活動は宿という枠からは大きくはみ出している。キッチンスペースと中庭にある小屋は各種イベント、ワークショップに用いられており、webメディアは県内外問わず、出会うようにして出会った方たちとの記録を、日記のように丁寧に収めている。

本当に大切にしたいご縁を紡ぐ。宿はそんなご縁を呼び寄せるための箱であり、媒介者としての表現手段に過ぎないのだ。

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